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より姫ちゃん生誕祭 第二幕

「亜矢ちゃん、もう行こう。送るよ」


恵太は片膝をつきながら、亜矢の空いてる方の手を取った。亜矢はまだ時々、鼻を啜りあげているけど、もう泣いてはいない。


「恵太くん…」


亜矢は、ハンカチで押さえていた腫れ上がった目で、恵太をちょっとだけ見た。


「家まで、送るよ。もう暗いし」


恵太は立ち上がって、手を引っ張って亜矢を立たせる。


「ごめんなさいー」


立ち上がると、亜矢がまた泣き始めた。


「なんで謝るの? 亜矢ちゃん、泣かないでよ」


恵太は、妹が泣いた時のように、無意識に亜矢の背中に手を回す。抱きしめられて、亜矢は恵太の胸の中で、さらに涙を流す。


「もう、いいよ。泣かないで」


頭を撫ぜながら、恵太が言うと、亜矢が激しくしゃくり上げる。


「ゲームに勝ったら、一緒にお祭りに行ってくれるって言ったでしょ? あの夏、後少しで恵太くんに勝てそうで。侑斗が階段から落ちた日、恵太くんが、次、いつ遊びに来るかって、あの子に聞いたの。そしたら、引っ越しちゃったって。頭にきて侑斗を押したら、あの子、階段から落ちちゃって…」


亜矢を抱きしめながら、恵太は、妹にするように、よしよしと左右に体を揺らした。


「あー、そう言えば、そんな約束したっけか。…亜矢ちゃん、本気だったんだね。だとしたら、引っ越すからお祭りは行けないって言わなかった俺が悪かったね」


亜矢は、グスリと鼻をすすりながら、否定するように首を左右に振った。


「俺が悪かったよ。侑斗にもよく言っとくから。だから、亜矢ちゃん、もう泣かないで」


恵太が言うと、亜矢はもう一度わーっと泣いて、それからしばらくして、静かになった。


「…大丈夫。もう、帰れる」


そう言って、亜矢は、バツが悪そうに恵太から体を離す。


「送っていくよ」


恵太が言うと、亜矢は、ん、わかったと、恵太の少し後を歩き出した。



「…恵太!」


茂みに隠れて成り行きを見守っていた侑斗の口を、山田がとっさに塞いだ。


「お前! アホか! 恵太の一生に一度、あるかないかの珍事だぞ。絶対に、邪魔はさせん。…空気を読め!」


山田に空気を読めと言われて、侑斗はムッとする。


「あんたも結構なコミュ障だもんね。山田に空気読めって言われるって、どんだけよ?」


佐田が笑って突っ込む。


「うるせー。話しかけんな!」


山田に押さえ込まれて、しゃがみ込んでいた侑斗の肩を、佐田が踏みつけた。


「 いい加減にしな。あんたが一番、人を見た目で判断してるんだよ。私があんたに何かした? 何もしてないよね? むしろよく今まで我慢してやったと思ってんだけど? 今までは見逃してきたけど、金輪際、そんな態度は、許さないからね」


佐田は、筋肉ムキムキの仁王像さながら、侑斗を踏みつけ、睨みつけている。


「もう、厨二病も、大殺界も、終わりだよ。そこから、あんたが、自分で、抜け出すんだ。あんたには、恵太も、山田も、私もいるでしょ。それに、世間には、優しい人の方が多いんだからね。…こっから先はあんた次第だよ」


ぽかんと口を開いて、佐田を見上げていた侑斗が、しばらくしてから口を開いた。


「…佐田、お前…。パンツ、黒…?」


佐田が、思いっきり蹴飛ばすと、侑斗はうわぁと叫んで、後ろ向けにゴロンと転がった。


「よし! 仲直りだな? お祝いに、より姫ちゃん生誕祭、第二幕の開幕だ!」


えー、嫌だ!と言う佐田に、山田が、仲直りの記念だから、我慢しろ!と諭す。侑斗が、家に帰りたくないから行くと言うと、山田がカラオケ代を全部出すと豪語した。佐田は、奢りならいっか、でも今度は私も歌うからねと主張して、三人は駅に向かって歩き始める。

わぁわぁとうるさく騒ぎながら、三人は、もう一度、カラオケ屋に吸い込まれていった。

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