三銃士?
佐田は、恵太と山田の腕をがっと掴んで、真中姉弟の方へと近づいていった。
「二人とも、ちょっと聞いてください!」
一応、片方が先輩がなので、珍しく佐田が敬語を使う。
「いいですか。川上がこう言ってます。『仲直りしねーと、二人とも絶交だからな!』」
いや、俺、そんなこと一言も言ってねーし、と言おうとしたら、佐田に思い切り背中を叩かれた。わかってんだろうな? という目をして。
山田を見ると、メガネを光らせて、サムズアップしている。
…やるしかないのか。
恵太は意を決した。
「えっと、仲直りしないと、二人とも、絶交だから…な?」
これでいいのか? と佐田と山田の顔を見ると、二人とも、よくやったと頷く。
「なんで、俺が絶交さんなきゃなんねーんだよ。亜矢、お前がどっか行け」
侑斗が反論する。
亜矢ちゃんは、肩を縮めてじっと黙っている。その綺麗な目から、今にも涙がこぼれそうだ。
「いや…。嫌…。それだけは、いや…」
亜矢ちゃんの目から、ついに一筋、涙がこぼれた。
「お前、ずるいぞ! 泣いたって駄目だからな!」
いや、泣いてるのに、さすがにそれはないだろう。
恵太は、はーっと大きくため息をついた。
「侑斗、お前、ちょっと黙っとけ。佐田、亜矢ちゃんを、どっか座らせよう」
本格的に泣き出した亜矢ちゃんを、佐田がベンチに連れていく。
ベンチには亜矢ちゃんと、その背中をさする佐田。その前に山田、恵太、侑斗が立つ。
「…ごめんなさい。本当に悪かったと思ってるの。…わざとじゃなかった」
亜矢ちゃんは、涙をぬぐいながら、侑斗に訴えかける。
「でも、お前、俺を階段から突き落としたよな?」
「…」
亜矢ちゃんは、反論しない。紛れもない事実なのだ。
「あんなことするなんて、お前、どんなねーちゃんなんだよ? 鬼か?」
「…」
亜矢ちゃんが、黙ってしまったので、みんなも自然と沈黙する。少し沈黙した後、亜矢ちゃんが、やっとのことで話し出した。
「だって、侑斗、恵太くんが引っ越すこと、教えてくれなかった」
「はぁ? 恵太の引っ越しが、なんでお前に関係あんだよ?」
「侑斗…、黙っとけ」
恵太に言われて、侑斗が渋々引き下がる。下を向いて泣き続ける亜矢ちゃんと同じ目線になるように、恵太は地面に片膝をついた。
「恵太くんが、引っ越すって、…知らなかったの。送別会も山田くんの家だったし、あの日まで、本当に何も知らなくて…。引越しの翌日に、初めて聞いたの…。私、嘘だと思って。…びっくりして侑斗を押しちゃったの。そしたら、侑斗、階段から落ちて…」
そこまで言うと、亜矢ちゃんは、堰を切ったように泣き出した。
「だから! なんで、そこで俺が落とされなきゃいけないんだよ!」
亜矢ちゃんは、しゃくりあげながら言った。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。でも、ひとこと言いたかったの」
侑斗が、イライラして言った。
「何を?」
「恵太くんに、好きだって」
亜矢ちゃんを除く三人の、飛び出さんばかりの目が、恵太に注がれた。
「えっ? ちょっ…、お前。何言ってんの? 恵太は俺の友達だぞ?」
「あんたの友達とか、関係ない。それに、あんたが友達になるより前に、私の方が好きだった」
全て吐き出してスッキリしたのか、亜矢ちゃんの涙が止まった。目は真っ赤に腫れていたが。
「はぁ? 俺と恵太は、年中さんからの友達だぞ。お前が先のわけねーだろ!」
亜矢ちゃんは、キッとした目で侑斗を見上げた。これだけは譲れんとばかりに。
「私は、恵太くんが年少の時から好きなの!」
そう言うと、亜矢ちゃんは、恵太を見て、顔を赤らめてから、目を伏せた。
その赤さが、恵太の、頭のてっぺんから、足先まで、一気に感染して、恵太はじわりと全身に汗をかく。
山田が、こほんと咳払いをした。
「えー、皆様、ここはひとまず、解散ということで。侑斗は佐田と、俺について来い。話がある」
そういうと、山田が、…空気を読むということを一切しないあの山田が、二人を連れてその場を後にした。