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揃い踏み

「なーにしてるの?」


一番下の妹がよく見ている、カモノハシのエージェントが出てくるアニメのキャラと全く同じセリフを、まや先輩が言った。アニメのキャラは、笑って可愛らしくいうけど、まや先輩の顔は笑っていても、目は全く笑っていなかった。


「二人で、何してるの? デート?」


まや先輩は、恵太に、というよりは、佐田に向かって聞いた。


「えっ、いえ、あの、違います」


まや先輩の気迫に押されて、あの佐田がしどろもどろになっている。


「恵太くん、今日、用事あるって言ってたの、佐田とだったんだね」


まや先輩の笑わない目が恵太に向いた。

恵太は今日、まや先輩からの誘いを断って、ここに来ていた。


「えっと、みんなが俺の歓迎会をしてくれるっていうんで…」


悪いことなんて何もしてないのに、恵太までしどろもどろになってしまう。


「みんな? どこに? 二人でケーキの食べ合いっこしてたように見えたけど?」


佐田は、ガチガチに固まって、下を向いてしまった。


気まずい。

悪いことをしていないのに、なんだかとても気まずい。

この雰囲気はなんだ。


山田、早くトイレから戻ってこい!

誰でもいい!ここから助けてくれ!


そう思った瞬間だった。


「おい!何してんだよ!」


まや先輩の腕を、後ろから誰かが掴んだ。


「お前!俺の友達に絡むなよ!」


侑斗だ。


まや先輩が侑斗を振り返ると、二人の敵意のこもった目に火花が散る。


「お、早速なんだ? 修羅場か?」


トイレから帰ってきた山田が、呑気にハンカチで手を拭きながら、席の方へ歩いて来た。


「佐田、ケーキのお返しに、お前が帰ったって言って、侑斗を呼んでやったぞ。早速、修羅場だな」


相変わらずとぼけた調子で山田がいうと、お店の人が近づいてきて、お客様、他のお客様もいらっしゃいますので、と暗に退店を要求された。

恵太と佐田はケーキをほとんど全部残して、店を出る。


まや先輩の二の腕を強引に引きずって公園まで移動すると、侑斗は、まや先輩を乱暴に突き離した。


「俺に関わるなって言ったよな」


まや先輩は、ぶすくれた顔をして侑斗を睨みつける。


「高校では、お互い、関らないって決めたよな?」


「それはそうだけど…。でも、恵太くんは…」


「恵太はお前の友達じゃねーよ!」


侑斗がマジでキレている。


「あんたの友達だったら、話しかけたらいけないの? それに、佐田は私の後輩だし…」


まや先輩の一言は侑斗を余計にイラつかせたらしい。

侑斗の怒りのボルテージが上がるのが傍目にもわかる。


「お前と関わると、ろくなことないんだよ!」


「でも…!」


「でも、じゃねーぞ。亜矢! お前のおかげで俺が中学ん時どんだけ苦労したと思ってんだ!」


山田と恵太の間にいる佐田が、ボソボソと解説を始める。


「そういや、真中、中学の時、まや先輩が、男の影なんか微塵もないくせに、告られても、好きな人がいるって振りまくるもんだから、男子の先輩たちから軽くいじめられてたわ。自分もモテて、やっかまれるし。山田も恵太もいなかったし、あいつ、ちょっとかわいそうだったな」


へーというのは山田。山田は中学から私立だから、恵太と同じで侑斗の中学時代をほとんど知らない。


「だから、あんたのいないところで、恵太くんに話しかけてるんじゃない!」


すぐに二人のバトルが再開した。


「はぁ? 恵太は同じ学校だぞ? 恵太にちょっかい出すってことは、俺に関わってるようなもんだろーが」


まや先輩は、言い返せず、ぐぐぐと言葉を飲み込んだ。


「いいか? もう絶対、恵太にちょっかい出すなよ? 金輪際、話しかけんな? 目も合わせんな? わかったか?」


まや先輩が叫んだ。


「それだけは無理! あんたのいうことなんて聞けない!」


侑斗はきつい目でまや先輩をにらんだ。


「お前のわがままには、ほんとうんざりだよ! いい加減にしろ! 姉ちゃん!」


恵太は、とっさに山田と佐田の顔を見た。

二人とも、今の言葉に全く動じず、ただじっと、事の成り行きを見守っているだけだった。

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