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より姫ちゃん生誕祭

「ちょっと、そんな曲ばっかり入れないでよ!」


佐田が山田からリモコンを取りあげようとする。


「うるさい。今日はより姫ちゃんの生誕祭だぞ。全曲歌い上げて、お祝いしなくて、どうする?!」


山田が佐田からリモコンを奪い返す。


恵太と佐田は、恵太の歓迎会を名目に、山田から地元の駅前に呼び出されていた。

しかし、実際は、さっきからずっと、より姫ちゃん生誕カラオケパーティーに付き合わされている。

山田がこよなく愛するアニメキャラ、より姫ちゃんは、今日がお誕生日らしい。

より姫ちゃんへの愛を歌い続ける山田を横に、恵太はチラチラと携帯を気にしていた。


「真中、やっぱり来ないって?」


カラオケの主導権を諦めた佐田が、恵太の携帯を覗き込む。


「最初は、来そうな感じだったんだけどな」


「私が来るって言ったからか…」


佐田はそう言って、難しい顔をして天井を見上げる。


「昔の友達が集まるんだし、つまらないこと言ってないで、こればいいのにね。あいつの厨二病、ほんとウザいわ」


恵太も、今度ばかりは佐田の意見に賛成だ。

子供の頃、仲がよかったメンバーで久しぶりに集まるのだ。

その中にちょっと一人、綺麗な女子がいるからって、それだけで来ないなんてどうかしている。


「もう一回連絡してみるわ。気が向いたら来るかもしんねーし」


佐田は、恵太の顔をじーっと覗き込んだと思ったら、ニカッと笑って、頭をぐしゃぐしゃと捏ねた。


「あんたって、外見はアレだけど、いい男だよね。真中は、あんたが友達で幸せだよ。あとは、あんたの良さに、気づいてくれる女がいればねー。って、そんな物好き、なかなか現れないか!」


色々失礼だと、突っ込もうと思ったけど、相手が佐田である以上は仕方がない。

外見以外は、まぁそれなりに褒めてくれてるし、佐田のクソ正直なところも俺は結構好きだよと、心の中で礼を言っておくことにする。


より姫ちゃん生誕祭に三時間ほど付き合わされて外に出ると、もう夕方だった。


「お腹すいたー。今日は川上の歓迎会なんでしょ。せっかくだから、ケーキでも食べようよ。山田のおごりで」


なんで俺のおごりなんだよ?!と言う山田を、佐田は、より姫ちゃん生誕祭に三時間も付き合ったんだから、そのぐらいしろ!と小突いている。


「わかった。歓迎会である以上、恵太の分は俺が払う。佐田は自分で払え」


なんだとー、と拳を振り上げる佐田から逃げ切れず、山田がポカリと頭を叩かれる。


「いや、いいよ。自分の分は払うし。それより、腹減った。店入ろうぜ」


夕方とはいえ、今日は気温が高くて暖かい。三人は通りに面したテラス席を選んで座った。山田はショートケーキ一決、佐田は迷った末にいちごタルト、恵太はなんとなく気分で抹茶チーズケーキを頼んだ。


ケーキが運ばれてくると、佐田の口からもアレが出た。


「二人とも、一口ちょうだい」


「やだよ! これは全部俺のもんだ!」


「今日一日、付き合ってやったでしょうが!」


佐田は容赦無く山田のケーキにフォークを突き刺し、口に入れた。山田が悲痛な声を上げるが、時すでに遅し。ケーキは佐田の胃袋へと降りていく。


「くっそー。なんて女だ」


山田はこれ以上ケーキを食われてなるものかと、ガツガツとケーキに食らいつき、あっという間に平らげてしまった。そしてすぐ、トイレに行ってくるといって、席を立った。


「川上も。一口ちょうだい」


嫌だといっても無駄なのはわかっているから、恵太はおとなしくケーキの皿を佐田の方へ差し出した。佐田は、三角形の一番尖った部分を切り取って、口の中で抹茶ケーキがとけるのを楽しんでいる。


「濃くてまろやかで、すごく美味しいよ。川上も、一口あげる」


そう言って、佐田は、自分のフォークでイチゴタルトの一片をすくい、恵太に差し出した。こういうところを見ると、佐田もやっぱり女子なんだなと思う。


「いや、いいよ」


恵太が断ると、佐田は遠慮しないでと、恵太の口に無理やりフォークを突っ込んだ。女子のお返しというのは、時にすごく押し付けがましい。仕方なく、恵太はケーキを食べた。


甘酸っぱいいちごタルトを頬張っていると、テーブルに人影がさした。


誰かと思って見上げると、まや先輩が、すぐ横に立っていた。

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