ゲームセンターの戦い
あの人だよ!そう言った後、山田はこう付け加えた。
「侑斗がおかしくなった理由は、絶対、あの人だ。ええと、確か…」
山田が、後ちょっとで名前が出そうという顔をして、口をパクパクさせる。
恵太が、助け舟を出した。
「まや先輩?」
「そう、まやさんだ。あの人と侑斗の間には、ほんとに色々あったからなー」
「色々ってどんな?」
「そんなこと、俺が覚えてるわけないだろ!」
山田はガチの理系で、自分にとってどうでもいいことは、全く記憶に残さないという特技を持っている。これ以上追及したところで、開き直った山田からはもう何も引き出せない。
「とにかく、あの人と仲直りして、うまくいかない限り、ダメだろうな」
山田は必要なことは全部伝えたというように、ズゴゴゴと音を立ててシェイクを吸い込んだ。
「恵太くん、私、ゲームがしたい」
いつもなら、恵太のマンションの近くで、バイバイと別れを告げるまや先輩が、今日はゲームセンターに行きたいという。
恵太は、山田に会った後、まや先輩と少し距離を置いていた。
誘いに応じる回数を減らし、ラインの返事も意図的に減らした。
山田の話からすると、侑斗とまや先輩は、過去に親密な仲にあったが、何かがあって、こじれているらしい。
つまり、侑斗の美人嫌いの原因は、おそらくまや先輩で、二人の仲が元どおりにならない限り、侑斗の女子に対するあの態度は治らない。
最初は、単に、まや先輩が侑斗に気持ちを寄せているだけと思っていたが、そういう事情なら、恵太も出方を変える必要がある。今までどおり、まや先輩のペースに巻き込まれていてはいけない。
侑斗がどう思っているか。
友達として、それが、一番重要になってくる。
「ゲームセンターですか? 今日は、家のことしないといけなくて…」
恵太が暗に断ると、まや先輩は、両手を合わせて拝むそぶりで訴える。
「お願い!一回だけでいいの。どうしてもやりたいのがあって」
恵太は、思わず軽いため息をついてから、しまった、と思う。
まや先輩が、すごく不安そうな顔をしている。
「わかりました。一回だけですよ」
まや先輩の頬が、少しほころぶ。
ゲームセンターに入って、まや先輩が向かった先は世界的に有名なキャラのカートゲームだった。
「これがやりたいの」
どの家にもありそうなゲームだから、家でやればいいのにと思ったが、まや先輩は早速座って準備を始める。
「本当に、一回だけですよ」
恵太がいうと、まや先輩は、気合の入った顔をして、わかったと頷いた。
…3、2、1、GO!
「GO!」にかぶせて、まや先輩が叫んだ。
「恵太くん、勝ったら約束守ってよ!」
…約束?なんのことだ?
わけがわからないながらも、恵太は反射的にゲームに集中した。このゲームは恵太の得意ゲーム。侑斗にも、山田にも、佐田にも、誰にも一度も負けたことがない。普通にやっていて負ける訳が無いゲームなのだ。
結果は、もちろん、恵太が勝った。
思ったよりも、僅差ではあったが。
まや先輩は、健闘したと思うが、恵太からすればまだまだだった。
「そうだ、まや先輩、さっき約束がどうとか言ってましたけど」
「…なんでもない」
まや先輩は、悔しそうに息を切らして答える。
「いや、俺が勝ったんだから、俺のお願い聞いてください」
まや先輩が、憎らしそうな目で恵太の目を見る。
「侑斗と、仲直りしてください。俺ができるのは、ここまでです」
そう言うと、恵太は、じゃぁ、さようならと言って、まや先輩を置いて店を出た。