チート能力を取り返せ! ~中秋の血まみれ団子~
チートな能力が羨ましくて羨ましくて仕方がなかったんだ。あの満月の夜、俺は隣の爺さんの家に忍び込んでチートを取り返そうとした。中秋の名月は、明瞭に俺の勇気を映し出していた。それでも、俺は構わなかった。ずっとずっと憧れてきたんだ。小さい頃からずっと、爺さんが持つ団子に生命を吹き込む能力を見てきた。見続けてきた。俺はもう我慢がならなかった。
爺さんは、その能力で生み出した使徒達を使って困っている人を助けていた。爺さんは皆の人気者だった。それが眩しくて羨ましくて仕方がなかった。俺も爺さんを真似て団子作りを始めたが、俺の団子には命が無かった。出来上がった団子は動くどころか一言も発することは無かった。俺には能力が無かったんだ。それでも諦めきれなくて、何年も団子を作り続けた。だけど一度たりとも俺の団子が命を持つことは無かった。けれども諦められなかった。そうしていつからか、爺さんへの憧れは憎しみへと変わっていった。俺ならば団子をもっと世間のために使う事ができるのに。爺さんより上手くやれる。こんな地方で埋もれたりなんかしない。俺が持つべき能力なのに爺さんが手違いで手に入れてしまったんだ。そんな考えが頭を占めるようになった。
爺さんは油断しきって眠りこんでいた。まぁ当たり前だ。この近辺で、重犯罪が起きた話なんて聞かない。せいぜい交通事故がある程度だ。俺はごくりと唾を呑み込み、持ってきたバールを大上段にかまえた。心臓が今まで聞いたことも無いほど大きな音を立てていた。心臓の音で爺さんが起きてしまわないか怖くなった。起きられたらと怖くて怖くて仕方なかった。その恐怖感が俺を後押しした。俺は勇気を振り絞って、バールを爺さんの頭に振り下ろした。バールの先端が爺さんの頭に突き刺さった。バールから衝撃が伝わり、俺の全身が震えるようだった。爺さんは、一瞬バンと跳ねただけで、それから動かなかった。たったそれだけだった。もっと反応があるかと思っていた。表紙抜けだった。
次は動かなくなった爺さんの腕をノコギリで切り離そうとした。肘と手首の中間ぐらいに刃を当ててノコギリを引いた。だけど、ぐにぐにとして上手く切れなかった。それでもギチャギチャと聞いたことが無いような音を立てながら少しづつ刃は進んでいった。ギチャギチャ、ゲチャゲチャと難儀しながら爺さんの腕を切り離した。
三十分ほどかけてやっと腕を切り離した。次は血抜きだ。腕の断面を下にして物干しに紐を使って吊るした。ぽたりぽたりと血が滴り落ちる。血が落ちなくなるのを待った。まだかまだかと待った。チート能力を取り返す、その時を待ち続けた。血が出なくなったら、水で綺麗にしてやって完成だ。俺のチート能力がやっと帰ってきたんだ。
俺は爺さんの腕を両手に持って、団子づくりを始めた。爺さんの手の平を開いてやって、それでもって粉をこねる。だけど、なかなか上手くいかなかった。いつももっと器用にこねているくせに、俺が持つと上手くいかない。爺さんに反抗されているような気分で、とても腹立たしかった。だけど俺は粘り強くこね続けた。ついに取り返しチート能力なんだと思うと、爺さんの反抗も我慢できる気がした。
いつもよりも長い長い時間をかけて団子をこねあげた。その団子を一個、一個、爺さんの指を使って蒸し器におさめていった。あとは機械に任せて蒸すだけだ。蒸しあがるまで仮眠をとった。寝ずに団子づくりをしていたから疲れきってしまっていた。
ピピピピと蒸し器から音が鳴って目が覚めた。ついに待ちに待った瞬間だ。俺がチート能力を取り返して初の団子だ。機械から蒸し器を取り出すと、いびつな形の団子たちが、つやつやに仕上がっていた。俺は産声を待った。団子たちの産声を待った。だけれども、待てど暮らせど団子たちは動くことも声を発することも無かった。そうしているうちに、朝日が窓から差し込み真っ赤に染まった部屋が鮮やかに浮かび上がった。俺のチート能力が永遠に失われてしまった瞬間だった。
主人公の中では爺さんの能力が爺さん固有の能力なのか主人公から奪った能力なのか曖昧になっているようです。
それにしても中秋の名月と団子の話を書こうと思ったら、スプラッタになりました。不思議ですね。




