2/サイスタート
暗い
やっぱり暗い。
でも、今はただ暗いだけで明るくない。いつの間にか帰ってきていた感覚で感じ取ることができた。
意識が戻ったときには走馬灯は終わり、何かに寝そべっているようだった。俺の体もしっかりとある。自分がいることが久しぶりに思えた。
さっきまでのふわふわした余韻に浸っていると、急に明るさが目に飛び込んできた。
うっすら目を開けると、光が目を占領する。眩しいをとうに過ぎた明るさに、思わずもう一度目を閉じようとしてしまう。
それでもなんとかして目を開けると、最初に見えたのは手術室にあるようなライト。どうやら光源はこれだったようだ。
今度は顔を右に向けると、いくつものベッドが並んでいる。ライトと同じく、こっちも手術に使うタイプだ。
仰向けになっていた体を少し起こす。俺の寝ていた場所も、同じベッドだった。
音もわかる。少しずつ戻ってきた聴力でわかったのは
「心…電………図…?」
どうやら声も出せるらしい。
近くには予想通り心電図があった。もちろん数値は0だけどね?動いてたって俺は死んでいるのだから意味はない。
もう少し周囲を見渡してみる。
他のベッドには誰も寝ていない。
少し先には非常扉があり、緑のライトが点滅している。
「……出てみるか…」
無意識に呟いて歩き出す。
扉にはノブはなく、前に押し出して開けるようだ。
少し強めに力を込め、扉を開く。
現れたのは、これまた病院の受付の様な場所。さっきの部屋と比べてもあまり変わらない簡素さで、机がいくつかあるだけだった。
『受付』という看板があるのに人の気配は無く、電気もついていない。
「…えっと…?」
俺の予想ではここで何かの手続きでもするのかと思っていたのだけれど…。
どうしたものかと机に近づいてみると
≪用事があるなら押してネ☆≫
と書かれた、張り紙付きのボタンがあった。
少し不安があったが、頼れるものがそれしか無いのだ。俺は恐る恐るそれを押した。
『御用だ御用だぁ!御用だ御用だぁ!』
「やかましいっ!」
いきなりの騒音に、思わず耳を塞ぐ。ふと気づくと目の前にはさっきはいなかった人が立っていて、俺が押したボタンに拳を振り下ろしていた。
「…え?」
いきなりの騒音と共に登場してきた人の二つに驚いた俺は、完全にフリーズしてしまった。
「ふぁぁ〜、なんだよったく。こんな時間に誤作動なん…て…?…あれ?お客さん…?」
「あのぉ…受付の方…ですか?」
怯えながら質問する俺を見て、その人はあからさまなため息をついた。
「…ついに幻覚まで見始めたか。
流石にそろそろ休まないとなぁ。
んじゃ、寝ますかね」
「ちょっ、待てい!わかってるよね、もはや目合ってるし!」
「うーむ、幻聴も来たかぁ」
「まだシカトしますかこのヤロー。そろそろこっちも動くぞコラァ」
対応する気の無い係員に掴みかからんとしていたが
「フハハッwwww冗談だよ。
幻聴聞くほど働いてないからねぇ。
君、ノリいいからさぁー。面白くなってきちゃてw
いつもより長くやっちゃったぁ。」
と気の抜けた声でなだめてきた。
っていうかこの人、受付で相手した全員にこれやってるのか?
「深夜になってから始めてだよ。いやぁー、この前何故か深夜勤務にさせられてねぇ」
だろうな。毎回こんなことやってるんだったら移動になるわな。
じゃなくて…このままだとズラズラと続きそうなので、少し強行で質問を続けることにしよう。
「…で、ここはなんなんですか?」
「あれ、お客さん知らない?
んじゃあ教えるね。ここはね、その名の通りの受付ですよ。
霊の進路相談をしてるのさ〜。
…あ、そういえば。」
「そういえば…?」
「一人だけ、まだ受付済ましてないお客さんがいるって聞いてたんだけどね?多分君の事だね。いやぁよかった。報告書偽装しないで良さそう。ま、それはさておき。」
いや、さて置くなよ。
「えっと〜?向井 慧君。15歳…ん?てことは、時期的に卒業直後なんじゃないか?」
…あ、そうだ。俺はそういう名前だったっけ。忘れてたな。
「で、死亡理由はっと…?」
受付係がいう俺の死因。それは、簡単に言えば事故死だ。