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Breidablik-02


 ゼスタが取ろうとしていた石に手を伸ばすのをやめ、岩に座り直した。バルドルは全員が聞く姿勢になった事を確認し、話し始める。


「アークドラゴンが目覚めているのなら、このままでは勝てない」


「勝てないって、何か状況が良くないってこと?」


 シークだけではない。ゴウン達ですら、シュトレイ山にいると推測されるヒュドラに勝てないと言われた。ゴウン達に勝る者がいないのだから、理屈では誰もアークドラゴンに勝てない。


「300年前、君達は魔王を倒したと伝え聞いているよね。でも実際は倒せていない」


「それは聞いた。アダム・マジックの魔法で封印したって。それで、もし復活した時にはバルドルが封印の役目を担うって」


「おいおいバルドル! アークドラゴンは倒してねえのか!? なんだよ、期待してたんだけどな」


「君が封印されたままって事は、つまりそういうことさ」


 ゴーレム封印のために眠りについていたケルベロスは、アークドラゴンが倒されていない事を知らなかったらしい。バルドルが簡単に経緯を説明すると、ケルベロスもまた「まずいな」と呟いた。


「前回は4魔を封印する時、俺っちや他の武器仲間がいた。けど考えてみろよ。今回はバルドルを封印に使うとして、残りの武器はヒュドラやキマイラを倒さねえと手に出来ねえ」


「既に持っていた状況と、武器を取り返すところから始める状況は全然違うんだ」


「うーん、封印が永遠に続く訳じゃないってのも証明されてしまったよね。まあ、そもそもバルドルを封印に使いたくないから、倒したいんだけど」


「それが現状難しいってことなのよね?」


「その通り」


 アークドラゴンを今度こそ倒すとなれば、封印に使用された武器を全て集め、全力で迎え討つ必要があるだろう。そのためには勇者達が成し得なかった「4魔討伐」をやってのける事は必須条件だ。


 ゴーレム戦の場合は運が良かった。ケルベロスが双剣であったおかげで、封印が解けた後も片方がゴーレムを抑えていた。が、残りの武器や盾が今どのような状態にあるのかは不明だ。


 ヒュドラ封印に使ったものは、シュトレイ山の火山湖の中にあるかもしれない。ヒュドラが忌々しいと思って、飲み込んでしまったかもしれない。元の場所にそのまま置き去りかもしれない。もしくは、誰かが既に手にしているかもしれない。


 そういった点でも余計な手間が掛かりそうだ。


「武器を探す、4魔を全部倒すってことか」


「その通り。それがまずアークドラゴン討伐の第一段階」


「第一段階? 武器を揃えるだけじゃ駄目な……あ、そうか、使う人間も強くならなくちゃいけないよね」


「そうじゃないんだ。例えばシーク、僕は君とここまで数ヶ月旅をしてきた。シークは僕の事を信頼してくれているし、僕も君の事を信頼している。僕は君なしではいられない体になってしまった」


「ちょ!? ちょっとバルドル、言い方!」


 バルドルの誤解を生みそうな発言に、シークは慌てて何もやましい事はしていないと主張する。


「そんな事疑ってないわよ。バルドル、続きをどうぞ」


「コホン。だからこそ僕は今日、シークの体を借りて戦うことが出来た。300年前、ディーゴは本当に優秀なバスターだった。僕の事も大切にしてくれた。けれど共鳴は僅かな時間しか出来なかった」


「共鳴?」


「ディーゴの体は僕が操るのに不向きだったんだ。それに、ディーゴにとって、僕は最後まで『武器』だった」


「武器だった?」


「君達で言うところの友達ではなかったのさ。今考えると、持ち主と武器という関係でいるのがお互いに当然だと思っていたんだ」


 相性と言われ、シークは確かにバルドルとはとても気が合うと感じていた。


「ところがシークの場合、僕を無条件に信用してくれている。共鳴はこの部分が一番大きい。シークは口で何だかんだ言っても、結局僕の事を大事にしてくれるんだ」


  喋る珍しい剣だから手放したくない、などという感情ではない。勿論大切に思っているし、手入れは誰よりも時間をかけ、自分の睡眠時間を割いてでも綺麗にする。


 例えば手持ちが心許ない時に、バルドルのために宿代の倍の金を出し、手入れ道具を用意した事だってそうだ。


「別に当然の事だよ。まあ、確かにちょっとバルドルに対して甘いかもしれない」


「え? 味覚の話は分からないのだけれど」


「共鳴って言葉が枯れそうな会話ね……」


 シークのそれらの行動は、決してバルドルに媚びるものではなかった。勇者ディーゴでさえも少なからず抱いていた「この程度でバルドルは納得するだろう」という雑な感情は全くなかった。


 バルドルの頑張りのおかげでもあるのだから、バルドルが欲しい物を買ってあげたい。そんなつい嬉しくなるような感情を毎日向けられていれば、武器としてこんなに嬉しい事はない。


「まあ、バルドルとシークはいいコンビだと思うぜ。対等な友達って感じだ。俺もケルベロスとはそうなりたいところだ」


「まあ俺っちで戦ってみてくれたら、仲良くなれるか判断してやるぜ」


「……対等には程遠い言い草だな、おい」


 剣にとって果たしてそのような表現が適切なのかは分からないが、バルドルはシークの親友であるつもりだ。きっとシークもそうだろう。たとえ明らかに戦闘をしない外出でも、シークは必ずバルドルを連れて行く。


「確かに、シークとバルドルは仲良いわよね。戦闘中も、バルドルを信じて動いてるし」


「もー言わないでくれ、恥ずかしい!」


「そんな人間に出逢えるかどうか、それが重要なんだ。さあ見つけた、じゃあ100%全力で信頼し合いましょう、なんて無理な話さ」


「まあシーク程優しくて、のほほんとしていて、なおかつ欲がないバスターってそういないわ」


「……俺、ケルベロスと相性はいいのか? 俺は一緒に旅をしたいと思ってるけど」


「むむ、羨ましい展開だ。僕なんて最初、元の場所に置いて行かれそうになって、僕からシークに連れて行ってくれってお願いしたのに」


「ごめんって、バルドル。それは理由をちゃんと説明したじゃないか」


 良い話のネタになると言うバルドルにつられ、皆が笑い出す。そんな中、ゼスタだけは少々不安そうにしていた。


 シークのように伝説の武器を見つけ、実際に今は持ち主になる事が出来た。しかし、自分はそんなに都合よく主として認めて貰えるのか。自分がケルベロスを認めたとしても、その反対は分からない。


 そっとケルベロスを持ち上げ、シークと同じナイトカモシカ革クロスでケルベロスの片方を拭き始める。心の内を察したケルベロスはゼスタを慰めた。


「お前な、俺っちが持ち歩くことを認めたんだぜ? 裏切ると思ってんだったら失礼な話だと思わねえか。堂々としてろ、ほら、鍔の裏までよく拭いてくれ」


「ああ、とりあえずまだ一緒にモンスターを倒したわけでもないし、相性を今気にしても仕方ねえよな」


「そうじゃねえって。バルドル、もう少し踏み込んで話してやったらどうだ、心配しなくてもコイツら今更どうも思わねえよ」


 ケルベロスは、バルドルが何かをまだ躊躇っている事を告げる。バルドルはシークに頼まれ、観念したように話し始めた。


「……持ち主として認めた、僕はそう言った。ケルベロスもそう言っている。相性がいいか悪いかは、本当は触れられた瞬間に分かるんだ」


「え?」


 ゼスタがケルベロスに視線を落とす。ケルベロスは照れているのか、「まあ、そういう事だ」とだけ言って黙った。


「ディーゴ達とアークドラゴン討伐の準備を進めている間……僕はアークドラゴンを倒せないと分かっていたんだ」


「え、それってディーゴ達は知っていたのか?」


「いや、言っていない。彼らより強いバスターに心当たりもなかった。ディーゴ達にはどうしても戦ってもらう必要があったんだ」

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