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Misty Forest-14


 

「どう……いう、こと? 皆を逃がすって事なら……賛成だけ……ど」


「僕を信じてくれると頷いた君を、『本当つき』だと受け取っていいかい」


「この状況を切り抜けさせてくれるなら、よろこん、で」


 バルドルの声が、押し付けられた軽鎧のプレートに響く。まだ耐えているが、ゼスタ達がゴーレムの体力を削るペースは、例えるなら100の体力を10分掛けて1削るようなものだ。シルバーランクのリディカも治癒術特化の魔法使いであり、攻撃力は高くない。


「ゼスタ、ビアンカ、それにリディカくん」


「なんだ! 今助けてやるから待ってろ!」


「えーっと、一度退いてくれないかい。この奥にレインボーストーンがあるはずだから、先にそっちに行っておくれ」


「はぁ? 何言ってんの!?」


「言った通りさ。僕に秘策があるんだ、だけど君達がいると出来なくてね」


 3人は猛反対した。シークを見捨て、先に進むことなど出来るはずがない。しかも帰りにはここを通る事になるのだ。


「僕の事を信じておくれ。必ず追いかけるから」


「勝ち目があるってことか」


「君達がここから退いてくれるならね。100%ではないけれど、93%くらいの確率で」


「……俺たちがここに残れば」


「勝率は控えめに言って0.1%かな」


 逃げろと言われている訳ではない。ゼスタはやや引っ掛かるものがあったが、バルドルがシークを慕う気持ちは知っている。


「分かった。シークに万が一の事があったらお前を許さないぞ!」


「シークを置いていくの!? 駄目よ!」


「バルドルがそこまで言うんだ、任せる!」


「でも……シークちゃん、本当にそれでいいの? 私達で……」


 リディカはシークからも確認を取ろうとする。


「バルドルを……信じて下さい、早く!」


 リディカは頷き、嫌がるビアンカの手を強引に引いてゼスタと共に奥へと消えていった。


 ライトボールの灯りが遠ざかり、シークのランプの弱い明かりだけが周囲を照らす。ゴーレムはゼスタ達を追わず、シークへと体重をかけ続けていた。


「で……バルドルの秘策って、何だい」


「4魔を僕達が封印していると話したね」


「そう……だね、グッ、ゴーレムの、封印は解けたみたいだけど」


「ゴーレムを封印していたのは冥剣ケルベロスなんだ」


「……つまり?」


 バルドルの呑気な口調に、シークが早く結論を話せと促す。


「ゴーレムの封印が完全に解けていたなら、こんなに弱くはない。ケルベロスの片方は多分この奥に、そしてもう片方はまだゴーレムの中にある」


「何……だって!?」


「ケルベロスを救うためには、ここで必ずゴーレムを倒さないといけない。だからあえてこの状況を作らせてもらったんだ、ごめんよ」


「ゴーレムがいる事、知っていたのか。だから俺達をこっちに……」


 バルドルの言葉にシークは驚き、一瞬痛みを忘れて耳を疑う。


「それで今から何をするのかだけれど、普段は君の力を僕に込めてくれているよね。今度はその逆、僕の力をシークの体に込める。そうして……ゴーレムを倒す」


「そんな事、出来るのか。痛っ! バルドル、そろそろ体が限界……!」


「おっともう少し。一時的に僕が君の体を借りることになる。その時に周りに人がいると、僕の力がその人にも入り込みかねない」


「だから、人払いをしたってこと、か」


「その通り。ウォータードラゴン戦では周囲に人がいた。シークの手からも外れていた。でも今回は違う。君の無事は保証する、僕に君の体を預けて欲しい」


 疑う気持ちもあったが、シークは再度バルドルを信じると伝えた。どのような事が起きるのか分からずとも、この状況から抜け出すにはそれ以外に選択肢はない。


「有難う。君は本当に僕を大切にし、信頼してくれている。君が持ち主で僕は本当に……本当に良かったと思っている。共鳴は必ず上手くいく。……きっと、ディーゴ以上に」


 バルドルがシークの胸元で光り始めた。柄を握る手からシークの体へと、強化魔法を掛けられたように力が流れていく。


 破裂しそうな程の気が渦巻き、シークの体が淡く光る程に溢れ出している。シークの意識はなくなり、その体はバルドルが支配するものとなっていた。


「フウゥゥ……ムゥ?」


「……僕の主人を押し潰そうとしたね。僕はとても怒っているんだ」


 シークの折れたはずの右腕がゴーレムをゆっくりと押し、その巨体を浮かせ始める。


 急に雰囲気が変わったシークに気付き、ゴーレムは更に体重を掛けようとする。シーク(バルドル)は片手でゴーレムを支えたままその場から抜け出し、ゆっくりと立ち上がった。


「あの時、僕達は持ち主との共鳴を深く考えていなかった。だからお前如きを倒せずに封印することしか出来なかった。けれど今回は違う。僕はシークという最高の『()()』を手に入れた。この意味は分かるかい」


「フウゥゥ……グウゥゥ……グッ……」


「モンスター如きに言葉は通じないかな」


 バルドル本体の刀身が七色に光り、そして次の瞬間にはゴーレムの胴体に深く突き刺さっていた。


 それはまるで豆腐でも斬っているかのようだった。そのまま横に振りぬくと、今度は肩から超高速で斜めに斬り払った。


「シークと僕の相性はこんなにもいい。この状態も数時間は維持できそうだ。300年前の無念を晴らすとするよ」


 シークの体からバルドルの声がする。シーク(バルドル)は天井すれすれまで高く跳び上がり、ゴーレムの頭上から薪割のようにバルドル本体を振り下ろす。ゴーレムの胴体は股まで切り裂かれた。


「グウゥ……グアアアアア!」


「おっと、こんなに弱かったんだ。ケルベロスは返してもらうよ。ケルベロスにも働いて貰わないといけないからね」


 ゴーレムはあっけなく倒され、ただの岩となって崩れた。


 シーク(バルドル)はその中から両刃の短剣を拾い上げる。刃渡りはバルドルの半分程の長さで、刀身も柄も龍の模様があしらわれた鍔までも、全部真っ黒だ。


「ケルベロス、そろそろ君のもう片方を少年が見つけた頃じゃないかい」


 シーク(バルドル)が短剣に話しかけると同時に、洞窟の奥からビックリするほどの大声が響いてきた。ゼスタのその声は、洞窟の奥から次第にこちらへと近づいてくる。


「シーク! レインボーストーンがあったぞ! それに真っ黒い剣が1つ! ハァ、ハァ、後はお前を救出できれ、ば……」


 ゼスタは息切れし、膝に両手をついて肩で息をしながら、シーク(バルドル)に声を掛ける。次の瞬間にはゴーレムが倒されている事に気付き、どういう事なのかと目を丸くしながらシーク(バルドル)の顔を見ていた。


「お、お前が倒したのか? ど……どういうことだこれ」


「僕とシークで倒したんだ。詳しい事は後でゆっくりと話すから、まずはレインボーストーンを確認しに行こう」


「は? え? その声、バルドルか?」


「シークの体を借りているんだ。シークはあのままじゃ自分の力で歩けない。洞窟を出るまではこのままでいようと思う」


「シークの体を乗っ取ったっていうことか? シークを……どうする気だ」


 予想外の展開に、ゼスタはシークの体をバルドルが奪ったと勘違いする。


「まずは信じて欲しい。シークは僕の事を信じてくれた。僕達は持ち主に信じて貰えなければ力を発揮できないんだ。ケルベロスがおとなしく君の手に拾われたという事は、ケルベロスも君に信じて貰いたいという事だよ」


 手に持っている剣がケルベロスなら喜ぶべき事だ。だがゼスタは自分の体も乗っ取られるのではないかと不安になる。そっと手放そうとした時、シーク(バルドル)がそれを止めた。


「おっと、ケルベロスをそのまま持っていて欲しい。手放される悲しみを君達人間は知らないのだろうけれど、プライドの塊みたいなケルベロスが持つことを許したんだ。その気持ちを汲んでくれると嬉しいね」

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