表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/312

Misty Forest-12


「……まずいわ。かなり強いモンスターが入り込んでいるみたい。魔具で覗くと何か強い力の痕跡がずっと続いている。岩を……砕いたのかしら」


 リディカが眼鏡型の魔具で洞窟の奥を覗き込んでいる。魔具は、魔力や気力などが激しく放出された痕跡を見ることが出来る。リディカの視界には紫色のオーラが映し出されていた。


「どのくらい前のものまで確認できるんですか?」


「数時間ってところね。これが外に出て行くものじゃないなら……鉢合わせになる」


「うげっ。最深部まで1時間、ってことはレインボーストーンを目前にして戦う羽目になるのか。一体どんなモンスターだ」


「オーラが洞窟全体に広がるってことは間違いなく強敵よ。戻るのも勇気、ゴウン達と合流してからでも時間はあるわ」


「無理はしたくないんですが、本音を言えば……ここまで来て、まだレインボーストーンがあるのかも分からないまま引き返したくもないです」


「300年ずっと鉱脈が手付かずかは分からねえもんな。これでまた1ヶ月近くかけて戻ってきて、何もありませんでしたって話になるのは気持ちのダメージでかい」


 シークの正直な気持ちにゼスタも同意する。ゴウン達に無茶をしないと約束をしているものの、モンスターがいるかもしれないから引き換えしました……などと報告するのはあまりにも情けない。


「ビアンカ、槍を振り回すのに十分な広さだと思うけど、どうだい?」


「そうね、石柱がない場所なら大丈夫。幅も高さも槍をスイングするには余裕があるわ」


「バルドル、この先は急に狭くなったりしていたかい」


「魔槍グングニルが邪魔になった記憶はないね。ああ、僕が倒したいモンスターを倒そうとしたとかじゃなくて、広さ的な意味では」


 シーク達はモンスターに遭遇した時のフォーメーションを決める。ビアンカが戦闘で槍を使った間合いの確保をし、ゼスタがビアンカを狙う攻撃を全て防ぐ。シークが動き回ってバルドルで斬りつけ、防御が崩れたら魔法で妨害するという作戦だ。


「リディカさん。リディカさんがこれ以上は危険と判断すれば引き返す。それでどうでしょう」


 3人の意気込みに悩みながらも、リディカがそれならばと頷き、先へ進む事を認める。リディカは治癒術を得意とし、限られてはいるが攻撃術も習得している。シルバーランクのモンスターが現われたとしてもおおよそ1人で対処が出来る。


 元々そうでなければゴウン達が別行動を認めるはずもない。戦況が悪くなれば手出しはさせず自分で倒すと言って聞かせると、シーク達もそれに同意する。一体どんなモンスターがいるのか。先程見つけたディーゴの落書きの事など完全に吹っ飛んでいた。


 リディカの「ライトボール」という光球魔法の灯りを頼りに奥へと進みつつ、一応は何かあった時のためか、シークもまた小さなランプに火を灯していた。


「もしアークドラゴンがいたらどうする? 私達、逃げ切れるかしら」


「どうするって、どうにもできないよ。すぐにやられてバルドルが置き去りになるだけ」


「それは困る。是非とも全力で逃げて欲しいものだよ。もしくは……」


「もしくは?」


「その前にピッカピカに拭いて、鞘の中まで洗浄しておくれ」


 バルドルが普段通りの調子なのが唯一の救いだろうか。4人が不安を口にする度にバルドルが何か1つ余計な事を言って、場の空気を換えようとしている。


 洞窟の奥に進むにつれてジメジメとした空間へと変わる。洞窟の端には、いつの間にか小さな水の流れが現れていた。岩の窪みには水たまりができ、足元は泥が堆積している。気温も入り口よりはグッと下がった。光が届かないためコケなども一切ない。


 雨風を凌げ、かつ水場がある。肌寒さと足元の不安定さを除けば外よりも過ごしやすい。となれば、居心地の良さから何らかのモンスターが潜んでいてもおかしくない。


「もう結構歩いたぜ? モンスターらしき痕跡も、ついでにレインボーストーンの欠片すらねえ」


「ゴロゴロしてる訳はないんだね。ここまで来て、見つかるのが1個や2個だったら報われないや」


「レインボーストーンより先に、まずは強いモンスターのことを考えなきゃ」


「最深部はもう近いはずだ。この先で曲がりくねる場所が来たら、そのすぐ先に鉱脈があったんだ」


「曲がりくねる場所……あ、ちょっと右に曲がっているような」


「やった! という事はもうすぐね!」


 バルドルが言った通りの光景が現れた。先頭を歩くビアンカが少し嬉しそうに声を発した時、ふと足元が揺れた。


「……地震!? やだ、こんな所で」


「いや、違う。これ……何か近づいて来てるぞ!」


「みんな! 私の後ろに!」


 最初の揺れの後、断続的に短い揺れが続く。それだけはない。何かが地面に叩きつけられるような音まで響きはじめる。それが足音であるとゼスタが察した時、リディカが先頭に進み出て魔法を唱えた。


「プロテクト・オール! 少し下がりなさい!」


「リディカさん!」


 シーク達の体が淡く光り、物理攻撃への耐性が上がる。続いてシーク達の力を上げる魔法が重ねられた。リディカは迫り来るモンスターの正体を見極めようと、魔導書を片手に闇の先へと目を凝らす。


 洞窟内に規則的に響き渡る音は明らかに足音だ。それがすぐ傍で止まり、唸り声のような音が4人の上方から聞こえてきた。


 その正体を真っ先に把握したのは、暗闇でも相手が良く見えるバルドルだった。


「ああ、これはまずい。ゴーレムだ」


「え、ゴーレムって、まさか他の喋る武器が封印していた4魔の事!?」


「アタリ」


「アタリ、じゃないよバルドル……! リディカさん、広い所まで下がりましょう!」


「ゴーレム……まさかそんなモンスターがここにいるとは思っていなかったわ。いると分かっていたら絶対に引き返していたのに」


 4人はライトボールで照らされたゴーレムをその目で確認し、対峙したまま少しずつ後ろに下がる。全身が茶色い岩で覆われていて、その背丈は4メーテ程の洞窟の天井に頭が付きそうな程高い。


 シーク達はおろか、リディカさえも息を飲んでいる。


 そんな中、いつになく真剣なバルドルが、ゴーレムがどのようなモンスターかを簡単に説明しはじめた。


「ゴーレムの体は見た通り岩でできているんだ。武器の類は通り難いから、倒すのは魔法がメインになると思う。僕はゴーレムと戦った事がある。みんな、僕の言う通りに動けるかい」


「お、俺達で倒せるのか? 動きは遅そうだから逃げた方が」


「足は遅いけれどゴーレムは疲れ知らずだ。そのままゴーレムが人間を狙ってシュトレイ山を越えでもしたら、どれだけの被害が出ると思うかい」


「……洞窟内で動きが制限されるこの状態は、一番被害が少なくて済む状況って、ことか」


「アタリ」


「アタリ、じゃないってば」


「ゴオォォ……グゥゥゥ……フウゥゥ!」


 ゴーレムはシーク達の会話を待ってはくれない。急に大きな左足で1歩踏み込み、リディカを狙って右拳を振り下ろす。その拳は避けたリディカがいた場所の岩盤を粉々にし、大きく抉った。


「うわっ!」


 その威力を見て震え上がるシーク達とは対照的に、バルドルはその場でやるべきことを瞬時に判断する。


「リディカくん、君は視界の確保と防御、回復魔法に専念しておくれ。君の魔力が枯渇したら全滅だからね」


「でも……私だけでサポートなんて!」


「シークと僕を信じておくれ。視界を確保したら、ビアンカとゼスタは2人でシークとリディカくんへの攻撃を防ぐ」


「ウオオォォォ!」


「キャッ! ……分かったわ! ライトボール!」


 作戦を打ち合わせる間にも、ゴーレムはお構いなしに拳を繰り出す。ギリギリでかわしながら、皆はバルドルを信じて武器を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ