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New World-12


 シーク達は、近年マンネリ化していたバスターの中で、彗星の如く現れた新人だ。マスターは任せてくれと言い、ビアンカとゼスタにウインクして見せる。


 ゴウンに促されて記帳を澄ますと、一行は病院へと向かうことにした。扉を開け、海沿いの通りに出ると、すぐにバスター管理所からの町内放送が始まった。


『バスター管理所エバン支部からの連絡です。傷ついたバスターを治療するため、治癒術を主とする魔法使い急募……』


「あ、放送してくれてる」


「えらく待遇がいいな。君達は本当に有望視されているようだね。あまり他のバスターと接触していないが、君達の動向をチェックしているバスターも多いのかもしれない」


「そんな、ちょっと新人が活躍したからって、こんな……」


『負傷者名はシーク・イグニスタ。ジルダ共和国ギリング町登録、等級はホワイトバスター。ウォータードラゴン討伐戦により負傷、バスター管理所にて受け付けます。どうかお願い申し上げます』


 放送は畳み掛けるように2度繰り返され、その際にシークの名前も晒される。これなら、町の中、もしくはすぐ外にいるバスターは放送に気付くだろう。


「うわ、個人情報が……。ギリングで負傷者連絡が流れた時は、名前までは出なかった気がする」


「多分シークくんだから、かな。マスターの口ぶりからして、敢えて名前を出して募った、ってところか」


 管理所を出て後方のバスター管理所を振り返ると、建物内に駆け込んでいく者がいる事に気付く。ビアンカとゼスタはあれが志高い魔法使いだったらいいな、と心の中で願っていた……のだが。


「ねえ、ねえゼスタ」


「うん?」


「さっきから、管理所に駆け込んでいく人がかなりいるんだけど……まさか、ね?」


「俺もさっき振り返ったけど、ほらあれ、魔法使いだよな」


「エバンってバスターがあまり居ないんじゃなかったか」


「そうは言っても治癒術が得意な人だって何十人かはいるんじゃないの? 一応学校だって2校あるし」


 シークの検査が終わっているかは分からないが、ゼスタ達はする事がない。集まるまでどうしようかと悩んでいた時、再びスピーカーから声が流れる。


『バスター管理所エバン支部からの連絡です。治癒術を主とする魔法使い募集は、募集人員を満たしましたので終了いたします。多くの支援に感謝いたします』


 先程の放送からまだ10分程しか経っていないはずだ。


「え、もう!?」


「バルドル、シークは助かりそうだぜ。元気出せよ」


「バルドルさんはまだ落ち込んでいるのよね、分かるわ。さあ、病院に戻りましょ」


 リディカがニッコリと笑い、皆は歩く速度を上げてシークが待つ病院へと歩き始めた。





 * * * * * * * * *




 病室に着くと、既にシークがベッドに寝かせられていた。早速医師から状態の説明を受ける。


「臓器に関しては無事です。ただ、首、背骨の損傷、肋骨の複雑骨折、手の神経の損傷が見られます。目が覚めたとしてもこのままでは動くことは出来ません。治癒専門の魔法使いの手配はついたようですね」


「はい。俺達も放送で聞きました」


「では折れた背骨のみ緊急手術を行います。2時間程で終わりますので、ここで待っていて下さい。念の為、治癒術を使える方が居ましたら一緒に来て頂けると助かります」


「私が行きましょう」


 シークは医師の指示によって再び担架に乗せられ、手術室へと運ばれていく。リディカが一緒に向かうことになり、その他の者はまた待つだけの時間が始まった。


 魔法の世界であれば何でも魔法で上手くいく、そう考えている者も少なからずいるが、魔法は万能ではない。勝手に背骨の位置が戻ったりはしない。


 とは言っても、手術を行い正常な状態になった後の回復には魔法が抜群に効く。その為、リディカにその場で魔法を掛けさせるつもりなのだ。


 例えば麻酔などの薬と、眠気を誘うスリプルなら麻酔の方が確実に効く。スリプルは必ず掛かる訳ではなく、数時間かかり続けるという保証もない。そのように不確実な要素を孕んだ魔法よりも、確実な方法を取り、魔法を補助として使うのが主流だ。


「また、待つだけですね」


「大丈夫、後は時間の問題さ」


 交代で飯を買いに行ったりなどしていた時、病室の扉がノックされた。ビアンカが返事をして扉を開けると、そこには10人を超える魔法使いが立っていた。


 まだ現役とみえる若い女性、老婆は魔法のためか弱った足腰のためか分からない杖を持ち、若い男性魔法使いも2名程。数えて13名の魔法使いは、一度ビアンカに頭を下げた後、病室の中へと入ってきた。


「初めまして! バスター管理所の募集で集まったマジシャンです! シークさんが戻って来ましたら、すぐに治療に当たらせていただきます!」


「あ、えっと、有難うございます! 予定ではもうすぐ戻って来ますので、宜しくお願いします!」


 実力については分からずとも、気持ちよく引き受けて貰えるだけで心強いものだ。ビアンカは礼儀正しくお礼を述べる。1人の若い魔法使いの女性は、先折れの赤いとんがり帽子を少し持ち上げ、少しイタズラっ子のようにはにかんだ。


「エバンは他の町との交流も船でしか出来ないから、一線を退くと滅多に活躍の機会がないんです。建前としては負傷者がいないのが理想ではあるんですけどね」


「フホホホ、そうじゃなくても駆けつけたい対象者だからの。管理所発行の情報誌で色々紹介しているんだよ。先月、最速でホワイトバスターになった子の特集があってね、まあこの町のバスターの心も踊ったもんさ」


 杖をついた高齢の女性魔法使いまで、施術開始を楽しみにしているような発言をする。森のモンスターは強いが、森に入れる相応の強さのバスターであれば戦闘不能になる事はない。年に1度、行方不明のバスターの捜索なども行われているが、そこに治癒専門の「ヒーラー」としての出番もない。


 言い方は悪いが、この町から動かないバスターは、このようなイベントに飢えているのだ。


 そうこうしているうちに、シークが部屋へと運ばれてくる。表情が明るい看護師の男女を見る限り、手術は無事に終わったようだ。


 手術前にはなかった点滴の管が、シークの手の甲へと繋がっている。


「手術は成功しております。ただ寸断された神経の方は手を付けていませんので、魔法で早めに修復して頂かないと手術に移行しなければなりません。臓器に骨が刺さっておりましたが、そちらは処置済みです」


「分かりました、有難うございました!」


 看護師と共に入ってきた医師の報告を聞き、早速魔法使い達が準備に取り掛かる。最初に5人、次に4人、その次に4人という交代制にするらしい。リディカは手術中の大役を務めたのだからと、皆から休むように言われている。


「ヒヒッ、このババアが完璧に治してやるわ、心配せんでええ」


「……分かりました、宜しくお願いします」


「見る限りあんたも腕がええようだね、この子は恵まれとる。さ、人数は最低限に、用の無いもんは帰っておくれ」


 最初の組は、2人の老婆、それに2人の若い女性、そして1人の若い男だ。老婆はビアンカとゼスタ以外の者に対しても帰るようにと告げる。


「ビアンカちゃん、後はお願いね?」


「こちらこそ、リディカさん。有難うございました、ゆっくり休んで下さい」


 リディカは流石に疲れたように見える。ビアンカが余分に買っていたパンと飲み物、それにマジックポーションを渡す。


 治癒魔法を専門に使う「ヒーラー」は、元々お人好しで他人のために動く事を苦と思わない者が多い。リディカは役に立てることが存在意義だと言って、ゴウン達と共に宿へと戻っていった。


「それじゃ、いきますかね。あたしが掛け声かけるから、ぶっ倒れるまで魔法掛けな。あんたはケア、あんたはヒール。このババアに任せりゃ、あとはもう1人のババアが何とかする。ほい、はじめ!」

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