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New World-05



「うええ、なんか、揺れてない?」


「海の上だからな、揺れるもんだよ」


「船が走り出したらもっと揺れるわ。嵐の時なんて船がひっくり返りそうになるそうよ」


「俺、汽車の揺れでもグッタリだったのに……」


「乗り物に慣れていないから仕方ないわね。私も得意って訳ではないけど、吐きそうになったら甲板に行って海に吐いちゃえばいいし」


「考えたくないや、今のうちに寝ちゃおう」


 シークは船酔いの説明を受け、かなり怖がっている。ゼスタとビアンカは笑い、気にすると酔うぞと脅して追い打ちをかける。


 一方、ゴウン達は慣れたものだ。寝やすい体勢を作るため、鞄を枕の代わりにしたり、厚手のタオルを敷いたりしている。防具は脱ぎ、もう寛いでいた。


 シークは酔う事を避けるため、船が出港するとバルドルを抱いてきつく目をつぶって横になっていた。


 ところが。


「ねえ、大丈夫? ほら、水あるから」


「ん~……無理、もう嫌、船から降りたい、私もう吐くものないのに……うぇっ」


「何で俺じゃなくてビアンカが船酔いしてるんだよ。ああ~もう、ゼスタ一回横になれって」


「無理、横になったらそのまま死にそう、うっ……もう吐き気か何か分かんねえ……ウエェェ」


 シークは数時間後、ビアンカとゼスタの介抱をしていた。2人が船酔いでダウンしてしまったのだ。


 まさか自分が介抱する側に回るとは思っていなかったシークは、水を渡したり背中をさすったりと、船内を駆けずり回っている。


「まさかシークが船酔いしないとはね」


「俺も自分でビックリだよ。バルドルは船酔いはしないのかい」


「振り回されても音を上げない僕に対しての愚問だよ、シーク」


「振り回し方が足りないかな、酔うまで試してみるとか」


「……そうして君も酔うか、疲れて寝込んでしまえばいいのに」


「はい、できた。また氷を割るよ」


「聞いているのかい? ……はあ、氷を割る道具にされるなんて、僕も酔ったと言って看病される側に回りたいよ」


 シークは時々甲板に上がり、コッソリと氷魔法のアイスバーンを唱える。借りたタライの中で水を凍らせ、バルドルはその氷を自慢の刃先で叩き割る。氷枕に使うのだ。


 シークとバルドルが献身的な看病をしたおかげで、夜になれば2人もだいぶ気分が良くなっていた。


 だが、2日目がいけなかった。介抱も終わり、睡眠はばっちり。食事も済ませてしまえば何もすることがないのだ。ゴウン達のように酒を頼むわけにもいかない。


 シークは甲板にバルドルを背負って上がり、船の進行方向から右手のはるか遠くに見える陸地をただぼーっと眺めている。快晴と潮風、銀色の波、いい気分を味わうには絶好の条件だが、それも何時間と続けば流石に飽きてしまう。


「シーク、日課の腕立て伏せは?」


「終わったよ」


「うん、実は見ていた。腹筋は?」


「それも終わった」


「うん、実はそれも分かっていて聞いたんだ。じゃあジョギングは……流石に迷惑だね」


「バルドルも腹筋なんてどうだい」


「生憎カッチカチでね、間に合っているよ」


 さすがに素振りをする訳にもいかない。しりとりをやったが5分で飽き、シークは甲板から降りようと立ち上がった。


「……何かあった?」


 シークが歩き出すと同時に、甲板の船員が慌ただしく行き来するようになった。シークは客室に戻るようにと言われたが、船員が数人固まってい海を覗き込んでいるのが気になった。


「どうしたんですか? 故障ですか?」


「違う、違う……これはまずい!」


海の中に何かがいる。そう呟く船員の指し示す先には、海中に船の影ではない何かがうっすら見える。


「……海面が、波とは違ううねり方をしてる」


「シーク、客室の中で戦える人を集めるんだ。とても嫌な予感がする」


「聞きたくないけど……厄介なモンスターが出てるってこと?」


「姿を見ないと分からないけれど、ウォータードラゴンじゃないかと思う」


「え、ドラゴン!?」


 シークは、バルドルの言葉に思わず耳を疑う。ましてやドラゴンが泳ぐという話を聞いたこともなく、全く想像がつかない。


「ドラゴンと言うよりは海の蛇という感じだね。翼はなくて水中で生きるんだ。僕は是非とも斬ってみたいところだけれど、君にはまだ早いと思う」


「やっぱり、強いのかな」


「うん、更に人間は海の中では戦えないからね、いっそう厄介だ」


「海の中じゃ、攻撃が届かない……うわっ!」


 タラップを駆け下りた所で急に船が大きく揺れ、シークは狭い船の廊下で壁に当たりながら倒れた。ウォータードラゴンが体当たりをし、船に衝撃が伝わったのだ。


「何だ、今のは!」


「岩礁に乗り上げたのか!?」


 船内では船員も客も不意打ちのような揺れに目を丸くしている。まだ船内には放送も流れていない。荷物を引き寄せたり窓の外を見たりと、それぞれがバラバラの行動を始めてしまう。


 船の事故というのは年に数回、世界中のどこかしらで起きているものだが、その事故を経験した者はそういない。冷静に状況を把握するなど、出来なくて当然だ。


 シークはよろけながらも第一報を告げるため、客室の扉を開きながら叫ぶ。


「う、ウォータードラゴンです! あ、多分ウォータードラゴンです!」


「ウォータードラゴン? なんだそれは」


「あーえっと、大きな蛇みたいな、ドラゴン? ……うぉっと!」


 聞き慣れないモンスターの名前に、一般人や商人はおろか、バスターさえも動揺しながら首を傾げている。勿論シークの説明が漠然とし過ぎていて、全く想像がつかないせいでもあるだろう。だが、長々と説明出来る状況でもない。


「とにかく、戦える人は甲板まで、このままでは船を沈められてしまいます!」


「船が沈められるだと!?」


「そ、そんなモンスターなんぞ聞いたことがない!」


 シークの大声に、ただならぬモンスターである事だけは伝わったようだ。大混乱の中でもバスター達が立ち上がり、装備を手に取って準備を始める。


 朝から酒を飲んでいたゴウン達も起き上がり、既に防具を着終えていた。ビアンカとゼスタも準備万端だ。


「シーク君、ウォータードラゴンの姿は見たのか」


「いえ、見ていません。ただバルドルがその可能性が高いと」


「バルドル君が言うなら間違いない……分かった! 君は先に行ってくれ、海のモンスターなら戦う手段は限られる。俺は人員を割り振るから、甲板にいる船員達には船の維持に全力を尽くすように伝えるんだ!」


「分かりました!」


「シーク、私も行く!」


「俺も行くぜ、船酔いなんて吹っ飛んだ!」


「多分もっと揺れる。でも、今は無理して! 行こう!」


 気合でなんとかしようとするのは、あまり感心出来る事ではない。ただ今はそれしかない。


 後方ではゴウンがバスターそれぞれに役割を与え、カイトスターとレイダーが戦えない者達の誘導を始めていた。


 甲板に3人と1本が上がった時、船員達はまだ右往左往し、揺れで落ちたり飛ばされてしまうものを縄で固定しているところだった。シークはそんな船員達にゴウンが言った通り叫んで伝えた。


「みなさん! 船が沈まないための備えをお願いします! 荷物より船の維持、そして人命最優先です!」


「兄チャン、大なり小なりモンスターの襲来は俺達も経験してんだ、兄チャン達こそ客室で大人しくしてな!」


「じゃあ、そこで見ていて下さい! 海に落ちても知りませんよ!」


「モンスター如きでこの船は沈まね……えっ!?」


 ガタイの良い中年の船員が強がり、シーク達をあしらおうとする。その瞬間、船員の視線は向かいの手すりの先に釘付けになった。


 シーク達がその視線を追うと、快晴の空と水平線の境目を遮るように、大きなモンスターの頭が甲板を覗いていた。

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