表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/312

encounter-04


「そういえば兄ちゃん、僕が部屋にご飯って言いに行った時、誰と喋ってたの」


「えっ!? いや、誰とも喋ってないけど」


「ご飯を食べるかどうか聞いてなかった? ネコでも見つけたの? おかあさんに見つかったら怒られるよ」


「ね……ネコが窓の外にいたから、ちょっと話しかけただけ、何でもないよ」


 バルドルとの会話を聞かれていたようだ。シークは弟の追及にも曖昧に答え、畑へと目の細かい網をかけはじめた。


 もしも自分がいない時に家族の誰かに話しかけたら、独り言を言っていたら……そう思うと気が気ではない。悪い事に慣れていないシークはとても困ったように度々家の方を振り返っていた。





 * * * * * * * * *





 シーク達は1時間程かけて4つある畑に網を全てかけ終えた。最後に端を石や杭で固定していると、カンカンカンと村の鐘が鳴らされる音が響き始める。


 村の中央に1つ、東西南北に各1つずつ見張り台があって、火事やモンスターの襲来などの非常事態には鐘が鳴らされる。今この瞬間に鳴っているという事は、何かの非常事態という事だ。


「モンスターだ! モンスターが東に出た!」


「子供たちは家の中に入れ! 宿屋か酒場にバスターが来ていたら応援を頼んでくれ! 大人は武器を持って集まるんだ!」


「チッキー、帰ろう」


 モンスターが出たと聞き、シークは急いで帰るようにチッキーを促す。


 モンスターの襲来は時々ある事だ。家畜や果物、もっと凶暴なものは人を襲うためにやって来る。ただ、もう何十年、何百年とあって慣れた事だからか、大人たちは急ぎながらも冷静だ。


 ここで言う大人とは15歳以上の事で、シークはこの村でいう大人に含まれる。シークは弟を守るよう並走して家に駆け込んだ。


「お母さん、モンスターが来てるから戸締りを! 俺は部屋の窓閉めたら行ってくる」


「危なくなったら逃げるのよ!」


「分かってる!」


 シークは駆け足で自分の部屋へと戻り、粗末な革の鎧を箪笥から取り出した。バルドルは事態を知ってか知らずか話しかけてくる。


「シーク、何かあったのかい? それに鐘の音が聞こえてきたけれど」


「あっ……えっと、モンスターが現れたんだよ。村の東の門の近くらしいんだ」


「それって僕たちが夕方通った門のことかい」


「そう。この家からそう遠くないし、最悪畑を踏み荒らされるかも」


「いつの時代もモンスター対策は難しいね」


「300年前もこんな感じだったのかな」


「そうだね、ディーゴがどこかの村に泊まった時、こんな事があったよ」


 シークは革鎧を着終えて膝まである革のブーツを履く。そして部屋の壁に立てかけてある長柄の槍を手に取って、バルドルに「行ってくる」と声を掛けた。


「シーク、ちょっと待っておくれ」


「なに、急いでるんだけど」


「その槍、もうすぐ折れてしまうよ。柄の部分にヒビが入っている。それで戦うのはまずい」


「え? そんな事分かるの? 武器同士だから分かるのかな、でもうちにはこれしかないよ」


 バルドルは、やれやれと思っているのを悟ってはくれないだろうと、わざとらしくため息をつく。


「ハァ、幾ら君が剣に興味がないと言ってもだよ。槍を扱うのなら剣だって選択肢に入れてくれてもいいじゃないか」


「あ、そうか君がいたね。でも生憎……」


「使えない槍と使える剣、どっちを選ぶんだい? シーク」


 バルドルの言葉に、シークは一瞬ためらう。槍が折れてしまえば何の役にも立たないばかりか、下手をすれば自分が危ない。


 かといってバルドルを持っていくのは、武器を隠していましたと主張するに等しい。非常事態だから大目に見て貰えるとしても、後で叱られる覚悟がいる。


「こんな時ですら必要とされないなんて、嫌だなあ」


 バルドルの淡々としつつも残念そうな声に、シークはため息をつき、バルドルを手に取った。そして紐を肩から斜めにかけて背負う。今回も根負けしたのはシークだった。


「俺がモンスターと対峙する事なんて今まで滅多になかったから、戦闘は期待しないでね」


「あ~久しぶりの戦闘だ!」


「聞いてるのかよ」


 部屋の扉を開け、心配そうな母親と弟と目が合う。2人は手に槍を持っていない事を不思議そうな目で見ている。その2人にチラリと背中の剣を見せると、驚いた顔で何故そんなものを持っているのかと問いかけてきた。


「帰りがけに拾ったんだ! 槍が折れそうだからとりあえず代わりに持っていく!」


 家族のきょとんとした目に、それ以上の説明はせずシークは家を出る。


 西の山の端に日が隠れて暗くなった村の通りを、大人たちがそれぞれ持ち場の門へと向かっている。シークは東の門を目指して駆けていった。





 * * * * * * * * *





「バスターはいない! 今日は俺達だけで退治しなければならん! 門の前を固め、絶対に突破させるな!」


「「おぉー!」」


 シークが急いで駆け付けた時、東の門の前では大勢がモンスターの姿を確認し、まさに向かって行こうとしていた。武器を構える大人達の顔は険しく、緊張が伺える。


 それはバスターという頼もしい味方がいないというだけではない。今回の襲撃が、よくいるイノシシ型のモンスター「ボア」ではなく、「オーガ」だからだ。


 村の者達は数えるほどしか退治の経験が無い。


 暗闇では分かり難いが、確かにオーガが腕を振り回しながら近づいてくるのが見える。


 シークは思わずバルドルを握る手に力が入ってしまう。傍に寄って来た同年代の村の少年も動揺しているのか、シークの肩を突いてくる。


「シーク! ちょっと、あれどうすんだよ」


「わ、わかんないよ!」


「お、俺達が退治なんて出来るのかよあれ……」


 ベテランのバスターなら苦戦をする相手ではないが、ここにいるのはせいぜい力自慢レベルだ。付近の大人も少年も戸惑っている。


 オーガは豚とも鬼とも形容しがたい頭部に、赤黒い体で2足歩行をする人型のモンスターだ。動物タイプよりもやや知恵が働き、力も強く厄介なモンスターである。


 遠くでオーガの叫び声と、大人達が慌てふためく声がする。目を凝らすと人の背丈の倍はあるオーガの遠影が暴れ狂い、腕を振り回しながら皆を殴り飛ばしている。


 ボアであれば木製の盾を構えてみんなで突進に耐え、その隙に槍や剣を突き立てて退治をする。だが知能があり攻撃パターンが決まっていないオーガ相手ではそうはいかない。


「まずい、今回は死人が出るぞ」


 付近で門を守る大人が呟く。その言葉を聞いてシークは唾を飲み込んだ。槍がオーガの背中に刺さっているようだが、攻撃が上手くいっているようには見えない。このままでは前衛の大人は全滅すらあり得る。


 シークは魔法を放つため、早く指示をしてくれと願っていた。


「弓! 弓矢を早く! 撃て!」


「戦っている奴らに当たってしまう! 少し待ってくれ、接近する!」


 弓矢を構える5人がオーガへと近づいていき、至近距離で矢を放つ。その矢には予め痺れ薬が塗ってあり、動きを封じることが出来る。


 至近距離から撃たれた矢はオーガの体に突き刺さり、オーガはその痛みで一層の憤怒を見せた。力任せに周囲の者を殴り飛ばし始める。


「まずい! 薬が効くまでにみんな殺されてしまう! ま、魔法いける奴はいるか!」


「俺がいく!」


 シークは待ってましたとばかりに飛び出し、オーガへ照準を合わせ、体内の魔力の流れに集中する。


 学校の教材用の魔術書を開くと、シークの目の前には大きな火の玉が造り上げられた。その火の玉は一直線にオーガへと襲い掛かる。


「ファイアボール!」


「ウギャァァァ!」


「やった、命中!」


 シークが命中させた火の玉を飛ばす魔法「ファイアボール」がオーガの胸の付近へと当たる。オーガはその衝撃と熱による損傷で仰向けに倒れた。


「よかった、多分痺れ薬が効いたところだった」


「イグニスタの所の坊主が倒した! 怪我人を運べ! 公民館だ!」


 村人が駆け寄り、オーガの処分よりも先に、倒れている者が次々と運ばれていく。シークはホッとして皆と歩き出す。


「緊張した……こんなの今まで何度も来てないんだけど」


「シーク、うしろだ」


「ん? 喋るとバレるってば、バルドル。ただの独り言に反応されると困る」


「僕を鞘から取り出して、3つ数えたら振り向いて。いいかい、3つだ。僕を正面に構えて、質問は許可しない。3、2……」


「えっえっ!?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ