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encounter-02



 シークは突然至近距離から話しかけられ、ビックリして飛び上がる。


 声は少し高めだろうか、若い男性のものだ。ドキドキする心臓を押さえながらすぐに後ろを振り向くが、誰もいない。


 周囲を見渡し、木の裏へと回り込んでもやはり誰もいない。シークは空耳かと首をひねった。


「誰も、いない……気のせい、だな」


「ちょっと、そんな冗談はよしておくれよ。久しぶりに手に取って貰ったのに、もう終わりだなんてあんまりだ」


 シークはハッとして目の前にある剣を見つめる。まるで喋っているように聞こえたからだ。そこで、シークは恐る恐る剣に向かって問いかけた。


「……まさか、お前が喋ってるのか? いや、そんな事はないんだろうけど」


「他に誰が喋っているのさ。僕の目に見えていない妖精さんとでも喋っているつもりなのかな」


「うわ、剣が喋ってる! え、なんで? なんで?」


 シークは驚いてその場に尻もちをつく。


 魔法や機械が発達しているとはいえ、物が喋るなどという話は流石に聞いたことがない。どのようなカラクリなのかと不思議がって剣を覗き込むと、目の前のそれはなおも言葉を続ける。


「不躾だなあ。剣が喋る事がそんなにおかしいかい? 僕としては人が喋る事も説明がつかないね」


「ご、ごめん、俺は喋る剣を初めて見たから……」


「そうかい、それなら最初だから許そう。それより僕をこのまま置いていくつもりじゃないよね」


「あ、いや、俺……魔法使いだし、それにまだ武器を持っちゃいけないんだ」


「ふーん、どうして?」


 剣はシークに対して何事もないかのように話しかける。無機質で飄々とした口調。それは妙に馴染んでいてシークを落ち着かせる。


 シークは自分が明日の卒業式が終わるまで、武器の所持が許されていない事、魔法使いだから剣は使わない事を説明した。喋る剣はそれを一応は納得したのか、再度「ふーん」と言って黙る。


「だから、申し訳ないんだけど、俺は君を持って帰る事は出来ないんだ」


「そっか、わかったよ」


「ごめんね、いい持ち主になれそうな人がいたら探しに来させるよ」


 そう言ってシークは謝りながら立ち去ろうとする。喋る剣は面白いし、見るからに強そうだ。


 黒い鞘、透き通るような刀身。剣術士(ソード)の者がこんなにカッコイイ剣を持っていれば、どんなに自慢できるだろう。それに軽くて自分でも練習すれば使えない事もない。


 ただ、シークは魔法使いになるのだ。更に今は家に置いてある村からの貸与品の武器ならともかく、むやみに登録されていない武器を持ってはいけない。


 多少の情も湧き、惜しい気持ちはあるがシークにはどうしようもない。せめて誰か優秀なバスターを見つけて興味がないかと聞いてみるくらいしか出来ない。


「あ~あ、せっかく人に見つけてもらったのに、このまま置き去りか、あ~あ」


「……」


「悲しいな、このまま誰も来ないで倒木の下敷きになって、土に埋もれちゃうのかなあ、僕は」


「……あ~もう! そんな事を言われたら帰り辛いじゃないか!」


「君が僕を置いて帰るのも自由、僕の独り言も自由さ。あ~、どうしてこんな所にあるの? なんて疑問すら持ってもらえない哀れで立派な剣が、このまま倒木の下敷きに……」


「分かった、分かったから! もうちょっとそういう事言うのやめてくれよ……」


 シークは聞かせるような独り言に負け、再び近づくとそっと剣を持ち上げた。


 改めて持つとさっきよりも更に軽く感じる。魔法使いのシークがそう思うくらいだから、きっと戦士系の職の者からすれば羽のように軽く感じるだろう。


 シークはそのまま剣を両手に持ち、森の中から村へと続く道に戻ろうとする。


「鞘に紐がついているだろう? それを肩から斜めにかけて背負うといいよ、両手が空くのはバスターの基本だからね」


「あ、そうなんだ、ありがとう」


「どういたしまして。ところで君の事は何て呼べばいいんだい? まさか『俺』なんて名前じゃないよね」


「俺はシーク。シーク・イグニスタだよ」


「なるほど、シークくん。君は僕にあまり興味がないようだけれど、合ってる?」


 シークはギクリとして、指摘に気付かれないように平静を保つ。そう、魔法使いなのだから、正直ロングソードそのものに興味はない。


「そんなことはないよ。不思議だなあって思って」


「いまギクリとしたでしょ。剣は触れている相手の感情の変化なんてすべてお見通しさ」


「……何でそんな事が分かるんだ」


 背負われた剣は、シークからは見えないが……と言ってもたとえ見えたところで分かるはずもないのだが、自信満々で問いに答えた。


「剣だからさ! むしろ何故、人は分からないのかとお伺いしたいね」


 何を言おうとも『剣』の発言はややズレている。シークはため息をついて、諦めたように1つ1つ尋ねていく事にした。


 あまり関わりたくないと思っている事がバレているのなら、いっそそのままでもいいか……と考えていると、ひたすらその『剣』がそれを嘆く発言を続けるからだ。


「それで、どうしてあんな所にあったんだよ、お喋りだから捨てられたとか?」


「喋らない剣なんてただの剣じゃないか。僕はずーっと昔にモンスター退治の勇者に置いて行かれたんだよ。勇者ディーゴって、知っているかい」


「勇者ディーゴだって!?」


 シークは驚きのあまり背中の剣へと振り返る。


 勇者ディーゴと言えば、超が付く有名人だ。


 300年前、この大陸でモンスターを指揮する「魔王」と呼ばれるドラゴンを退治した英雄。彼が魔王を倒したからこそ、今こうしてシークが森の中を1人で歩けるような世の中になった。そう伝わっている。


 彼が使っていたと言われるロングソードは現在も見つかっていない。彼の生家や立ち寄った町は、血眼になった歴史家や一獲千金を狙うバスター達によって、何百回と捜索されている。


 元々人気だった剣術士だが、「勇者になりたいなら剣を使うもの」と固定概念が形成されたのもこのディーゴの活躍が大きい。そのディーゴの剣が目の前にあるとは、魔法使い志望のシークもビックリだ。


「それ、本当? いや、みんなが探し回った剣が目の前にあるって、信じられない」


「君が信じるかどうかと、事実がどうであるかは何も関係がないんだよ」


「あ、いや、うん……そうだけど、何故置いて行かれたんだ」


 そんなに貴重な剣が、誰の手にも渡らず、博物館にも飾られていないことにシークは疑問を持った。


 魔王を倒した剣を、勇者がこんな所に放置するだろうか。勇者ディーゴは何故このような街道の脇に置いて行ったのか。シークが疑問に思うのは当然だろう。


「ん~、僕を巡って争いが起きてね。その結果博物館に収蔵されるって事になったんだ。使われてこその剣なのに、飾られて一生そこから動けないなんて拷問、どう思う?」


「いや……うん、まあ、可哀想かな」


「でしょ? だから歳を取ったディーゴは僕を持って逃げてくれた。そして追手が見えない隙にここに隠したのさ」


「でもここに置いていかれたら、それこそどうにもならないよね」


「こんなに長い時間見つけてもらえないとは思っていなかったんだ。もう100年くらい経っているのかな?」


「もう300年経っているはずだよ」


 剣は300年と聞いて驚く。といっても特に見た目に何か変化がある訳ではない。


「300年!? でもまあ、ちゃんと使って旅をしてくれる人に出逢える可能性があるだけマシさ。君はそうじゃないみたいだけれどね」


「だって、仕方がないじゃないか。俺は魔法使いになるんだし、武器を持つことはまだ許されてないんだから」


「分かったよ。でも、僕は君に頼るしかない哀れでとびきり立派な聖剣なんだ。せめて君の住む町までお願いしたい」


「自分で立派って言うかな」


 シークは剣を見捨てていくタイミングを逃し、仕方なく歩き始める。


 土がむき出しになった道を、更に30分。シークは武器を持っている事がバレないようにと、用心しながら村まで慎重に帰って行った。


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