Reunion-04
こんな、パンツより防御力が低い裸みたいな恰好をしたまま、どんな顔して女の子に声を掛けるんだ。無理。そりゃあ彼女が欲しい年頃ではあるけど、この状況は無理!
「ディズもクレスタも、バスターとして声を掛ける事は出来ても、普通に女の子に声を掛けるのって駄目だもんね」
「ほんと、バスターじゃない時の2人って、あの頼れる感じを一体どこに脱いできたのか不思議になる」
「顔はそこそこいいんだし、体だって鍛えられてるんだから、周りよりは自慢できるじゃない?」
「でも、こう……お休みの日には頼もしさがないのよ、一言で表すと勿体ないの!」
「遠回しに中身が駄目って言ってんじゃねえよ」
反論したいけど、出来ない。確かにぼくもクレスタも女の子の前では緊張するし、上手く振る舞えない。言われてる事は分かるんだ。
でも、言われっぱなしってのも悔しい。
「アンナもミラも、ぼく達に構わず彼氏でも何でも作ってきなよ、今がチャンスだよ」
「そうだな。せっかくそんな恰好してんだから、色目使って誘惑して来いよ」
「あー酷い! 私達そんなふしだらじゃないもん!」
「まあまあ。今日は楽しむことだけを考えなよ。周囲のピッチピチのお姉ちゃん達を目の保養に、お兄ちゃん達も目の保養に。景色だと思って楽しめ! ほらっ」
カイトスターさんがぼく達を宥めた後、上着を脱いで海へと走り出す。砂浜だというのに、一線を退いたとは思えない脚力だ。
「砂浜で走ると脚力がつくよ、遊ぶのに飽きたら後でどれ程きついかやってみるといい。じゃあお先に!」
レイダーさんもシャツを脱いで放り投げ、海へと走っていく。飛び込んだ時の白い水しぶきがキラキラして綺麗だ。
「……不毛な事言ってないで楽しもう」
「そうね、そうしましょ」
4人とも、異性にアピールなど出来るはずもない。目の前の海を楽しむ事だけを考え、足をそっと濡らす。
「うおっ!?」
「あ、意外と温かい。冷たくて凍えたらどうしようかと思ってた」
「よし、もうちょっと先まで行くか」
ちょっと歩いても水位は膝ほどで、ずっと先ではカイトスターさんが浮き輪に腰を落として浮かんでいる。あの辺りは肩くらいまでありそうだ。
そこまで歩いて行こうとしたところで、ミラが不安そうにぼくの腕を引っ張った。
「もっと先に行くの? ねえ、私泳げないんだけど……」
「えっ、ぼくも泳げないよ、泳ぐつもりないし。クレスタとアンナは?」
「え? ギリングで生まれ育って、泳ぎなんて出来る訳ないじゃない」
「歩けばいいじゃねえか。足がつくとこまでしか行かねえよ」
海に入るとどんな感じなのかを確かめてみたいだけ。だから泳がなくてもいいんだ。でもミラはまだ腰までも浸かっていない状態で首を横に振る。
「顔が濡れちゃうじゃない! もうこの辺で良くない?」
「化粧でもしてきたのか? 大丈夫、誰も近くにいねえよ」
「違うの、私……水に顔つけるのが苦手なの、怖いの!」
「あ、そうだった。ミラって宿のお風呂に入る時も目を瞑ってるのよね」
「じゃあ何でついてきたんだよ、無理すんな」
クレスタがミラの告白にため息をつく。砂浜近くで足を濡らすくらいでいいんだったら、海に入る必要はない。
なんならこんな恥ずかしい水着も、勇気を振り絞る必要もなかった。
結局ぼくとクレスタだけでもう少し行ってみる事にし、ミラとアンナは腰程までの深さの場所で押し寄せる波を楽しむ事になった。
「おい、潜ってみようぜ。魚がいるかも」
「え、水の中で目を開けるつもり?」
「あーそうか、潜るだけ潜っても目に沁みそうだよな」
カイトスターさんとレイダーさんは水中めがねをつけている。次回海を訪れる機会があったら、ちゃんと準備してこよう。ついでに浮き輪も。
「やあ、諸君はそんな水の中に突っ立ってるだけかい?」
「泳げないんですよ。潜っても目を開けられないし」
「じゃあ俺達のゴーグルを貸すよ。海底の砂を掴むようにして体を支えて、息を止めてゴーグルの中で目を開けてごらん」
カイトスターさんとレイダーさんに「ゴーグル」を借りて、鮮やかな水の中に恐る恐る顔をつける。
しゃがむと足が砂から離れて体が浮いてしまうけど、ぼくは息を止めたままそっと目を開けた。
「ぶぶぶ……ぶぶぶ!」
「んん! んー、んん!」
目の前にははっきりと砂地が見える。少し顔を上げると、遠くまで続く水面が光を浴びて揺れながら輝いていた。
奥の方が青く霞んで見える海中には、水上からは見えなかった小さな魚の群れや貝がたくさんいる。
隣で同じように目の前に広がる光景を楽しむクレスタと目が合い、ぼく達は30も数えないうちに立ち上がった。
「ぶはっ! 凄い、海の中の魚が見えた!」
「ああ、すっげー綺麗だった!」
「カイトスターさん、魚がいた!」
「もし泳げるのならもっと楽しめたのに。どうだい? 思い切って海に来て良かっただろう?」
「はい!」
太陽の陽射しは強いけど、水の中は心地良い。ぼく達はそれからしばらく潜ったり砂を掘ったりして楽しんでいた。
小一時間は遊んでいただろうか。体が冷えてきからいったん砂浜で休憩する事にした。あまり夢中になり過ぎてアンナ達を忘れていた。
2人は浜辺に座っていて……男の人2人に声を掛けられていた。
「あー……声掛けられてるね」
「なんか、嫌そうにしてるぜ」
「ぼく達と同じ歳くらいかな? アンナに声を掛けるなら、もうちょっと鍛えるべきだね」
「ま、アイツの好きそうなタイプとは真逆だな」
茶髪に赤い半ズボン型の水着、少し弛んだ体型の男が、手を合わせて何かをお願いしている。
アンナもミラも、一応は可愛らしく断っている。両手を振って、愛想笑いをしながら……うん、あれは我慢してるな。
そんな2人に対し、今度はもう1人の男が何かを言っている。ブーメラン型の緑色の水着、色黒な肌がテカっている短い黒髪の男。しつこく食い下がっているけど、断られてショックとか受けないのかな。
「そろそろ助けなきゃ」
「そうだな、仕方ねえ」
そう言ってぼく達が助け舟を出そうとした時、それは起こった。
「あっ……投げた」
「あちゃー、遅かったか」
「綺麗に決まったね」
「相手の男、見るからに鍛えてなさそうだったもんな。ソードガードを甘く見ちゃいけない」
アンナの腕を強引に引っ張った男は、次の瞬間にはアンナによって砂に沈められていた。背負い投げされた事実を飲み込めなかったのか、男は砂の上で体を起こし、アンナと友人の男の顔を見比べている。
「おい、行こうぜ、ごめんな、ごめん!」
「フンッ! 私のタイプじゃないのよ!」
「アンナ凄い……」
赤い水着の男は、砂の上に足を投げ出して座っていた男を無理矢理立たせ、謝りながら退散していく。
「あれさ、ふしだらとか色目とか以前の問題だよな」
「向かってきた奴にカウンター仕掛けるっていう、ソードガードの習性が致命的に相性悪い」
「言い寄られる気ゼロじゃねえか」
* * * * * * * * *
夕方になり、少しヒリヒリと痛む肌を押さえながら、ぼく達はゴウンさんの家に戻っていた。いつの間に仕留めたのか、レイダーさんは銛で魚を突いて捕獲していて、キッチンを借りて料理を始める。
海水をシャワーで洗い流し、普段着姿に戻ったところで、ようやくゴウンさんとリディカさんに情報を聞ける雰囲気になった。
「さて。君達はシークを助けるためにここに来たんだったね。情報ってのは魔力を送る装置の事だ」
「魔力を送るって、具体的にはどうするんですか?」
「ああ、実際に装置がある訳じゃなくて、理論上の話なんだ。魔石の特性を知っているかい」
「魔力を吸収する……んですよね」
白い木の床の上にクッションを並べ、ゴウンさん達と向かい合うようにして座る。
ぼく達は魔石について知っている事をいくつか挙げていく。けれど、今までだって魔石を利用するような案はあった。
だから、魔石と聞いた瞬間、正直に言うとぼく達は少しガッカリしていた。魔石を使うのだと知っていれば、電話だけで方法を確認したかもしれない。