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【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。  作者: 桜良 壽ノ丞
番外編【Reunion】―あの夏の日、英雄に憧れた者たちへ―
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Reunion-01



 この世界で英雄と言えば。

 きっと10年程前だったら、皆が口を揃えて言ったはずだ。


 300年前、魔王アークドラゴンと戦った勇者ディーゴだ! と。


 ディーゴの仲間だったデクス、マニーカ、アンクス、ネイラの名前も挙がるかもしれない。それぞれの得意武器と同じ道を目指す者はとても多い。


 でも現在、英雄とは誰だ? と問いかけて返ってくる答えは、300年前の英雄ばかりじゃない。


 ダブルソードのゼスタ・ユノー、ランスのビアンカ・ユレイナス。


 弓と治癒術を操る猫人族のシャルナク・ハティと、大剣を操る猫人族のイヴァン・ランガ。現代において伝説の武器を操る英雄だ。


 そしてあと1人、忘れてはならない1番の英雄がいる。



「旅立つ前に、またシークさんの封印の様子を見に行ってもいいかな」


 シーク・イグニスタ……攻撃魔法と聖剣バルドルを同時に扱う唯一の魔法剣士。


 世間一般の知名度もさることながら、魔法使いのベテランから剣術を志す子供まで、皆が憧れ、称える優しかった人。


「ディズ。あんた言わなくてもギリングに滞在している間は毎日行ってるじゃない……でも、そうね。今日は私も行く」


「俺も。手を合わせに行くって言い方はちょっと違うけど、少しでも封印に変化があってほしいんだよな」


「私はヒールを掛けなくちゃ。聖剣バルドルが何故ヒールを掛けてくれと頼むのか分からないけど」


 ぼくはディズ・ライカー。


 ぼくは学生時代、親からバスターになることを反対されていた。だから反対を押し切ってバスターになれるかどうか分からず、パーティーを組む約束も出来なかった。


 それでも卒業の日、満足に貯められなかったアルバイト代を持って、装備を買いに走った。


 けれど、手に入ったのは武器としての形だけが整った、間に合わせにもならない売れ残り品。


 シークさんは、そんななけなしの金で買った武器を背負ったぼくを発見して、バスターとして旅立たせてくれた。武器のために走り回ってくれて、行く先々でみんながシークさんに道を示された。



 ぼくが憧れた英雄、シーク・イグニスタ。


 彼が自らを犠牲にし、復活した魔王アークドラゴンを再び封じ込めてから、およそ5年が経った。






【Reunion】―あの夏の日、英雄に憧れた者たちへ―






「俺達が間に合ってたら、今頃のんびり屋のシークさんと、ひねくれた聖剣バルドルのやり取りが聞けてたのかねえ」


「本当だったら武器屋マークに通っていれば、いつかはね。私、忘れもしないわ。慌ててギリングに戻って来た時に見た、ビアンカさん達の絶望したような表情……」


「アンナが言うから私も声を掛けるのはやめたけど、アークドラゴンに勝った人達が見せる表情とはとても思えなかった」


「ゼスタさんが、まだ前に進めそうにないって言ってたね。色々研究もしてるみたいだ」


「当時だってあらゆる感謝の式典も功労賞も、全て固辞してたくらいだからな。一緒に戦った英雄の心の時間も封印されたようなもんだ。悲劇の英雄って肩書きで終わらせたくねえよ」


 日課となっているアークドラゴンの封印の確認を終えると、ぼく達はギリングに戻った。


 昨年開業したばかりの旅宿のエントランスで、黒い革張りのソファーに腰掛け、今は世界地図を眺めて次の目的地を決めているところだ。


 木の香りがまだ残っている空間は、天井も床もこげ茶色の木板で囲まれ、落ち着きがあって集中できる。真上から吊るされている明かりは、とっても高価な「電球」を使っているというから驚きだ。


 電球で明かりを灯すには、機械車 (※いわゆる自動二輪を指す)と同じように、エンジンという動力源を石油を燃料として動かす。そのデンリョクで熱したデンネツセン……を加熱して光らせているんだとか。


 ギリングにも、とうとう首都のヴィエスのように発電機を備える宿が出てきたってわけ。


 と言っても、南のライカ大陸にある機械工場ならともかく、このジルダ共和国では首都のヴィエスにだって、高級ホテルくらいにしか「電気」なんてないんだけどね。


「封印に効くって噂……今までどれも全部駄目だったもんね、でもやっぱり何か試したい」


「情報の中にはあからさまな嘘もあったじゃない? この壺に魔力を込めるといい……ってやつ」


「ビアンカさんとグングニルが壺の成分を聞いてごらんって言ってくれたでしょ。それで持ち主から返ってきた答えが『なんと貴重なミスリルに魔石が組み込まれているのだ!』だもんね」


「魔石はアダマンタイトが使われていないと金属と馴染まない……ってのもその時初めて知ったけど、それで何とかなるんだったら、伝説の武器達でなんとか出来てるって話だよな」


 封印を解いてシークさんを救い出す、それがぼく達の旅の目的になっている。


 方法を探している間、中には明らかな嘘もあった。効くかもしれないという善意ならまだしも、嘘をついて金を騙し取ろうとする悪い人もいた。


 でも、そろそろそんなあからさまな嘘にもすがりたくなってきた。今まで試した方法は何一つとして有効なものがなかったから。


「ディズが言いたい事は分かるのよね。実際、あれだけ色々してもらって、恩返しは何一つ出来てない訳だし。まあ、何でもやってみないとね!」


 褐色の肌にブロンドのショートヘア、本人曰く可愛い系のアンナ・ベガス。大きくも切れ長の目、低いけど鼻筋が通っているから美人さんと言われることもあるけど、あくまでも可愛いを求めているらしい。


 何故ガードを選んだのか……。それは彼女が憧れているのがソードガードの頂点に立つ騎士ナイト、ゴウン・スタイナーだからだ。


 けれど女のガードは人気がない。力がない、度胸がないと言われて避けられる。


 だからアンナは貴重なガード役にも関わらず、事前にパーティーを組むことも、募集に入ることも出来ずにいた。


「情報っつったら、ゴウンさんから連絡があった件も残ってるな。けどあれもゴウンさん自身が疑ってるし……無駄かもしれないぜ」


「無駄かどうか、やらずに後悔するよりいいじゃない。選択肢を1つずつ検証する以外に方法がないでしょ」


「一番有効と思える手段からやるべきだって言ってんだよ。一覧にまとめて順序を決めりゃあもっと早く解決に繋がるだろ」


 茶色い短髪、黒い瞳のクレスタ・ブラックアイ。銃使いのガンナーだ。ぼくよりも小柄で色白、痩せ型だけど、機動力と正確さではきっと誰にも負けない。遠くからの狙撃や殺傷力は申し分ない。


 けれど、ガンナーもまた悲しくなるほど人気がない。


 銃には銃弾と手入れで金が掛かる上、強さは主に銃の性能に依存する。おまけに対大勢での戦闘では魔法使いや弓使いのアーチャーに比べ、対処能力が低い。


 銃の発砲音は大きくて敵に気付かれるし、消音装置サイレンサーって実はそんなに劇的に音を消せる訳じゃない。


 そんな不人気な職だからこそと言うべきか、アンナもクレスタも負けず嫌いだ。その不利な部分を実力で見返す事に余念がない。


 ついでに言うと、アンナは猪突猛進、クレスタは考えてから行動したがる。負けず嫌いが衝突する事もあり、それが良い方に作用する時ばかりじゃない。


「まあまあ。旅の目的なんて最初からあってないようなものだし、話を聞きに行く事自体は別に何の支障もないよね」


 そんな2人をいつも穏やかにさせるのが治癒術士のミラ・ケーティー。元気はいいがのんびり屋。色白で優しげな笑み、真ん中で分けた黒い髪と、赤みがかった瞳が特徴的だ。


 治癒術士はパーティーに無くてはならない存在だ。回復や治癒、保護魔法が受けられるだけで、どれだけ効率が上がる事か。


 そんな引く手数多な彼女が、何故こんな半家出少年と不人気職で構成された「ハズレパーティーに」加入しているのか。


 それは、ミラもまた訳ありな加入だったからに他ならない。

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