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Top Secret-08



 ビエルゴがシャルナクに「棚卸しはやっておく」と告げる。


 シーク達がすまなそうに頭を下げる姿は、いつになっても新人の頃と変わらない。ビエルゴはそんな腰の低い面々にニッと笑いかけ、シャルナクにわざと大きな声で「ついでにお得意さんから注文も取って来い」と付け加えた。


 看板娘と、弟子として一から鍛え直されているクルーニャの評判は上々だ。新人だけでなく、ベテランの客も増え始めている。他店や鍛冶師達は「武器屋マークに負けるな!」を合言葉に、必死になって装備の売込みをするようになった。


 ギリングは交通の便が悪い町ながら、「立ち寄れば必ず装備を買え」と言われる程の武器防具の町になりつつある。


「ここで地図を広げて話し合うと、ちょっと迷惑になりそうね。どこかいい場所は……」


「工房でペチャクチャ喋ってたらクルーニャさんの邪魔になりそうだし、管理所は目立つんだよな。シャルナクが職員でもあるから尚更……」


「宿を取る?」


 3人の頃はどこでも空いた場所で話し合いが出来たが、5人となればそれなりにスペースを必要とする。


「ねえ、私の実家はどう? 空いている部屋もあるし、会話を万が一にでも聞かれる事はないから」


「ビアンカの家か、まあ確かにそれが一番良さそうだな」


 5人は店を出てビアンカの家へと向かう。


 繁華街から少し入れば、静かで大きな家が立ち並ぶ地区がある。その一番奥の家を指差し、ビアンカは「あれが私の家」と告げた。


「えっ、ビアンカの家あんなに大きいの!?」


「すげえ家だな! ゼスタの家の何倍だ」


「うるせえ、ギリングじゃうちくらいが普通なんだよ」


「えっと、シークの家の……」


「バルドル、アスタ村ではうちが普通だよ」


「そっか、シークは来た事なかったんだっけ。大きけりゃいいってもんじゃないのよ、私ははっきり言って無駄だなって思ってるくらい」


 元々ユレイナス商会を知っているギリング育ちのゼスタと、以前泊まった事があるシャルナクは知っている。けれどグングニル以外の武器達や、初めて訪れる田舎者代表のシークとイヴァンは驚きで固まっている。


 石とレンガの2階建て。それ自体は管理所と同じような構造だが、大きさはその倍程もある。窓枠が全て白に塗られていて、クリーム色の外壁の色と合わせてとても上品だ。


「……お城、だよね」


「何ですか? お城って」


「えっと……偉い人が住むような、物凄く大きな家」


 玄関ポーチの上が大きなテラスとなっていて、上品な白いテーブルと椅子が見える。門から建物まで数十メーテは石畳が続き、その両脇には広大な芝生と木々。家の裏には池もあるのだという。


 シークとイヴァンは立派な屋敷に感動、どころか思考が停止している。


「ぼくはお城という建物を見た事はないんですが、凄く……凄いってことは分かります」


「あ、ごめん。俺もお城には入った事ないんだ」


「ああ、ぼくと一緒ですね……」


「その天然爆発した会話はいいから、早く入りなさいよ」


 シークはイヴァンと並び、キョロキョロしながら3人の後ろを歩く。


「シークって、笑う以外の感情表現はわりと豊かだよな」


「あ、それ私も思った。前にも言ったけど、戦闘中は怒ったりするし、悲しい時はしょんぼりするし、驚いた時は今みたいになるけど……大笑いは見たことないわ」


「シークはいつも穏やかな印象だな。確かに……わたしも喜怒哀楽があまり似合わないと思っていた」


「やめてよちょっと、それだけ聞くと俺ってヒトデナシじゃん」


 シークの抗議に4人が笑い、シークはそんな事はないはずだとブツブツ文句を言う。そんな時、持ち主をフォローするのが「忠剣」の役目だ。


 ただ、向いているとは誰も言っていない。


「シークは笑っているよ、心の中ではしっかりとね。声に出してまで笑う程の面白い事が起きないだけさ」


「何のフォローにもなってないんだけど」


「おいバルドル、てめえこそ声に出して笑わねえだろうが。俺っちは見たことも聞いたこともねえぞ。笑いの感情あんのかよ」


「おっと心外だねケルベロス。僕だって可笑しい時は笑うさ。末代まで笑ってやると思える程の出来事がないだけで」


 バルドルは猛抗議する。よく聞けば笑っていないと言っているようなものだが……。


 バルドルの効果の薄いフォローにシークがお気遣いどうもと苦笑いし、そして気になった言葉の意味を尋ねた。


「末代まで笑ってやるって、どういうこと?」


「怒った時は末代まで呪うのだから、笑った時は末代まで笑ってやればいいと思ってね」


「……はははっ、なるほどね」


「あっバルドル凄い! シークさんが笑った」


「え? 僕は何もおかしなことは言っていないのだけれど。何もないのに笑うなんて大丈夫かい、シーク」






 * * * * * * * * *





「なるほど、アルジュナの持ち主を選ぶ必要があるのか。それをわたしにと」


「シャルナク姉ちゃんは弓が得意だったし、回復魔法も覚えたからピッタリだなって」


「わたしなんかが戦力になるとは思えないんだが……」


「ぼくだって、無理だと思っていたのになんとかアレスと上手くやってるよ。一緒に来てくれるとぼくも心強い」


 高そうな調度品、高そうな絨毯、高そうなソファー。


 寛げない田舎者代表がようやく一息つけるようになった頃、ビアンカがシャルナクに事情を話し、パーティーへの加入をお願いした。


「正直な話、選考をやってるような余裕はないんだ。1年ちょっとで極めてアークドラゴンを倒さねえと駄目だし、俺達にはアルジュナの使い手と同時に回復魔法の使い手もいる」


「5人規制を変えてもらえないか相談したり、他のパーティーと合同で戦ってもいいの。でも人数が多くなれば、それだけ回復術士の負担が増えるし、連携も必要になるし……」


「人数を集めて勝てるなら、とっくの昔に倒せてると思うんだ。ゴウンさん達に助けてもらうとしても、どのみち俺達は精鋭部隊にならくちゃいけない。これから『初めまして』なんて挨拶から入る人との連携は無理だ」


 シーク達の考えは良く分かっていた。シャルナクも手伝える事なら手伝いたいと考えている。


 ただ頼られている回復魔法も、シークに魔力の特訓を受けて少し覚えた程度だ。通常は職業校でしっかり習うべきものである。


 更なる問題はアルジュナの持ち主として相応しいかどうかだ。


「……わたしに戦闘経験が乏しい事、魔法だって繰り出すのがやっとな事を踏まえて、それでもわたしをと言うのなら協力しよう。戦力にならないと判断した時は、はっきり言って欲しい」


 シャルナクにそのつもりがあるのかどうかを確認した後、ゼスタがアルジュナを渡した。


 シャルナクは初めてのアルジュナを膝の上に置き、ムゲン特別自治区で動物やモンスターを狩りしていた頃の事を思い出していた。先頭を切って戦うことはなくとも、後方からの援護には定評があった。


「わたしは、気高きアルカの峰を見上げるナンの村長ハティの娘、シャルナクだ。アルジュナ、わたしの事はどうだい」


「……ぼ、ボク……その、ボクを使ってみたいって、思う? 弓使いになりたくないならボクは……」


 アルジュナは相変わらずのネガティブを発揮する。アルジュナの持ち主は、レイダーのように押しの強い弓マニアくらいが良いのかもしれない。


「アルジュナ、シャルナクはどう? 共鳴できそうかな」


「ぼ、ボクは……持ってもらっただけじゃ分からないよ」


「じゃあ、モンスター退治に行かないかい? 実際にアルジュナを使ってみて、それで試せばいいのさ」


「レイダーさんの矢って、シャルナクが使っても大丈夫なのかな」


「弓は良くて矢は駄目だなんて言われねえよ。行ってみよう」


 シャルナクは決心し、アルジュナと矢を背負い立ち上がる。


 アルジュナによる適性試験のため、5人は一番近い北門を目指してビアンカの家を後にした。

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