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Volcanic island-13




* * * * * * * * *




 ナイダ高原で唯一の村、レンベリンガ村。


 テーブルマウンテンの上に位置し、標高1400メーテ、周囲の崖の高さは600メーテもある。


 唯一登ることが出来る斜面の道には、ロープや手すりが取り付けられている。


 麓の森は大きく切り開かれており、少なくとも村へ向かうまでにトレントに襲われるような心配はない。麓までであれば、物資や人を運ぶ馬車の轍の跡すら窺える。気分はすっかりハイキングだ。


「今のところ、不審な点は見当たらねえな」


「なんか、普通……だよね」


 それどころか、付近の街道までの案内看板まで立っている。外界と隔絶された「魔王教徒のアジト」にも関わらず随分と訪問者に優しい。


 シーク達は人が通らないルートでやってきた。おかげで誰とすれ違う訳でもなかったが、麓では護衛を付けた商人や、観客らしき人々を乗せた馬車とすれ違う。


「魔王教徒の拠点があるんだよね?」


「おっと、魔王教徒の心を読んだ僕を嘘つき呼ばわりかい?」


「そうは言ってないよ、それにしては……あまりにも賑やかしい気がするなと思って」


 魔王教徒という正体を隠し、観光客を呼び込み、資金調達をしているのか。様子がおかしいと感じていたのはシークだけではなかった。


「ここを訪れたことがあるバスターからは、危険な場所だという話は出ていないのよね。その人達も5年前に訪れたきりというから、最近はどうなのか分からないけど……」


「とても隠れ住んでいる様子はない。一体どういう事なんだ」


「で、でもバルドルがまさか心を読み間違うなんてことは……」


 皆がシークに背負われたバルドルへと視線を向ける。バルドルが嘘をつかない事は分かっているが、本剣曰く間違う事はある。


「僕を疑うのはいいけれど、本当に拠点だった時、謝られたところで僕の不満は消えないよ」


「そうだね……ここからの帰りに、君が斬りたいモンスターを何でも一体、俺と君だけで倒すってのはどうだい」


「分かった、それで柄を打とう。おかわりは自由かを伺っても?」


「当店のおかわりは別料金となっております」


「分かった、シーク払っておいて」


「おい」


 バルドルは自信満々だ。仮にバルドルが間違っていたとしても、どうせ他にあてはない。ここまで来たのだから行って確かめるしかない。


 一行は魔王教徒制圧に来たと思われないように登っていく。狩りにでも行くのか、呑気に挨拶してくれる村人とすれ違う度、緊張している事が馬鹿らしくなってくる。


 そのうち、とうとう先頭を歩いていたイヴァンが斜面を登り終わった。だがどうにも様子がおかしい。


 門の前で呆然と立ち尽くすイヴァンの背に、皆も何があったのかと急ぐ。息を切らしながら登りきったところで、皆もまた、イヴァンと同様にその場に立ち尽くしてしまった。


「……レンベリンガ村へ、ようこそ。魔法発祥の地……魔王まんじゅう、魔法の水……」


 ディズが掲げられていた看板とのぼりの文字を読み上げた。


「えっ、何これ」


「……ハクサイの魔法漬け……勉強、訓練に効果抜群? 魔王様のご加護をお供にって、馬鹿にしてんのか」


「え、何ここ……魔王教の聖地?」


「いや、むしろ魔王じゃなくて、魔法では」


 門の両脇の幟には、魔法や魔王を前面に出した謳い文句が並んでいる。もはや悪の気配などどこにもない。


 地面は白い岩が剥き出しで、生えているのは小さな黄色い花と背の低いまばらな草程度。雲が低く湿度が高いせいか、地面も草も低木の葉も湿っている。そんな秘境中の秘境の村にしては、あまりにも商売っ気が強い。


「ほらね。僕は間違っていない」


「うん……村の方が魔王魔王言ってるんだから、疑いようはないんだけど……何か違う」


「どういう事だ、魔王教徒の拠点じゃなかったのか」


 一行は戸惑いながらも門をくぐる。事態が飲み込めないため、まずは村長を訪ねる事にした。


 藁ぶきの屋根に、岩を砕き固めて作り上げた黄土色の壁。そんな素朴で小さく可愛らしい家々が立ち並ぶ。遠くを見渡せば、目下には森林と荒野が広がる絶景だ。


 なのに村の雰囲気だけが場違いに陽気で、シーク達はますます勘繰りたくなってくる。


「ようこそバスターさん! 魔王まんじゅうですよ!」


「いらっしゃい! 魔法の水は如何ですか? 飲めば魔力が高まること間違いなし!」


 魔王や魔法という言葉は、アークドラゴンやアダム、それに魔王教徒を匂わせる。しかしこんなにも堂々と開き直るだろうか。


「皆で世界平和を願う楽園を求めに来た方、入信受け付けております……だって。魔王と正反対じゃないか、何だよここは」


「あの、すみません!」


「はい?」


 ゴウンがこの村の者と思われる男に声を掛け、この村が一体どういう村なのかを尋ねる。男は、それはもうにこやかに村の紹介をしてくれた。


「バスターの方ですね? ようこそ魔法誕生の地、レンベリンガへ! 初代アダム・マジックがこの村で魔法の開発を成功させたと言われている聖地ですからね。きっと満足のいく滞在となるでしょう!」


「初代?」


「あの、魔王まんじゅうの、魔王とは……」


「ああ、魔王教のことですね? この村は魔王を信仰しているんですよ」


「魔王教を知っているのか!」


「アハハハ! もちろんですよ、あなた達、どこに来たと思ってるんですか。おかしな人だ」


 皆に一気に緊張が走る。魔王を信仰しているという事は、すなわちアークドラゴンを復活させ、この世を浄化しようとしているという事になる。


 魔王教は罪のない人々を傷つけ、町や村をモンスターに襲わせ、イヴァンの背には消えることのない傷痕を残した。幾らにこやかな顔をしようと、シーク達にとって魔王教徒は悪人だ。


 シロ村を壊滅させられたバルドルの悔しさを知っているシークは、一つ深呼吸をしてから男に問いかけた。


「……あなたも、魔王教徒なのですか」


 男はまたにっこりと微笑み、大きく頷く。


「ええ、勿論魔王教徒ですよ! 魔王様は素晴らしい、何でも出来る賢者のような方ですよ」


「……魔王を、素晴らしいですって? ふざけないで下さい、300年前この世界がどれ程の危機に直面していたのか、知らないんですか!? この世を滅ぼさんとするアークドラゴンを崇めるなんて……!」


 ビアンカの怒気を込めた声と険しい顔に、男は予想もしていなかったというように驚く。


「この世界を滅ぼす? とんでもない! あなたは何か大きな勘違いをしていますよ」


「アークドラゴンの事を知らないんですか? 世界各地で、魔王教徒が何をしているのか、知らないんですか!?」


「この村は魔王教徒のアジトだと聞いた。俺達はエインダー島で、ジルダ共和国のシュトレイ山で、ムゲン特別自治区で、魔王教徒に襲われたんだが」


 ゼスタが問い詰めても、男は何の事かさっぱり分からないようだ。シークもゼスタの言葉を補足する。


「……人を奴隷にして、死体を操って、町や村を襲っているじゃないですか」


「奴隷? 襲う? 何を言っているのか分かりませんが、勘違いされているのでしたら魔王様にお会いしますか? きっと皆さんを幸福に導いて下さる」


 男はまるで近所の知り合いに会わせるかのように、付いて来て下さいと言って歩きだす。


「……これは、どういう事だ? 罠か?」


「観光客が大勢いるんだぞ。俺達を堂々と騙すか? 魔王教徒の戦闘能力は大したことない。俺達を捕えて何かしようなんてことは現実的じゃない」


 男は今まで出会った魔王教徒とは明らかに違う。それに今から魔王と会わせるという。まさかアークドラゴンが復活しているのか。


「仕方ない、ついて行こう。対決すると決めて来たんだからな」


「ああ、覚悟する時間が驚きで全て無駄になっただけの事さ」


 ゴウンとカイトスターの言葉に、それぞれが頷く。にこやかに「どうしたんですか?」と尋ねてくる男に「何でもない」と伝え、皆はその後ろを歩き始めた。

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