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Volcanic island-10



「まず、魔王教徒はアダムの事を仲間だと思っていた。そして、アダムをアンデッドにしたのは……魔王教徒じゃなかった」


「どういう事?」


「アダムの墓を発いたのも、魔王教徒の発想じゃなかった」


「1つずつ説明してくれよ」


 魔王教徒に触れ、バルドルは様々な情報を読み取っていた。


 魔王教徒が拠点として使っている場所は残り2つ。バルドルはそのうちの1つを探り出す事にも成功していた。


「1か所は分かったよ。ナイダ王国の山中、レンベリンガ村だ。もっともあの魔王教徒は行った事がないみたいだね。本拠地ではないと思う」


「ナイダ王国?」


「魔王教徒にとっては、発祥の地らしい」


「そこにアダム・マジックが? いや、生きているはずはないから、アダムの力を使った何かが……」


 シークが地図を取り出して確認を始める。その横でビアンカがすぐに場所を言い当てた。


「ムゲン自治区の東よ。一番東のドドムって港町から入るしかないわね。ナイダ高地は、南東の一部を除いて周囲がほぼ断崖絶壁。南はウカンって国があるけど、超えられる国境はイース湖近くか、ドドムの近くだけね」


「遠いな。でもそこでアダムに行き着けば、魔王教徒は壊滅させられるかも」


「そうですね、アークドラゴン討伐の手掛かりもきっと」


「よし、行こうぜ!」


 ゼスタがすぐにでも向かおうと言って立ち上がる。島からはまだ出られないが、この噴火で非常事態と気付き、明日には迎えの船が来てくれるだろう。


「それで、アダムをアンデッドにしたのは? 誰なんだ」


 ゼスタの何気ない質問に、バルドルは少し声のトーンを落として答えた。


「……アダム・マジックだよ」


「本当にアダム本人なのか?」


「あの魔力はアダムのものだ。アダム以外が使いこなせるとは思えない」






* * * * * * * * *





 翌日、バルドルが「超重量人物」と呼ぶ太った船長が迎えに来てくれ、皆は灰色に包まれたアマナ島のミスラに戻った。管理所では魔王教徒の拠点が溶岩に全て飲まれた事、アダム・マジックがこの魔王教に関わっている事などを伝えた。


「アダム、本人……? 墓に眠っていたのが別人だったとしても、300年も生きているはずは」


「バルドルは本人だと言っています。理屈は分かりませんが、手掛かりが何かあるのなら、確かめに行く価値はあるかと」


「どのみち魔王教解体は早い方がいい。アダムに俺達が嗅ぎまわっている事はバレた」


 明らかになった事は、魔王教徒がアダムを復活させたのではなく、アダム・マジックが300年間何らかの方法で生き長らえていた可能性があるという事。だがその目的も分からない。


 1つ解決したと思えば1つ、いやそれ以上の謎が追加されていく。とにかくシーク達は次の目的地に向かうしかなかった。


「昨日は大勢の人々を乗せた船が、南の小島付近で拿捕されました。魔王教徒と思しき者も数名、恐らく皆さんが言っていた者でしょう」


「よかった……それが今回一番の収穫かも」


「さて、早々に立ち去る事になるか。この平和な島も、これだけ灰を被れば地獄だな」


「港も船が少ないな。これじゃあ荷卸しも出来ないし……仕方がないか。ママッカ大陸行きの船を調べよう」


 一行は管理所を出て港に向かう。住民が口をスカーフなどで塞ぎながら通り過ぎていく。足跡は積もった灰の上にしっかりと残り、武器達はとても落ち着きがない。


「シーク、シークってば! 柄が灰色に染まっちゃう!」


「おいゼスタ、鞄の中にしまってくれ! 灰がつく!」


「お嬢、ああ……灰がついた! 取れるやろか」


 武器達は灰を気にし、なんとかしてこの場から去る事が出来ないか、シーク達に訴えかけている。


「ボクは大きすぎてカバーなんて貰えません。鞘のあるバルドルやケルベロス、矛カバーを付けているグングニル、君達はまだいいですよ」


「矢籠の中にどんどん灰が溜まっていく……でも、ボクには灰色くらいがお似合いだね……」


 すぐ移動する事に反対する者はいない。そんな中、不安そうな声を発したのは武器達だけではなかった。


「あの……ぼく達も行っていいんでしょうか」


「俺は断られてもついてくぜ!」


「ぼくは……1人じゃ帰れないし、皆さんについて行きたいんですけど、その……」


 ディズ達だ。


 特にイヴァンは1人で帰らせる訳にもいかない。アレスも今度こそモンスターと戦えるのではないかと期待している。


 かといって、バスター相当の資質があるから同行させていますと言えば、獣人が僻まれないかという心配もある。


「それならナイダ王国に事情を話して、ムゲン自治区側からナイダ高地に入れないかな」


「そうか、それならイヴァンの事を嗅ぎまわられないな。ドドムに向かわず、ウカンからイース湖を渡ってムゲン自治区に、そこから山越えだ」


「ぼく達、管理所に戻ってお願いしてきます!」


 ディズ達がイヴァンを連れて管理所に戻っていく。シーク達は行先を変更し、ナイダ王国の南にあるウカンに向かう便を探し始めた。





* * * * * * * * *





 ママッカ大陸、ウカン国。大陸の南東の海に面した一帯を占めるこの国は、ムゲン自治区との間を隔てる山々やイース湖にも面している。


 東西に細長く貧しい国で、コンクリートやレンガの建物が並ぶのは首都のごく一部のみ。大半の町や村では、人々が海沿いや森の中に木で組まれた高床式の住居、トタンで覆いを作っただけの簡素な家で生活している。


 13人という大所帯の一行は、港がある小さな村から森の中を北上し、イース湖を目指していた。


「ヤシの木ばっかりだね、それに暑い……」


「実が一年中生ってるし、飲みものには不自由しないね」


「モンスターもあまりいないな。まあ、だから林業が成り立つんだろうけど」


 経験のため、弱いモンスターが出てくればディズ達が倒す。2日程北上し、イース湖の湖畔に辿り着いた一行は、ムゲンの簡易管理所からの迎えを待って、久しぶりのナン村に到着した。


「おおイヴァン! よく帰った」


 桟橋にイヴァンの両親が駆け寄って来る。


「ただいま、父さま。家によって一息つきたいところだけど、あまりゆっくりもしていられないんです。これから魔王教徒を追わなければならなくて」


「ん? アルカの山にあった拠点は制圧したはずだ」


「いえ、隣の国の高原に、奴らの拠点があると分かったんです」


 イヴァンに良く似た顔立ちの父親は、大きな耳をピクピク動かし、顎鬚を摩りながら表情を曇らせる。


 魔王教徒の襲撃に対処するためのバスターはもう殆ど帰っていた。管理所の要請で指導にあたるバスターが2組残っているだけだ。


 そんな中、まだ近くに拠点があるとなれば安心してはいられない。


「イヴァン、まさかお前も行くのか」


「はい。そのために戻ってきました」


「このムゲンの大地とアルカの気高き峰を守って下さった皆さん、イヴァンは大丈夫なのでしょうか。イヴァンはまだまだ未熟で歳も若い。父としては誇らしいが……」


「父さま、ぼくはもう誇り高きアルカの峰の戦士として生きると決めたんです。行かせて下さい」


 イヴァンの澄んだ瞳に気圧され、イヴァンの父親は黙り込む。


 これからシーク達は一刻も早く隣国へと山を超え、ナイダ高地を目指さなければならない。


 イヴァンとアレスという組み合わせは非常に心強い。だが、イヴァンを無理に連れて行こうとは思っていなかった。父親に諭されてここで別れるとしても、それは当然の結果だ。


「俺達はもう一度お前を失いたくはない。だが魔王教徒を許せない気持ちは他でもないお前のもの。奴らの討伐がお前の意志ならば、止める事は出来ない」

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