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Volcanic island-03



 シークがケルピーへと魔法を放ちながら、水弾の裏から裏へと移動する。ゼスタに近寄っていた2頭は、思惑通りシークへと顔を向けていた。


「あのー、まだ僕は全然攻撃に参加させて貰えていないのだけれど。これはモンスターを見せびらかすという僕への拷問かい」


「戦い方を今考え中! バルドルも考えてよ、自分が一番活躍できる方法!」


「僕が一番活躍? いい響きだね。どうやったら斬れるかを考えなくちゃ」


 2頭はシークを狙っている。ゼスタなら数分もせず溺れると考え、急がなくてもいいと判断しているのだ。


 大きな水の弾がシークへと次々に放たれ、あたり一面にオブジェのように置かれていく。


「シーク、放置しない方がいい。逃げ場がなくなるだけじゃなくて、集まって大きくなったり、変形したら取り込まれかねないよ」


「そんな事言ったって、うわっ!? あぶな……消し去れないんだよ!」


「あの、消し去るって考えに囚われ過ぎていないかい? 僕の意見としては斬る事をお勧めするよ」


「それは、君が斬り倒したいから?」


「水玉なんて斬っても面白くない。そうじゃなくて斬るのなんて簡単だって分かったからさ」


 シークがケルピーにストーンを落しても、変形した水が再び集まり、何事もないかのように馬の形になっていく。シークは小さく「どう考えても無理じゃん」と呟く。


「シーク! ゼスタは救出したわ! でも正直武器だけじゃお手上げ! 蒸発させても水蒸気から戻っちゃう!」


「ぶはっ、ハァ、ハァ、死ぬかと思った……」


 引きずり出したゼスタを介抱しながら、ビアンカはケルピーの動きを岩の陰から窺っている。ゼスタが抜け出た事を感知したのか、ケルピーは弱っているゼスタめがけて駆けていく。


「シーク。アイスバーンもしくはブリザード、どちらの方が凍らせるのに効果的かい」


「表面ならアイスバーン、全体を冷やし続ける事を考えたらブリザードかな! あーまずい、ゼスタの方に向かってる」


「氷は氷同士でくっついても元に戻らないだろう? だから、ケルピーを凍らせるというのはどうだい」


「……バルドル、凄い、頭いいね!」


「褒めてくれたのはなんとなく分かるのだけれど、僕に頭はない。鋭いと言って貰えると嬉しい」


 シークはバルドルに鋭い、本当に鋭い、と何度も声を掛ける。それからケルピーめがけてブリザードの詠唱を始めた。


「ああ駄目だよシーク! 同時に僕で斬っておくれ。帯電していたら僕が抑える。両断した時、その断面が凍ればもう戻れない」


「そうか! つくづくバルドルは鋭いよ、凄いよ! ああ、おかげで倒せそうだ!」


「お褒めに与りどうもね」


「ビアンカ! 俺の魔法剣が効く! 念のためにグングニルにもブリザードを掛けさせてくれ!」


 シークはバルドルに魔力を込め、まずはアイスバーンを唱えた。


 バルドルがマイナス何十度ものキンキンに冷えた魔力に包まれ、冷やされた周囲の空気は白くなる。


「行くぞ! ブリザードォォ!」


「そして僕」


「制御頼むよ! えっと、アイスバーン……クラッシュ? アイスバ……あ、アイスクラッシュ!」


「次は技名を考えてから放つことをお勧めするよ」


 シークは水の弾を避けつつ、そのままケルピーへと斬り込む。ブリザードは瞬時に全てを凍らせた。


「破ァァァァ!」


 シークの一太刀は、ケルピーの体を真っ二つに斬り裂いた。


「もう1体!」


 シークは再びブリザードを唱える。ケルピーは危険を察知し、湖へと逃げようとする。


「逃がさない!」


「シーク、私が止める! いけ! 魔槍スマウグブリザード!」


 ビアンカの放った冷気の波動が、ケルピーの腹を貫いた。逃げようとしても足元まで凍り動けず、再生しようにも凍った部分が元に戻らない。ケルピーは頭を振って嫌がる。


「バルドル!」


「じゃあブルクラッシュで」


「りょーかい!」


 シークの冷気を纏ったブルクラッシュが、もう1体のケルピーも真っ二つに叩き斬った。暫くすると体表が青くネバネバしたスライム状になって動かなくなる。


「これが正体……。ビアンカ、写真頼むよ! 倒して水に戻りましたじゃ報告できない」


「忘れてた! ……準備出来たわ!」


 ビアンカが写真機を構えたのを確認し、シークはまたバルドルを構える。


 青色の体に、緑色のまだら模様。正体を現したケルピーの毒々しい姿にゾッとしつつ、今回の手柄……いや、お鍔柄であるバルドルに声を掛けた。


「ご褒美に、とどめは君に任せる。お好みは?」


「お気遣いどうもね。ああ、君に会心破点と風車を教えておくべきだった。ここは気持ち良く、もう一度ブルクラッシュでお願いしたい」


「分かった! ブルクラッシュ!」





 * * * * * * * * *





「ハァ、こりゃあ何人も犠牲が出る訳だ。不用意に近付かなくても水の塊に閉じ込められるんだからな」


「おまけに武器攻撃職だけだと成す術なし。キンキンに凍らせて壊すように叩くしかないのね」


「僕とシークなら怖いものなしさ! いやあ、今日の僕はとても気分がいい!」


「悔しいけど、まあ一応は斬ったから俺っちは良しとするぜ」


「あたしも技を喰らわせたし、久しぶりにスカッとしたばい。今回はバルドル坊やの機転のおかげやけん、活躍を譲るのは仕方なかよ」


 ケルピーを倒し、水の弾が全てただの水に戻ると、周囲は静かで綺麗な湖畔の景色を取り戻した。他にケルピーがいないとは言い切れないが、もう投げておびき出す肉もなければ気力もない。


「帰りましょ。ゼスタをこれ以上戦わせられないわ」


「悪い、悔しいけど今回は反省ばかりだ」


「私も今日はミスばっかり。エインダー島に行ったらこの分は挽回させてもらうわ」


 咳が治まったゼスタはようやく立って歩けるようになり、シークとビアンカに「すまない!」と言って手を合わせた。


「やっぱり治癒や補助の魔法なしじゃ駄目かな。でもさっきみたいにブリザードを唱えた時、威力が弱いと意味がない訳だし」


「苦戦すれば早々に共鳴に頼るか、シークに全て任せるしかなくなるんだよな。ケルベロスやグングニルにも魔法を掛けてくれるとして、シークの魔力は3倍消耗する。しかも回復魔法を使えばシークは攻撃に回れない」


「3人だけじゃ限界に来ているってことかしら。これから魔王教徒がいるかもしれない場所に足を踏み入れるんだし、島には私達を助けてくれる人なんて当然誰もいない」


 武器攻撃を封じられた途端、殆どがシーク頼みになってしまう。そんな現状をゼスタとビアンカは改めて危惧していた。


 シークが力尽きたらおしまい。シークを負ぶって逃げ切る事が出来なければ、シーク、もしくは3人ともそれまでだ。


「よく自信を持てとか、堂々としていろと言われるけど、今回はそんな事を言われても無理ね。3人じゃなく、せめて3パーティーくらい欲しいわ」


「つっても、バスターは各地に出払ってるんだぜ? それに俺達だって今まで武器共に頼りきりだった。ゴウンさんクラスが来てくれねえと」


「とにかく管理所に相談だ。魔王教徒がエインダー島にいるとして、時間が経つと移動してしまうかも」


 シーク達は湖から離れ、町へと引き返す。


 騎士となり装備制限も解かれた3人は、アーク級でもないケルピーに辛勝だった。こんな調子で己しか頼れない環境に行くのはあまりにも無謀だ。


「あと1年の時間があれば、アレスを手に入れたイヴァンを連れて旅することをお勧めしたのだけれど」


「アレスは心強いけど、イヴァンは若過ぎる。それに今は魔法使いが必要だ。とにかく、町に戻って管理所に人選を相談しよう」


 日が沈む前に町に戻った3人は、そのまま管理所へと向かった。


 ケルピーの討伐報告をした後、明日にはエインダ―島への許可が下りると教えられた。ただ、問題は渡航できるか否かだけではない。


 結局、一緒に来てくれるバスターがいなければ戦えない。シーク達は近隣の大陸の管理所に連絡を取ってもらい、助っ人を探してもらう事にした。

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