Landmark-11
シークがアダム・マジックだと教えられてきた人物と、バルドル達が実際に会った人物が異なっている。アークドラゴン封印の前後のタイミングで入れ替わっているようだ。
既に封印に使われていたケルベロスやグングニルはともかく、バルドルもはっきりと言っているのだから、それは疑いようがない。
「墓がここにあるんだし、シーク達が知ってる方のアダム・マジックが住んでたんじゃねえか?」
「そうだよね。バルドルが知っている方の人物なら、亡くなった時に周囲の人には肖像画と違う事がバレているはずだ。とすると、アダム・マジックの生家は別の場所?」
「そっちに手掛かりがあるのか……っつっても、有名になる前に何年も旅してんだろ? どこで生まれたかなんて聞いたことねえよ」
「むしろ、それを知られていたら、人物が入れ替わってる事もバレてしまうよね」
突然湧いた疑問、今まで信じていたものが事実ではなかったという衝撃。シーク達は何から話を整理したらよいのか混乱している。
この地を訪れたのは、アダム・マジックが本当に魔王教徒と繋がっているのか、他に何か旅の手がかりがないかを確かめるためだった。
なのに、まさか埋葬されているアダム・マジックが本物か偽物かという議論になるとは、誰ひとり、何1本たりとも思っていなかった。
「……アークドラゴンが封印された場所って、アダム・マジックが封印した事になっているのよね?」
「そうだな。バルドル、4魔は武器を触媒にしてふういんしたよな。じゃあアークドラゴンの封印には何が使われたんだ? お前は最後の戦いを見てんだろ」
ゼスタがベッドの上で天鳥の羽毛クッションを圧縮から戻しつつ、バルドルへと疑問を投げかける。
触媒なしで封印できるのであれば、アークドラゴンよりも弱い4魔はアダム・マジック魔力だけで良い。何か別の物を使ったのではないかという疑問は当然だ。
「……僕もあまり分からないんだ。封印に成功した時も、ディーゴは満身創痍でね。その様子を僕自身が直接見た訳じゃない。でも確かに封印の後、アダムの姿は見なかった」
「やっぱり封印を確かめるしかねえってことだな。少なくとも数年前まではバルドルが把握してたんだし、アダム・マジックの封印はまだ無事かもしれねえ。出来ることからやろうぜ!」
ゼスタが楽観視し、やっぱり現地を確認しようと意気込む。反対にビアンカは何かひっかかると言って考え込んでいた。
そしてゼスタの言葉を聞いたシークは、ビアンカよりももっと表情の変化が顕著だった。まるで幽霊でも現れたのかという程驚いた顔で、1つの仮説を皆に聞かせた。
「ねえ。4魔の封印は……次の持ち主を育てるために解く必要があった、それはバルドルが言ってたよね。それは誰の考えだった?」
「アダム・マジックと、ディーゴ達だね」
「でも封印は……イヴァンが触媒にされたように、無理矢理解かれた。少なくともゴーレム以外は」
「そうだね。僕が封印を維持できなくなったのは、そのせいでもあると思う」
「君が解いたわけじゃなかったんだ。君は少しの間後悔していたけど、君が解いた訳じゃない」
シークが1つ1つを確かめていくも、それを聞いている者と物はあまりピンと来ていない。その真意に悩んでいるのか、眉間に皺が寄っている。
「なあシーク、それってつまり何が言いたいんだ? 何を確認してるんだ?」
「……考え過ぎかもしれないんだけど」
「あーもういいから、言ってくれ、スパッと言ってくれ! すっげー悪い予感がしてるのは分かるから」
「アダム・マジック自体が、封印の媒体そのものだったんじゃないかな」
シークが導き出した答えの意味が分からず、皆はポカンとしいる。
「いやいや、アークドラゴンを封印した後も、アダム・マジックは生きていたんだよな? その後で魔法の普及をしたんだろ? それはシークが言ってたじゃねえか」
「アークドラゴン退治の後、魔法の普及を本格化させたってのは僕も伝え聞いていたよ。もっとも、退治から10年ほどで亡くなるまで、会うことはなかったけれど」
「そうじゃないんだ。元のアダム・マジックが触媒なんじゃないかと」
皆はようやく理解した。シークは本物のアダム・マジックがケルベロス達のように封印の触媒に使われ、後世に語り継がれている人物は影武者だと推理したのだ。
ビアンカとゼスタは顔を見合わせ、武器達もまた一見すると微動だにしていないが、互いの姿を見合わせていた。
「それを確かめるためにも、今日ここで一泊したら、すぐにアークドラゴンが封印されている場所がどこか調べよう。えっと……ここから一番近い町はどこになるんだ」
「ここの東にメイって村があるけど、それならジュタまで戻った方がいいわね。管理所の調査網に頼った方がいいわ」
3人はここで気付いた事を町へ戻って検証することにした。村の跡地にあった遺品については、砦の管理者達に任せた方がいい。
アークドラゴンを封印している場所、本物と思われる遺物、それに魔王教徒が持ち去った影武者の遺体。追わなければならないものがどんどんと増えていく。
ここまでくると、流石にシーク達の力だけではどうにもならなくなってくる。それぞれの優先順位もつけられないまま、シーク達はモヤモヤとした気持ちで話を打ち切り、眠りについた。
* * * * * * * * *
深夜。
墓が空っぽであろうと砦の警備を怠る訳にはいかない。ここにはアダム・マジックに関する貴重な資料が多く収められている。高い壁の上は2人の見張り役が巡回し、資料室の前にも1人警備が立っていた。
有事の際には伝声管で各部屋に連絡が出来るのだという。
そんな中、なかなか眠りに入れないシークは、バルドルを連れて宿泊室の前のベンチに座っていた。
「眠れないからって、こんな夜中に僕を連れて外に出なくてもいいと思うのだけれど」
「バルドルがしっかり起きてるからだろ。中に戻りたいなら君も眠りなよ」
「君を1人にしておくなんて、聖剣としては憚られるところだからね。付き合うとするよ」
「有難う」
部屋の中で喋っていると、ゼスタやビアンカを起こしかねない。少し夜風にでも当たろうと外に出たようだ。
松明の灯りでうっすらとしてはいるが、砦以外に人の気配がないこの地域の上には、雲一つない澄んだ星空が広がっている。
「ねえバルドル」
「なんだい? シーク。もしかして夜に話していたことの続きでも?」
「当たり。その、アダム・マジックは……もしかしたら体を乗り換えたのかなって思ってさ」
「体を乗り換える?」
「うん、俺なりに色々と考えてみたんだ。バルドルが昼間に言った事を思い出して」
バルドルは自身の発言をしばらく思い返していたが、シークが何かを考え込むような事は浮かばない。
「えっと……僕が何を言ったのか、無責任を負っても?」
「ははっ、なんだよその言い回し。昼間、君が器はアダム・マジックで、中身は一体何だと思うかって言っただろ」
「うん、確かに言ったね」
「その、テュールみたいに形が変わっても、中身はテュールだよねって話は、俺がしたと思う」
「うん、確かに言った」
バルドルは会話を思い出しながら、少しだけシークの心を覗き読みしていた。おおよそシークが何を言いたいのか、ある程度把握しつつ、シークの言葉を待っている。
「アダム・マジックは封印のために自分の体を捨てて、別の体に入ったんじゃないかな。魔王教徒がそれを真似て失敗し、中身のない生きた屍が出来たのが死霊術」
「突飛な発想だね。でも共鳴で君の体に入ったり、形が変わっても自分を保てる僕達を作ったのだから、自分に応用させた可能性は大いにある。死霊術との繋がりも見えてきた」