Magic sword-01
【3】Magic sword~レベルアップと新しい仲間~
シークがバスターになってからおよそ1週間が過ぎた。
別の言い方をすれば、ビアンカが同級生の所に殴り込みに行き、管理所に突き出して翌日土下座をさせた時から4日だ。
シークとビアンカの2人とバルドル1本は、朝からバスター稼業を休んで管理所に来ていた。
「……以上の事を讃え、感謝状を贈ります。おめでとう」
「有難うございます!」
「有難うございます! やったわね!」
助けた修理工の雇い主「アンバーライト社」と隣町「リベラ」が、社員および住民をモンスターから救ってくれたとして、それぞれ感謝状を贈って来たのだ。
おまけに信用を失墜させた他のバスターの尻拭いをしてくれたとして、ここ「ギリング」の町のバスター管理所からも感謝状が贈られることになった。
「こちらは記念品のメダルだ」
「有難うございます!」
実は、先日のゴブリンの巣の発見なども評価されていた。
突如現れたモンスターから馬車を守ったり、怪我をした行商人たちには薬草を配ったり。そして更には町まで送り届けたり。
とても地味な数々の行いが管理所に伝わり、同時にお礼の言葉も届いていた。バスター管理所がそのような有望な新米を放っておくはずがない。
「いやあ、バスターになったばかりだというのに、勇敢にも一般人を救って、この町出身のバスターの知名度を上げてくれた! 本当に有難う」
「いえ、困った人を助けることが出来て良かったです」
「それで、だ。君たちはまだ新米で、本来ならばグレー等級としての実力しかないのかもしれないが、その貢献は既にホワイト等級に相応しい」
「はあ……」
シークもビアンカも、内心この程度の事は誰でもやるだろうと思っていた。貢献と呼べるものでもない、当然の事という認識だ。
だが、管理所の見方は違ったようだ。
「したがって、本日をもって君達を『ホワイトランクバスター』に昇格させる」
「えっ?」
「え~っ! え、ちょっと、うっそ、バスターになって1週間でホワイトですって!?」
驚き方が地味なシークに対し、ビアンカはその興奮がとても大げさだ。
通常、半年後くらいから徐々に活動が認められていくものだ。ホワイト等級やブルー等級までであれば、こなしたクエスト数で自動昇格するのが一般的である。
つまり、たった1週間でホワイト等級に昇格する事などない。
クエスト数で言えば1日目に各自の1つずつ、2日目に4つ+カウント外1つ、3日目以降で16個、計22個。勿論この数が他の同期に比べて多いのは確かだ。
しかし、300~400のクエスト+αを必要とする昇格条件を、数件の感謝の報告で埋めるのはやや無理がある。
「初日や2日目ですぐに人助けの行動に出たり、ゴブリンの巣を見つけたなどとわざわざ報告してくれたりはしない。対価を要求するかしないかを問わず、自発的にそのように動く者は、私の経験上まずいない」
「そうなんですか? でも困ってる人がいれば、助けられるなら助けるべきだと思います。私はお父様……父と母にそう躾けられました」
「その信念をぜひ貫いて欲しい。正直な話、他の新人にも君達を見習って欲しいと思ってね。もう君達は初心者を示すグレー等級を脱した立派なバスターだ。立派というのは、強さの面だけではないんだよ」
シークは荷が重いなと頭を掻きながら照れている。一方、ビアンカは優等生発言をしながらも、やや調子に乗ったようにはしゃいでいた。
「シーク、今日は自由行動でもいいかしら? 私、この賞状をすぐ家族に見せたいの!」
「そうだね。俺も賞状を常に持ち歩く訳にもいかないし。今日は実家に戻って、明日の朝また管理所に寄る事にするよ。じゃあ、また明日だね」
「ええ! あ~あの4人組をシメて本当に良かったわ!」
「ビアンカ、ちょっとでも可憐な乙女を装う努力した方がいいよ」
「え? なに?」
「いや、無理そうだからやっぱりいい。それじゃ」
シークは満面の笑みで家に帰っていくビアンカに手を振り、のんびりと歩き出す。とそこで、シークは武器屋マークにまだお礼を言いに行っていない事を思い出した。
「バルドル、ちょっと防具を買ったお店に報告に行ってもいいかな。お礼も言わなきゃ」
「どうぞご自由に。恐らく、そういう君の律儀な所が評価されたんだと思うよ」
「そんなに律儀かな?」
「うん。君の律儀な行いをビアンカがしっかり主張する。そうやって貢献が明るみに出る。誰かが語らないと、どんな素敵な出来事も物語には刻まれない」
「成程ね。ビアンカにはあのままで居て貰うのが最善かな」
シークとバルドルはいつものようにゆるい会話をしながら、数十分歩いたのち店に到着した。どうやら貧乏性が抜けないらしく、1人 (1本は無料)500ゴールドの馬車代を節約したようだ。
「ごめん下さい」
「いらっしゃい。おや、あんたはこの前1番乗りで来た坊やだね」
「どうも、お邪魔します。先日は有難うございました。おかげさまで、ちょっと色々と訳あってホワイトランクバスターに昇格出来たんです」
「ほう、バスターになって1週間で、もうホワイトに? それは凄いこった。さあ、中にお入り」
店主はシークがわざわざお礼と報告に来てくれたのだと分かって嬉しそうだ。
シークはカウンターまで歩み寄り、今日までの1週間の出来事と、町と管理所から感謝状を貰ったこと、ホワイトへ昇格した理由などを一通り話した。
「お前さん、わしが見込んだ通りだ。いいバスターになるよ。いいバスターに必ず備わっているもの、それは強さじゃない」
「強さは関係ない、ってこと?」
「僕がとても優秀な剣だから、シークは強くならなくてもいい、という事かい」
「はっはっは! そういう事ではないな」
それぞれのややズレた受け止め方に店主は豪快に笑った。
「強さで言えば、グレー等級よりもオレンジやゴールドの方がそりゃいい。でも、グレー等級でもホワイト等級でも、いいバスターはいる。それは、誠実であることだ」
「誠実……」
「誠実という面で言えば、我がシークはピカイチさ。『剣生』に悩む聖剣を救い、人助けをし、こうやってわざわざお礼を言いに来るくらいのお人好しだからね」
「なんだか、それだけ聞くと俺がちょっと抜けてるみたいな感じに聞こえるんだけど」
「言葉通りに素直に受け取るべきだよ、シーク。君は自分に対して優しくなるべきだ。ビアンカを見習った方がいい」
誠実という言葉はシークに対してピッタリな言葉だった。紳士という年齢ではないが、根がとても優しく、真っ直ぐなのだ。
「うちの防具を買ってくれた新人がこんなに優秀なバスターだったとなれば、わしも嬉しいよ。時々でいいから世間話や旅の話をしに寄ってくれると嬉しい」
「はい。この町を出ても、戻って来た時には必ず。それと、ロングソード用の手入れ道具があれば少し見せて貰えませんか」
シークの発言を聞いたバルドルは、足があったならその場で飛びあがっただろうと思える程に驚いた。
「なんだって!? シーク、もしかしてそれは、僕のための道具かい!?」
「他に、俺がロングソード用品を買う理由があるかい?」
「そうだね、僕以外のロングソードなんて使わないよね! ああとても嬉しいよ! 有難うシーク! 出来る事なら僕が選んでも?」
「勿論。ははっ、そんなに喜んでくれるとは思わなかった。昇格は俺とビアンカだけの手柄じゃないからね、好きな物を選んでよ」
心なしかバルドルに引っ張られているような気もしつつ、シークは幾つかの種類の品々が並ぶ棚の前に立ってバルドルをやや持ち上げる。
「どうかな、お気に召すものがあるかい」
「何もかもお気に召すよ! どうもねシーク!」
店主はシーク達を笑顔で見守っていた。伝説の聖剣が新米バスターと仲良くやっている事に安心したようだ。