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CROSS OVER-13



 * * * * * * * * *




 翌朝、シークとイヴァンは7時前の馬車でアスタ村を出発した。


 他に1人の客を乗せた馬車は、2頭が牽引する短距離移動用の定期便。せいぜい歩くよりは早く、疲れなくて済むくらいだ。


 大抵は馬の気分で到着時間が変わるが、幸い今日は馬の集中力も続き、往路は順調だった。


「よし! ちょっと走れば8時に間に合うかも」


 シークとイヴァンは馬車の停車場から走り、8時ギリギリの所で管理所の前に到着した。


「ハァ、ハァ……やっぱ8時集合だと馬車は不安がある。おはよう、ゼスタ、ビアンカ」


「おはよう、シーク、イヴァンも。少しくらい遅れても大丈夫なのに」


「おはよ、それにバルドルとアレスも」


「どうもね。今日も素敵なモンスター狩り日和だ」


「おはようございます皆さん!」


 挨拶を交わし、一息ついた所で朝8時を告げる鐘の音が鳴る。管理所の扉が開くと、集まっていた新人が一斉に中へとダッシュしていく。


「あ、ごめんゼスタ、ビアンカ。今日は俺だけ……1日休みをくれないかな。ちょっと、昨日気になる話を聞いて……」


 シークは昨日ディズと出会った事を話した。


「なんか、私もそう言われると仲直りを勧めなかった自分のせいって気がしてきたわ」


「バスターは自己責任、陥れた訳じゃねえんだ。むしろミラだけでも救えたってことかもしれないだろ」


「そうね。でも管理所主催の研修とか、そういうレクチャーはバスター登録よりも前になされるべきなのかも」


「まあ、確かにな。バスターは危ない、くらいの情報しか持たずに飛び込む世界だからな……色々終わったら案を練ってマスターに相談してみるか」


 2人はじゃあまた、と言って管理所の中へと向かう。8時を5分も過ぎればクエストを受けた新人達が笑顔で管理所を出てきて、それぞれの目的地へと向かっていく。


 遠目に見ていると、その中にはディズ、アンナ、クレスタの姿もあった。


「イヴァン、俺達も中に入ろうか。せっかくだから少しバスターの事を知って、それからお店でも見て回ろう。知識を増やさなきゃね」


「はい、宜しくお願いします!」





 * * * * * * * * *





 バスター制度、クエスト。それらを教えた後は、昼までバスターの必需品や、武器防具などを見て回った。イヴァンへと昼食を御馳走し、今は管理所前の階段に腰掛けている。

 

 初めて食べたというハンバーグに、イヴァンはまだ感動が止まらない。シークは微笑ましく思いながら、ディズ達がどちらの方角から来るだろうかと首を左右に振っていた。


「うう、今日はまだ何も斬ってない……」


「バルドル、我慢ですよ。ボクたちは忠剣なんですから」


「ペットだって『待て』が出来るんだよ。バルドル程の『物』が出来ないなんて」


「物と言ってもペットは動物じゃないか。僕は『静物』だ、一緒にしないでもらいたいね」


 モンスターを斬る機会が減り、バルドルはストレスが溜まっているらしい。シークがミラと話をした後、時間があれば1体くらい倒そうかと考えている時だった。


「シークさん!」


「ディズ! こんにちは。あれ? アンナとクレスタは一緒じゃないのか。ミラも来てないし」


 待っていると、ディズがようやく管理所の入口へと駆けてきた。午前中はクエストをこなしに行っており、装備は少し汚れている。それでも大切に使っているであろう装備は、手入れの良さが分かる程の艶があった。


「それが、さっき北門のすぐ近くにあるミラの家に寄ったんですが、ミラが昨晩から家に帰っていないって……」


「昨晩!?」


「装備は一式持って出かけたようで、今アンナとクレスタと手分けして探しているんです」


「え、行方不明って事?」


「……はい。アンナが墓地に、クレスタがミラの友人の家に行ってます。ぼくはシークさんに伝えろと……2人もこのあと管理所に来ます」


 シークは頭を掻きながらイヴァンと顔を見合わせる。予想していなかった事態だ。


 暫く待っているとクレスタが到着し、ミラの友人の家にはいなかったと報告を受けた。アンナも戻ってきたが、墓地にもいないとの事だった。


 管理所で電話を借りてミラの実家に電話をするが、やはりまだ帰って来ていない。


「ところでそっちの子は……もしかして獣人?」


「あ、はい。イヴァンといいます。ディズさんとは昨日お会いしましたが、宜しくお願いします」


「訳あって、故郷に帰れるように手伝っているところなんだ。背中の剣は炎剣アレス」


「初めまして。皆さん、イヴァンさんを宜しくお願いします」


 喋る武器は初めてではない。それにシャルナクが管理所で働いているせいか、獣人への驚き方も然程ではない。シャルナクの日頃の印象が良いのだろう。


「しっかしミラのやつ、呑気に町を歩いてる訳じゃないよな。あいつ何やってんだよ」


「一応、あいつらとも仲間割れするまでは親友だったの。自暴自棄になってうろついてるのかも」


 ミラの行方を考えても、誰も心当たりのある場所などない。そんな中、ふと意見を述べたのはバルドルだった。


「えっと……楽観的な推測と、悲観的な推測、2つ用意したのだけれど」


「じゃあ、まず楽観的な予測は?」


「そうだね。自分を蔑ろにした奴らめ、ざまあみろって高笑いし過ぎて、顎が外れて病院に行ったとか」


 何でも思いつけばいいという訳じゃないんだぞと、シークとアレスがバルドルを諌める。


「む、ディーゴはそれで顎を外したのに」


「……その情報要らないんだけど。病院から連絡が行ってないってことは、その予想はハズレ。悲観的な推測は? 真面目に言わなかったら明日も戦闘なしだからな」


「明日もという事は、今日もないのかい? それはさておき悲観的な方が本命で……その、出来る限り控えめに推測したから、怒らないで聞いてくれるかい」


「内容によってはすぐに怒る用意があるよ。それで?」


「おっと無慈悲深い。えっと……4人が亡くなった現場を聞いて、1人で敵討ちに向かった、なんて推測は余計なお世話ってやつかい?」


「ミラが、1人で?」


 ディズ達は3人で顔を見合わせる。だが、3人はその現場となった場所がどこなのかを知らない。


「オーガが出た場所……」


 クレスタがモンスター情報を書いたメモを取り出し、最近の出現場所を確かめていく。


 4人の遺体を発見したのは通りすがりのバスターだった。オーガに引きずられている所を救い出した時には、もう全員息がなかったという。どこでオーガと遭遇し、亡くなったのかは分かっていない。


 皆がオーガの出現場所をどうやって割り出そうかと考える中、あっさりと思いついてみせたのはイヴァンだった。


「あの、オーガ退治って、クエストですよね?」


「え? ああ、どうだろう……オーガを退治しに行ったのか、偶然出会ったのか」


「シークさん、さっきクエストの事を教えてくれましたよね。クエストで写真を撮るって。何か写っているのでは」


「いや、生憎写真はまだ1枚も撮っていなかったらしい。風景がもし分かればってのはもう俺が思いついて、さっき亡くなったミラの友達の親に確認したんだ」


「という事は、まだ達成していなかったって事ですね」


 イヴァンの言葉に、アレスが成程と呟く。イヴァンの言いたい事が分かったようだ。


「クエストの詳細にはおおよその場所も記載がありましたね」


 イヴァンがアレスの言葉に頷く。シークもようやく気が付いた。


「そうか、4人は何の理由もなしにそこに行った訳じゃない。その途中でオーガに遭遇した……。受付で4人が受注したクエストを聞いてみよう! 検討くらいは付くかも」


 シーク達はクエストの受付カウンターへと向かい、亡くなった新人達のパーティーが最後に受けたクエストを尋ねる。


 窓口の女性職員は「嫌な予感がする」と言ってその場所を示す。


「昨日の夕方、同じ質問をしに訪れた女の子がいたんです」

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