表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
208/312

ALARM-11



「1つは300年の時限付きってやつさ。もう1つは、アダム・マジックが魔力を解放したって説。そして最後に、僕が君に期待した時、アダム・マジックじゃなくて君の魔力を掴んでしまったって説」


「2番目は絶対ないって言ったよね。アダム・マジックは偉大なる魔法の生みの親だ、人間なんだよ? 亡くなった際の盛大な弔いの儀式まで……」


 シークの全身に鳥肌が立った。バルドルが何を言いたいのか、自分がパッと口にした言葉で悟ってしまったからだ。


「……まさか、いつかの偽りの歴史だった?」


「その可能性はあると思う。僕は更に……アダム・マジックの遺体が掘り起こされ、死霊術でアンデッドとして蘇ったんじゃないかと考えている」


「死霊術、死霊術……そうか! 今各地でアーク級モンスターが出現しているのは、アークドラゴンのせいじゃないんだ!」


「おっと、シーク。君が今何に気付いたのか全く分からないのだけれど」


 バルドルはもちろんシークの心を読めるのだが、律儀にシークへと問いかけた。


「バルドルに魔力を溜めた、そう言ったよね。そして、バルドルが封印を制御していた」


「うん、100%その通り」


「仮に君の推測通り、アダム・マジックがアンデッドとして蘇った、とする」


「うん、続きをどうぞ」


 バルドルが今度はバルドルがシークの話を聞く番だ。


「アダム・マジックを操れば、魔力も思いのままだよね。そしたら2番目の説も可能になるんだ。『アダム・マジックが、魔力を解放する』ことは可能だ」


「理屈ではそうだね。でも、何を解放するというんだい」


「解放だけじゃない。術式さえ揃っていれば、魔力を込める事も、それを操る事も出来るってことだろ」


「……君は、なんて恐ろしい発想をしてしまったんだ。ああ、でもその可能性はあるね」


「魔王教徒がアダム・マジックを用いてモンスターを強化している……それなら、別にアンデッドじゃなくてもいい。操らなくたってモンスターは元々人間を襲うんだから」


 バルドルはシークの言葉にしばらく絶句した。シークが何を言わんとするのか、ようやくバルドルも察したようだ。


「解放できるって事は、反対に込めた魔力が消失したら分かるって事だよね。解放しようとしたら、その魔力がないのだから。アーク級モンスターがもし魔王教徒の差し金なら」


「だとしたら、事態はとんでもなくまずい事になっているかもしれない。シーク、宿に戻ってみんなを起こそう」


 シークはバルドルを手にして立ち上がり、宿へと駆けこんだ。すぐにぐっすりと眠るゼスタとビアンカを揺さぶり起こす。


「ゼスタ! 起きろ、ビアンカも起きてくれ! まずい事が分かった!」


「ん~……なんだ、今、何時……」


「魔王教徒に居場所を知られた!」


「魔王……はっ? 居場所!?」


 ゼスタはシークの言葉を理解して飛び起きた。その横ではビアンカが呑気に背伸びをしながら、「もう朝?」などと寝ぼけている。


「ビアンカ! すぐに装備を着て! この村を離れて、急いで別のアーク級モンスターを倒さないと」


「……はぁ? どういう事? まだ……4時じゃない」


「とにかく、きちんと説明するからちゃんと起きて! 一大事だ」


 シークが焦るのは珍しい。流石に緊急事態だと感じたのか、ビアンカも眠そうに目を擦りつつ着替えを始める。ゼスタもただならぬ気配を感じ、既に着替え始めていた。ケルベロスとグングニルも目覚め、シークが説明するのを待っている。


「6時間……まあ、眠れた方かな。それで、この村を離れるってどういうこと? 忘れ物?」


「違う、宿の主人を起こして、支払いを済ませたらすぐ出発! 魔王教徒に居場所を知られたんだ」


「えっ? えっ、だって、ギリングの人にも、管理所にも行先を告げてないのに。この宿だって……」


「坊や、こげな時間に出ていかんでも、太陽が昇ってからでもよかろ? 誰から聞いたん? 見かけたん?」


「ちょっと落ち着いて、座って話してくれや。おっと、俺っちに座れなんて言うんじゃないぜ」


 シークに黙って従っているのはゼスタだけらしい。武器達はいたってのんびり、ビアンカに至っては未だ寝ぼけているのか、シークが何を言ったのか、よく分かっていない。


「ん~……のんびり屋達にちゃんと説明してやった方がよさそうだぜ、シーク坊や」


「坊やって言うな、ゼスタちゃんめ」


「あのー、全く話が進まないから、僕から説明をしても?」


「……お願いしていいかな、俺、宿の人に言ってくる」


 シークが部屋を出て、足音を立てないようにと静かに歩いていく。ランプの灯り1つで照らされた室内で、バルドルが少し小さめの声で説明を始めた。


「えっと、つまり結論から言うとだね。アーク級モンスターを倒す度に、その強さを持つバスターの居場所が、魔王教徒に伝わっているかもしれない」


「……ごめん、結論だけじゃ全然分からないんだけど。魔王教徒が、さっきのアークイエティの居場所を把握してたとでも言いたいの?」


「その通り。もちろんまだ仮説なのだけれど、シークの推測って、思い返すと結構当たっているんだ。悪い予感に対してかなりの当たり屋だと思わないかい」


「当たり屋? よく分かんないけど、それで魔王教徒はどうやって把握してるの?」


 話をようやくしっかりと聞く気になったビアンカ達に、バルドルは先ほどシークと話した内容をそのまま伝えた。皆、少々強引な推論だと思いつつも、考えられなくはないという結論に至った。


「用心のため、村を離れようってことね」


「その通り」


「死霊術士は俺達の行動を把握してるんだな。ギリングにいた事はもうバレてるし、この辺りでアーク級モンスターを倒せるバスターは限られてる」


「私達が倒した……そう推測されるのは当然ね。私達のターゲットがヒュドラだって事は分かってるはずだし」


「ゴウンさん達はまだムゲン自治区の防衛戦だろ? アークイエティの討伐が、奴らにとっての合図になりかねないな」


 宿のロビーでは、寝巻きのまま、心配そうにカウンターに立つ主人がいた。シークが慌ただしくてすみませんと頭を下げると、ゼスタとビアンカも会釈をする。


「事情は伺った。あんたらにうちの魔具をあげよう。どこかのパーティーが忘れていったものだ。もう3年も取りに来ないし、使ってくれ」


 主人はカウンターの下にある忘れ物入れから、1つのモノクルのような魔具を取り出した。


「リディカさんが持っていた、魔力を見る魔具だわ」


「もし操られたり、なんらかの細工がなされたモンスターなら、それで魔力の粒子を覗けるはずだ」


「有難うございます。では、これで失礼します」


 シークが再び頭を下げ、3人は足早に宿を後にする。まだ村の住民も寝静まっている時間。無言のまま村の北門へと向かい、門番の男に事情を話すと、村の外に出た。


「で、どうして他のアーク級モンスターを倒さなきゃいけないの?」


「アークイエティを倒した場所を突き止められたとしたら、この北東のシュトレイ山にいるヒュドラが倒されることを警戒するはずだ」


「他のアーク級モンスターを倒して攪乱するって事か。それならいっそ、先制でヒュドラを退治しちまった方がいいんじゃないか?」


「……確かにそうだね」


 ゼスタの考えは大胆だが、手っ取り早い。ビアンカもアーク級モンスターを無駄に倒し、その疲れた後でのヒュドラ戦よりはいいと頷く。


「バルドル、ヒュドラを封印した場所まで案内してくれるかい」


「分かったよ。ゴウンくん達の情報では、かなり手練れのバスターの亡骸も発見されたとの事だったね。急ぎたいところだけど、慎重に進んでおくれ」


「分かった。行こう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ