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ALARM-09


「わりい、正攻法じゃ圧し負けちまう!」


「謝る事じゃないよ、固定させてくれて助かった」


 アークイエティは体勢を崩された事で憤怒する。牙や真っ赤な口の中を見せつけるように吠え、周囲の石をガタガタと揺らす。シーク達の鎧もビリビリと鳴って軋むほどだ。


 塀の中では家畜が半狂乱で鳴き叫んでいて、壁にぶつかる音も聞こえる。逃げたくても逃げられず、囲いの中で駆けまわっているのだ。


「シーク、家畜が落ち着かねえ、少しこいつを離そう」


「分かった。ゼスタは体勢整えてくれ! 俺が誘導する!」


 誘導なら距離を保てるシークの方が適役だ。アークイエティーへファイアーボールを放って挑発し、村から離れつつ斜面を下る。


「もう一度……ファイアーボール!」


「シーク、アークイエティがコールドブレスを吐くよ」


「後方確認有難う! 破っ!」


 シークは左に避けながらすぐに振り向く。コールドブレスに対して自分のファイアーボールが通用するのか、試す事も忘れない。


 炎の壁となったファイアーボールは、周囲を明らかに凍結から防いでいた。コールドブレス単体は然程脅威ではない。


「通用する、ね」


「通用しなかったら君がアークイエティの氷菓子だ。えっと、その場合シーク味になるのかな」


「氷菓子を食べてた事、気づいてたのか」


 シークは背後に忍び寄るビアンカの一撃が確実に当たるよう、下がりながらも位置を調整する。


 アークイエティーはビアンカに気づいていない。シークに向かって再び咆哮を浴びせ、足場の悪さなど気にも留めずに突進を始めると、左腕を思いきり振り下ろした。


「フゥッ!」


 岩が砕けて音が響き、地面に大きな穴が開く。攻撃が外れたと気付いたアークイエティは、シークを睨みつけて更に踏み込む。今度は右手、左手を交互に振り上げて形振り構わず攻撃を始めた。


「くっ、飛び散る岩で近づけない!」


「シーク、ファイアーソードだ! ブレスがくるよ!」


「はっ!?」


 シークはバルドルで顔を守るように防御態勢を取っていた。アークイエティの拳と砕け散る岩や土埃から目を守るためだ。代わりにバルドルが目となってコールドブレスを察知する。


 周囲の地面が一瞬で凍り付く。シークはファイアーソードで何とか己を守ったが、すぐ目の前にはアークイエティの拳が待っていた。


「シーク、踏ん張るんだ」


「フンヌゥッ!」


 思わず構えたバルドルの刀身は、運良くアークイエティの殴打を防いでくれた。しかし、元が魔法使いのシークでは耐えられるはずもない。シークはのけ反った格好のまま吹き飛ばされ、斜面に仰向けの状態で倒れた。


「痛た……くっ、防ぎきれな……い」


 シークが顔を歪ませながらアークイエティへと視線を向ける。ちょうどアークイティ越しに夕陽が山の端へと沈むところだ。


 次の瞬間、その夕陽は逆光の中で何かの影に隠れた。


「お嬢!」


「牙嵐無双!」


 ビアンカが夕陽を背に飛び上がったのだ。


 グングニル本体を頭上で高速回転させ、大気中の静電気を集めて矛先に溜める。バチバチと音を鳴らす紫雷を帯びた先端で、アークイエティの首元を突き刺した。


「ゴブッ……」


 アークイエティの口から血が大量に吐き出された。何が起こったのか分からず動きが止まる。その様子を見てシークはすぐに起き上がり、バルドルへと魔力を込めた。


「ビアンカ、下がって!」


 アークイエティは槍を引き抜かれてようやく事態を理解したのか、飛び降りて距離を取るビアンカへと振り向き、腕を水平に振り切る。


 その軸足を、今度は右脇の死角から忍び寄ったゼスタが深く斬り付けた。


「ゼスタ、思いきりいけ! 切り落としちまえ!」


「フンッ! 剣……閃!」


「ウオォォォォォォ!」


 力が入らなくなった右足では体を支えられない。アークイエティは仰向けに倒れ、しかしそれでも戦意を失わず、左足に体重を掛けて立ち上がろうとする。


 シークは渾身の魔力でバルドルを眩い程に光らせ、再びアークイエティの体を地に押し倒そうとバルドルを振りかざした。


「ファイアー……ブルクラッシュ!」


「いいネーミングだね」


「それはどうも……!」


 シークの一撃により、アークイエティの肩が斬り落とされた。痛みで発狂しながらも、まだ立ち上がろうと体を起こす。


 アークイエティは頭を振り、体をくねらせてもがく。弱っているのは確かだが、腕や足を激しい動かすため近寄っての攻撃は難しい。


「シーク! 一瞬でいい、あいつの動きを止めてくれ!」


「わ、分かった!」


 シークは何が有効かを考える。数秒悩んで、ふと先程までの自分を振り返った。


 砕けた岩や土から目を守るため、シークは顔を守りつつ目を瞑った。今度はそれをアークイエティに仕掛ければいい。


「ウインドトルネード! からの! トルネードソードォォ!」


 アークイエティの周囲に風の渦ができ、土や小さな石が襲い掛かる。アークイエティは案の定片腕で顔を守って死角を作った。


 シークは再度バルドルへとトルネード発動の魔力を溜め、今度は斬撃として放つ。


「流石! よっしゃビアンカ、頼むぞ!」


「高く……飛びなさいよ! 破ァァァァ!」


 ビアンカはフルスイングの構えを取り、グングニルを思いきり引いた。そのすぐ前ではゼスタがやや膝を曲げて待っている。


 ビアンカがフルスイングを始めた瞬間、ゼスタが少し跳び上がった。その足の裏をグングニルの柄が思いきり打ち付ける。


「行けエェェ!」


 ゼスタが跳ぶというより高く打ち上がった。足をばねのように使って更に勢いを増し、加速を終えることなくアークイエティへと斬り掛かる。ゼスタは胸の位置でケルベロスを交差させ、残像を見せつけるように刃を向けた。


「業火乱舞!」


 斬り付ける瞬間、ケルベロスが燃えるような赤い闘気を放った。ゼスタは宙返りをしながら幾つもの斬撃を繰り出していく。アークイエティの長い体毛はズタズタに斬り割かれ、肉が裂ける鈍い音と共に血が噴き出す。


「凄い……合わせ技の完成度が上がってる」


「シーク! 首ぶった斬れ!」


「分かった! ビアンカ、アンカースピアで胴を固定して!」


「りょーかい!」


 今度はゼスタがアークイエティの視界に入って注意を逸らす。その間にビアンカが仰向けになったアークイエティの腹部にグングニルを突き刺した。


「シーク!」


「破ァァ……ファイアーブルクラッシュ!」


 シークの一撃には魔力、バルドルが引き出した気力、そしてこの1年で鍛え上げた腕力の全てが乗っていた。


 叩きつけるような一撃が、アークイエティの太い首を切断する。


 シークはアークイエティの首から噴きだす赤い血を浴びながら、深呼吸するように息を整える。それからゆっくり顔を上げ、髪や軽鎧を真っ赤にしたまま数歩下がった。


「倒せた……」


「ぜ、全力ね。やっぱり、アーク級は厳しいわ」


「お疲れ様、シーク。激戦だったけれど、僕としては君に感謝を述べたい気分だ」


 シークを労うバルドルの声はとても晴れやかだ。


「久しぶりのちゃんとした戦闘だったから?」


「それもある。けれどあの最後の一撃! ブレのない振り下ろし! 途中で威力を落とさず、地面までしっかりと振り切った思いきり! 僕は今高揚感で歌いたい気分だ!」


「……気持ちだけ頂くよ、有難う」


 戦いが終わってほっとしたのか、シークにはフッと笑顔が零れた。血まみれの青年と血まみれの剣は、果たして自身の姿を分かっているのだろうか。


「お疲れ、なんとかなったな」


「うん、ゼスタとビアンカの合わせ技、完成度が上がってるね。驚いたよ」


「必殺技って感じでいいでしょ。パーティーだからこそ出来るって、ちょっと格好よくない?」


 シークがファイアーボールでアークイエティの死骸を焼く間、3人は今回の戦いでの良い所や悪い所を指摘し合う。


 それを遠巻きに見ていたバスターや護衛の者達は、初めて見る3つ星バスターの戦い方に、まだ空いた口が塞がっていなかった。

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