ALARM-06
シークはバルドル独特の理論に思わず笑いが漏れる。暫くするとビアンカとゼスタが、それぞれ新人を連れて席に戻ってきた。
「連れて来ちゃった。この子、ガード志望のアンナ」
「アンナ・ベガスです! 皆さんに声を掛けて頂けるなんて光栄です! ガード志望なんですけど……声が掛からなくて」
「こっちはガンナーだってさ。銃は金掛かるからなあ」
「うわっ、シークさんとビアンカさんもいる! クレスタ・ブラックアイです。確かに銃はお金も掛かるし、パーティー向きじゃないですね」
2人とも、見たところ人柄に問題はなさそうではある。しかし需要がない。
女の子のガードは力で押し負ける事を不安視される。勿論、補助魔法があれば気にする部分ではない。問題なのは補助寄りの魔法使いとセットという条件がないと、声が掛かりにくいという事だ。
一方のガンナーは性別、体格、年齢を問わない。残る問題はお金だ。銃本体が高価な上、弾は使い捨てだ。弓矢の場合、破損しなければ再利用出来る。気力を込める技も豊富で、自身の力で威力も伸びる。
「手入れも面倒だし、本体買うだけでも結構きつい。殆どがライカ大陸からの輸入だ」
銃は殺傷力が高いと言っても、銃弾1発で仕留められるモンスターの数や大きさは限られている。それならば別に銃でなくとも、弓や魔法の方がいいと考える者は多い。リボルバー、ライフルと使い分ける事が多く、荷物も増える。
「自分のハンデを知っているからこそ、自分から声を掛けられないってことか。ディズにもメンバーは必要だけど」
「ガードも1人じゃ防御に徹するだけになるし、そもそもパーティー戦のための職だ」
シーク達は2人がパーティーに入れない理由を察し、どうしていいものかと悩む。そこへ、無事に登録を終えたディズが戻ってきた。
「すみません、お待たせしました。無事に登録が終わって、ようやくバスターになれました。本当にどうお礼を言えばいいのか」
「ううん、気にしないで。武器屋マークをご贔屓に」
「そちらの方々は?」
「ああ、同じ新人なんだってさ。アンナと、クレスタ」
「初めまして、ディズ・ライカーです」
ディズは同い年の新人同士だというのに、ぺこりと頭を下げて挨拶する。その名前で驚いたのはクレスタとアンナだ。
「ちょっと待った! お前、第1職業校の首席だろ!」
「えっ? ちょっと待って、私も聞いてる! 第1の首席が家の反対でバスターを断念した……って」
その言葉を聞いて更に驚いたのはシーク達だ。ディズの口からそんな事は1つも聞いていない。
「ディズ、親から反対されてるの?」
「えっ、ああ、はい。危ないから、実家の喫茶店を継いでくれって。でも店は弟が継ぎたがっているし」
「もしかして、職業校でソードを選んでる事も、家に内緒?」
「……はい」
シーク達はここにも訳ありがいた、と脱力してソファーにもたれ掛かる。パーティーを組めなかったのではない、バスターになれるか分からなかったから、組まなかったのだ。
「装備でバレるだろう、どこかに隠して……」
「家出みたいなものなので、暫くは帰れません」
「なんてこった」
訳あり3人の間には重い空気が漂っている。17歳での卒業は優秀である証明だ。だが主席の家出少年はともかく、残り2人は需要のない職を選んでいる。
「……なあ、どうせ俺達あぶれてる訳じゃん。パーティーに入れて貰えるあてもないし、とりあえず3人でパーティー組んでみないか」
「えっ」
「この町の英雄に声掛けて貰って、こうして集まったんだぜ。それに1人でクエスト受けるよりもマシなのは確かだろ」
「確かに……そうね。じゃあ、お願いしていいかな」
「うん、暫く家に帰れないから迷惑かけるけど……」
「俺も下宿を出て宿屋暮らしさ。とにかくやるしかないだろ。そのうちちゃんと家の人に言えよ」
クレスタの発言に、それぞれがパーティーとして宜しくと握手を交わす。
「ギリングに下宿して、ガンナーを目指してる……。なんかどっかで聞いたような」
「そう? 何だか3人とも私達みたいな出会い方ね」
「彼らが可哀想なのは、僕を連れていけないって事だ」
「君が向こうに行きたくないって、つまりはそういう意味?」
「そう捉えて貰ってもいいね」
ホッとしたシーク達は、頑張れと激励して立ち上がった。装備も新調し、今度こそイサラ村方面に向かおうとディズ達に別れを告げたのだが。
「お前! 話が違うだろう!」
大きな声が管理所のロビーに響いた。振り返ると、そこでは早速新人のパーティーが仲間割れをしていた。
白いローブの女の子がパーティーの面々に怒鳴られている。
「攻撃魔法って言っただろ、何で回復の装備と魔術書持ってんだよ」
「私が回復役になるって話だったでしょ!? やっぱり攻撃の方がいいって直前で言いだしたのはあんたの方!」
「あんなの、ちょっと言っただけだろ! 直前で変える訳ないだろうが」
「私、言ったよね? じゃあ私がヒーラーに回るからって。分かったって言ったよね? あれは何?」
4対1で魔法使いの少女が責められている。シーク達は、どうにも少女言い分の方が正しく思えた。
「ミラ、回復職は2人も要らない。お前装備返して買い直してこいよ」
「何で私?」
「最初の通りになるからいいじゃねーか」
「そもそも私の専攻は回復魔法! もういい、私あんたらとパーティー組むのやめる! 初日のパーティー登録前にこんな調子じゃ上手くいく訳ない!」
「ちょっと、ミラ!」
ミラと呼ばれた少女が4人にそっぽを向き、入り口へと走り去っていく。仲間の1人の少女が慌てて追いかけようとするが、別の仲間から放っておけと言われて足を止めた。
「こんな最初から仲間割れかよ。まあ、あのままパーティーに残っても、事ある毎に『だから言っただろ』って責められるだろうし」
「あの女の子、パーティーを組まないならディズ達に合流してくれないかな」
「確かに……そうね。ちょっとアンナ、クレスタ、ディズ!」
ビアンカが呼びかける。その意図が分かったのか、3人はすぐにミラを追いかけた。シーク達が管理所から出ると、大泣きするミラを宥めるディズ達の姿があった。
「この子、私の隣のクラスだった。仲のいい子達で集まったはずだけど、あの男がちょっとクセ者で。軽い事を平気で言うの」
「私が、私が回復役で行くって、そう……グスッ、言ったのに、あっちが、後から回復役になるって、言いだして……。だから私攻撃に回る事になったのに……おとといやっぱり攻撃したいって言いだして」
「うん、さっきしっかり聞こえてた。ねえ、回復職したいのよね」
「……だって私の専攻、治癒だもん」
宥めるミラの横で、ディズとクレスタが顔を見合わせてニッと笑う。
「ぼく達、君が加入してくれたら心強いんだけど」
「……私?」
「ヒーラーが引く手数多なのは分かってる。俺達の構成じゃ不安かもしれないけど……君さえ良ければ」
クレスタが自分達の現状を説明する。ミラは少し悩んだが、首を縦に振って加入を決めた。主席卒業のソード、滅多に見かけないガンナー、そして女性ガード。
鉄板構成ばかり溢れる昨今、珍妙な組み合わせに興味が湧いたのだ。
「ミラ・ケーティーです。みんな無理してでも頑張って、さっきの4人を見返したいの」
「おいおい……」
ようやくパーティーが決まり、皆から笑いがこぼれる。
「皆さん、有難うございました! このご恩、絶対忘れません」
「恩だなんて……期待してるよ、頑張って」
ディズ達は深々と頭を下げて管理所に入っていく。
「さっきのパーティー、何分も経たずに新しく加入先を決めたミラを見たら、どう思うかな」
「次に誰のせいかで揉めるだけだろ」
「さあお人好しども、気は済んだか? さっさとヒュドラを斬り刻みたいぜ」
「あたしはヒュドラは初めて見るけん、楽しみやね」
シーク達は一仕事が終わり、満足そうに北の門を目指して歩き始めた。