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HERO‐10

 

 ゼスタは深く頷き、ビアンカにゴーレムの相手を任せた。ゼスタがバルドルを拾いってシークに駆け寄るまでの間、ケルベロスが戦況を報告する。


「大丈夫だ、上手くゴーレムの気を逸らしてくれてる」


「バルドル! 悪いがシークの傍にいてやれる余裕がねえ! 後は子起こし歌で何でも使って起こせ!」


「うん。シークの事は僕が守る、少し時間をおくれ」


 ゼスタがシークの体を仰向けにさせる。殴打をまともに喰らった胴部分は、プレートが大きく凹んでいた。採算度外視、武器屋マーク渾身の逸品装備だ。どれ程の衝撃だったのかを物語っている。


「すまない、シークにヒールを!」


「もう掛けてある! ケアも唱えたが、気絶からの回復は時間が掛かるんだ!」


「チッ、お前がいねえと始まらねえだろ……頼む、起きてくれ!」


 ゼスタはシークの口元に耳を当てて息を確認し、凹んだ胴鎧を脱がせて心音を確かめる。


「……良かった、生きてる。誰かコートを貸してくれ! シークが凍死しちまう!」


「わ、分かった!」


 塀の上の魔法使いが2名、自分の防寒着を脱いで放り落とした。ゼスタはそれをシークに掛けてやると、手にしっかりとバルドルを握らせ、再び声を掛けた。


「あと、頼むぞ」


「ゼスタまずいぜ。ゴーレムがストーンを唱える間隔が短すぎる。ビアンカとグングニルが攻撃を挟むがねえ」


「さっきみたいに岩を砕くくらいなら俺でもいける! 全部斬り壊すぞ!」


「俺っちも共鳴した方がいいか?」


「危なくなったらケルベロスのタイミングで頼む!」


「おっと、全幅の信頼ってやつか。照れるぜ」


 ゼスタは攻撃を避けつつ応戦する防御役が得意だ。ゼスタはゴーレムの背中に渾身の一撃を繰り出した。注意を引き、ビアンカに攻撃の隙を作ってやるつもりだ。


「剣閃!」


 ゴーレムの背中に大きな亀裂が走った。ゴーレムはその衝撃を与えたのが何か確認しようと振り向く。


 ゼスタはわざと挑発的にケルベロスの刃先を向ける。ゴーレムは思惑通りゼスタへを睨み、攻撃を繰り出した。


「ビアンカ! あー……今はグングニルか! 俺が注意を引きつけるから攻撃任せたぞ!」


「あたしに奪い返されんようにね! 破ァァ流星槍!」


 物理攻撃だけでゴーレムの体を破壊する事は難しい。それでも2人の連携によって、ゴーレムの体の表面が時折ボロボロと崩れていく。形勢は逆転しつつあった。


 ゼスタは回避しながら執拗に攻撃を仕掛け、ゴーレムの詠唱で出現したストーンをケルベロスで粉砕していく。舞う破片と埃に目を瞑る際は、ケルベロスに視界を預けて殴打を避ける。


 その背後では、ビアンカ(グングニル)が容赦のない攻撃を畳み掛けていく。


 いつの間にか、塀の上には多くの住民やバスターが戻っていた。彼らの目に映る戦闘は、例えベテランから見たとしても理解を超えたものだった。


「あのゴーレムを……圧している!? あれは確かにゴーレムなんだよな?」


「死霊術士のせいでアンデッド化しているはず。アンデッドは止めを刺すまで全力で動く。それを相手にまともに戦っているなんて、信じられねえ」


「あの一撃、喰らったら即死だぞ!? なんだあの回避は! バックステップから……2段階で飛び上がった!」


「俺達も加勢に……」


「いや、邪魔になるだけだ。あいつらの連携に分け入る隙なんてねえよ」


 時折魔法使いがプロテクトやヒールを掛ける程度で、もはやその場に居る者はただの観戦者だ。そんな外野達の数メーテ下の地面では、シークが仰向けに倒れたまま、バルドルに何度も名前を呼ばれていた。


「シーク、ああ、僕の歌で起こしてあげたいところだけれど、ゴーレムに狙われちゃあかなわない。起きておくれ」


 シークの意識がない今、バルドルに出来る事は呼びかけだけだ。共鳴は意識のない人間の体を使えるほど便利な手段ではない。


「シーク! 僕の声、聞こえないのかい」


 バルドルは心の中でシークの目覚めを願う。近くではゴーレムが地面を叩きつける音、ビアンカ(グングニル)が技を繰り出す声が聞こえる。


 その音や声、それに時折揺れる地面、それがシークを目覚めさせるきっかけになればと、がらにもなく祈っていた。


「シーク? シーク!」


 そんな時、バルドルの柄がかすかに握られた気がした。バルドルは祈りをやめ、再度シークへと呼びかける。


「シーク! 寝ている場合じゃないんだ! 頼むから返事をしておくれ!」


「……うっ」


「シーク! ああよかった! 体は起こさなくて良いからよく聞いておくれ。今、ゼスタとビアンカが応戦している。君はもう魔力も気力も随分消耗しているから、後は僕と共鳴をしておくれ」


「……バルドル、か」


「ああ、そうだとも。君自身の手で終わらせたい気持ちは分かるけれど、戦闘が長引くのは得策じゃない。僕を頼ってくれないかい」


 もう一度、今度はしっかりと柄が握られた。シークが僅かに頷く。


「僕は、君に頼られたいんだ」


「300年前、封印する事しか出来なかった4魔……その力に対抗するには、やっぱり君が必要だ。ね、バルドル」


「君も必要なんだよ、シーク。安心しておくれ、裏切り方を知らないものでね」


 シークは微かに笑ってもう一度頷き、共鳴のために体を明け渡した。バルドルはシークと共鳴してすぐに立ち上がり、潰れた防具をもう一度着てバルドル本体を構える。


「君と僕が共に組めば、勝てない相手なんていないんだ」


 バルドルの刀身に強く青い光が重なる。


「イグニスタが立ち上がった! 気が付いたのか? ……おい、すぐに臨戦態勢に入るのは無茶だ!」


「いや、さっきまでと何か様子が違うぞ」


「なんだあの剣にまとった禍々しくもまばゆい光は」


 観戦者達がざわつき始める。生きているのかも疑わしかったシークが急に起き上がり、しかも今までとは比べ物にならない光を帯びた剣を構えているからだ。


「シーク! あー違う、バルドルか?」


「うん当たり。こいつは当時の僕達、つまり伝説の武器と盾が勢揃いでも倒せなかったモンスターだ。倒すには渾身の力がいる」


「渾身……溜めの時間と、攻撃のタイミングをくれってことだな!」


「うん、そういう事」


「バルドル坊や! あんたの攻撃がしゃんと通用するよう、あたしが表面ば崩しちゃるけん! 腕も、胴も、よう狙って斬り!」


「どうもね、グングニル」


「見ときなさい……フル……スイング! どうかね、もういっちょ!」


 シーク(バルドル)はその場でマジックポーションを不味そうに2本飲み干した。魔力と気力の双方を高め、バルドル本体に留めていられない程の力を蓄える。


 具現化された光の刃は自身の背丈よりもはるかに大きく、ゴーレムの体長すら超える程にまで成長していく。


「そうだね、まずは肩から」


「今だ! バルドル!」


 シーク(バルドル)は刃を正面に構えて一歩を踏み出す。その一歩で一体何メーテ進んだのか、まるで縮地だ。


 たった一歩でゴーレムの脇に駆け寄ったシーク(バルドル)は、跳び上がって前方宙返りをし、左肩を魔法剣で斬り付けた。


翔龍破斬しょうりゅうはざん


 技名をかき消す破壊音が轟き、ゴーレムの腕が左肩から全て崩れ落ちた。


 ゴーレムは攻撃するための腕がない事に気付き、僅かに動きが止まる。その瞬間、一度着地したシーク(バルドル)が再び跳び上がった。


 魔法剣はそのまま維持されている。大きな刃が薪割のように上から振り下ろされた。


「ブルクラッシュ。シークはこの技が得意だからね、この一撃は君の分だ」


 気力と魔力を込めた強力なブルクラッシュによって、ゴーレムの首が落とされた。


 体は動きを止め、ただの岩となってその場に崩れ落ちていく。


 地面からは雪や土が舞い上がり、やがて静寂が訪れた。


「僕の主は強いんだ。この聖剣バルドルが認めた天才なんだ。その天才の一撃で倒された事に感謝すると良い」


 シーク(バルドル)は黒い目だけを動かすゴーレムの頭部へ、鋭い剣先を突き立てる。


会心破点かいしんはてん

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