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TRAVELER-10


「よし……ファイアーボール!」


 シークはまず、3体固まってビアンカを狙うゴブリンにファイアボールを放った。「ギャッ!」という悲鳴と共に3体が火に包まれ、その隙にバルドルを構えて突進する。


「はい左に2匹、右上から斜めに切り払ったらまとめて倒せる」


「分かった!」


「自分の軸足切っちゃうよ、足に気をつけて。根元から剣先まで全部使ってしっかり斬ってね」


「うおりゃ!」


 バルドルの的確な指示に従い、シークはゴブリンを突撃から僅か数十秒で6体倒した。ビアンカは槍でゴブリンの棍棒による殴打を防ぎながら、シークの動きに感心している。


「シーク、君ホントに魔法使いなの? 私より物理攻撃に慣れて見える……んだけど!」


 魔法を使いながら武器を扱うバスターは殆どいない。それも武器を極め、才能があればオマケ程度に魔法を習得するか、その逆がせいぜい。


 どちらもメインで扱う戦い方など、少なくともビアンカは聞いた事がなかった。


「グギュル……ギイィィ! ギィィ!」


「ギギギ!」


「ビアンカ!」


「うわっ、ちょっと何すんのよ!」


 ゴブリンたちは残り約10体。数体ずつ散らばっていたものが一斉に集まると、戦い慣れしているシークではなくビアンカへとターゲットが変わる。


「まずいよシーク。槍は敵に密着されると攻撃が繰り出せない」


「助けなきゃ! まずは手前のゴブリンからいくよ!」


「右から斜め下に切り払って、直ぐに左から水平に返し斬り。ジャンプやしゃがみ込みで避けた奴を確実に仕留める」


「了解!」


「キャー! も、何こいつら! ちょ、どこに手を入れてんの!」


 ゴブリンたちはビアンカをどこかへ連れて行こうとしているようで、ビアンカを押し倒すと引き摺っていく。それを見てシークはハッと気がつき、ビアンカへと叫んだ。


「ビアンカ! 多分、ゴブリンは巣に君を連れ帰って食べようとしてるんだと思う!」


「な、何ですって!? ちょっと、助けてよ!」


「もちろん! もしかしたら巣をそのまま一掃出来るかもしれない! 絶対に助けるから、任せて!」


 ビアンカは半泣きのまま頷く。ビアンカが引きずられていく中、シークはゴブリンを倒していく。時間は掛かったが無事に救出が終わると草原の先を指差した。


「お疲れ様。ビアンカを向こうへ連れて行く気だったみたい」


「君はおとり力が素晴らしいね」


「怖かったし、涎も飛んでくるし最悪……って、おとり力って、全然嬉しくないんだけど」


 10分ほど歩いていると、新たにシーク達を攻撃しに現われるゴブリンが増えてきた。もう20体以上を片付けている。


「どうやらゴブリンの巣が分かったみたい。あの岩場の下、穴が空いてる」


「はぁ、鎧が土まみれ。綺麗に洗いたいな……どうする? 中を覗くの?」


「取水場が近いから、いったんそっちで休憩しようか。倒したゴブリンの写真を撮ってくるよ」


「あー待って待って! 私1人の所をゴブリンが連れ去ったらどうするのよ! 一緒に撮ろう? ね?」


「なんなら2人で写るといい……と言いたいところだけれど、シャッターを押す事ができなくてごめんよ」


「大丈夫だよバルドル。君にはゴブリンと仲良く写ってもらうという大事な役割があるから」


 シークはゴブリンが消えていった岩場の穴を写真に撮り、そして戻りながら道中に倒したゴブリンを数え、全部で34体を10枚ほどの写真に分けて撮る。


 ゴブリンの巣穴の中がどうなっているか、新人2人が真っ暗な中を確かめに行くのは危険だ。結局管理所に報告し、後は任せようという事になった。


「取水所の堰近くの橋を渡って反対側に行くと、キラーウルフが出るっていうエリアだね。ゴブリンがいるってことは、こっちにはキラーウルフはまだ来てないってことかな」


「なるほど。キラーウルフの餌食になってしまうから、行動範囲が被らないように生活してるってことよね」


「うん。じゃあ橋まで行って休憩しよう、バルドルも一度綺麗になるかい?」


「お気遣い有難う。是非ともお願いしたい」


 シークたちは今日の最低限の稼ぎを確保できたという余裕が見える。元々緊張感がある2人ではないとしても、ゴブリンの群れを一掃できた事は大きな自信になったようだ。


 シークとビアンカは川沿いを歩き、取水用の堰が見える石の橋までやってきた。2キロメーテ上流には街道が通る大きな橋があるため、こちらの橋の往来は殆どない。


 ビアンカは半袖シャツ1枚の姿になると、水に布を浸してから絞り、丁寧に鎧を拭きだした。バスター2日目。僅かな傷にも敏感になるものだ。


 シークは周囲への警戒を解かずに見守る。バルドルは綺麗に洗われてピッカピカだ。


「ねえ、シーク」


「ん? 振り向いたらキャー! とか言って平手打ちをしてくるのナシだからね」


「そんなひっかけしないわ」


「んじゃあ、何?」


「やっぱり、バルドルって……自分で喋ってるんだよね」


「確かめようがないけど、そのようだよ」


「不思議よね。一体どこから声を発しているのかしら」


 バルドルは、どこから、と言われるととても悩んで見せた。いや、見せても気づかれない以上、ただ悩んだだけかもしれない。


「そうだね、僕の意思をこのアダマンタイト100%の心鉄しんがねに溜めて、アダマンタイト85%、ミスリル6%、ダマスカス鋼4%、ブラックドラゴンの鱗3%、ブルードラゴンの鱗2%の刀身に伝導させ……」


「……つまり?」


「僕にも分からないってことだ。人の脳が意思をお腹じゃなくて口で言葉にするのは何故か伺っても?」


「それは私には答えられない問題ね。不思議だけど、まあ、そういうものよね。不思議って分からないものだから」


「ビアンカが賢くて良かったよ」


 一体どこまでが本心なのか分からないやりとりに、シークが苦笑いする。もう休息は十分に取れたようだ。


 シークは2人分の鎧を乾かすため、ファイアボールを弱火で唱え、更に風魔法のエアロで器用に温風を発生させる。


「すごい! 魔法ってこんな使い方があったんだ。助かるわ」


「できれば戦闘の出来栄えで褒めてもらいたいところだけど。さあ、キラーウルフ討伐に向かうとしよう」



「依頼を横取りされた護衛の仕事って、取水所だったよね?」


「あ、そうだね、給水の機械が壊れてるから部品を交換するって言ってた」


「橋を渡るときにチラッと見えるかな。私が知ってる奴だったら今度文句言ってやろうかと思って」


「いいよ、後々面倒になるのは嫌だから」


 新人なのに、相手に文句を言える。とすると、シークとは別の学校に通っていたビアンカも優秀だったのかもしれない。見た目も可愛らしく強いとなれば、きっと知り合いも多いだろう。


 町に住んでいて名が通っていて、装備を見る限りは旅立ちの資金にも事欠かない。そんなビアンカが何故バスターとなった後、パーティーを組むことなく1人でクエストを受注していたのか、シークはふと気になった。


「ビアンカはさ、何でパーティーを組まずに仕事を始めたんだ?」


「えっと、その、信じないかもしれないけど、私をめぐって争いが起こってしまって」


「ふーん、そっか」


「シーク、早くこの子から離れて無駄な争いに巻き込まれない事をお勧めするよ」


「ちょっと! 言ってみただけよ! 発言を流されるのが一番傷つく」


 冗談が通じないんだから、とビアンカは呆れてため息をつく。もちろん、ビアンカは美しさについて問われるとすれば確かに綺麗な顔をしていて、性格も極悪ではない。


 そんな彼女が冗談でごまかす程の理由とは何か、シークは少し考えたが思いつかなかった。


 一方のバルドルはビアンカが嘘ではぐらかした事に重点を置き、見当違いの結論を導き出したようだ。

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