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discipline‐08


 

 持ち主達がようやく自信を持ち始めた。


 喋る伝説の武器達は、自分がどの武器よりも一番優れているという揺るぎない自信がある。加えて努力を惜しまない自分の持ち主は一番だ、天性の才能も備えているという誇りも持っている。持ち主には堂々としてい貰いたいのだ。


「シークは技の名前を考えるべきだね。魔法剣なんて誰も使っていない訳だし。思いついて適当に僕を振るだけでは格好がつかない」


「あたしはお嬢に覚えてもらいたい技がまだまだ山んごとあるばい。牙嵐無双がらんむそうも、流星槍りゅうせいそうも」


「ゼスタは技の発動タイミングを完璧にすりゃあ、もっと高く跳べるし斬撃も重く出来るぜ。春まで時間はあんだから何とかなるさ」


 武器達も俄然やる気だ。シークがルフの写真を撮り、ファイアーボールを掛けて処理している間にも、バルドルは難解な技名を幾つも候補に挙げる。ケルベロスは技の成り立ちの話を始め、グングニルはビアンカに華麗に魅せる技を説く。


 シーク達が強くなれば、その分武器達も実力を発揮できる。バルドル達の夢は膨らむ一方だ。


「ねえ、ヒュドラを倒したら、炎剣アレスが仲間になるよね。そしたら……手に入れたアレスはどうする?」


「パーティーメンバーを増やすって手もあるわね。まあ、アレスに戦いたいって意志があるのなら、ってことで」


「そうなった場合、どんな人をパーティーに入れるかだよね。あんまり歳が離れてると気を使うし、かといって同年代なんて見当もつかない」


「欲を言えば、リディカさんみたいな支援専門の魔法使いも欲しい所だよな。シークを後方支援に回すのは勿体ない」


「その意見には僕も賛成。僕の出番は多い程いいね」


 注目を浴び過ぎて辟易する時もあったが、1年も経たないうちに経験も実力も大いに上がった。ここからの後半戦は、前半の躍進を知っている者達すら驚くほどの成長を成し遂げる事だろう。


 そんな3人がパーティー募集を出したとなれば、とんでもない事になるのは目に見えている。応募の倍率がどれ程になるのか見当もつかない。


 条件を絞るとしたら、それはそれで応募資格を持つ者がゼロの可能性もある。同年代でせめてブルー等級に上がれる程の実力は欲しい所だが、そんなバスターが単独で行動していることなどまずないし、引き抜きも躊躇われる。


「魔法使い……か。回復術が使える仲間は確かに欲しい。魔術書の事もあるけど、根本的に俺は回復魔法に向いてないから」


「俺、伯父さんに聞いたんだけどさ。バスターは等級が低いと入っちゃ駄目って場所もあるらしいぜ。大森林は野放しだけどよ、北西のケイン諸島のオーリケ島とか、カナワ島とか、南のディーズ島とか」


「そういう場所に、もし強化された『アーク』級のモンスターがいたら、置いて行かなくちゃならないって事よね。それは困るかも」


「俺達が一緒でも駄目なのかな。装備をしっかり整えて向かっても駄目?」


「等級で線引きされてるからな。そもそも俺達、まだ武器屋のおっちゃんに装備代払えてねえんだぜ? どこに装備整えさせる金があんだよ」


「あ、そっか」


 いざ仲間を増やそうとすると人選が難しい。成長を待つ余裕もないが、かといって実力重視で加入をお願いした場合、大抵は歳も経験も上の者になるだろう。ベテラン面されてもいい気分がしないのは、ゼスタの件で分かっていた。


「もっとお金を貯めるしかないね。『バスターは食わねど高い装備』だよ、命あっての冒険さ」


「あんまり間違ってないけど、何か違う気がする。お腹空くのも命に関わるんだよ」


「僕はお腹が空かないものでね。お腹が空く事の危険性とやらが分からないんだ」


「ちょっと2人とも、えっと……何の話してたんだっけ?」


「あの……僕を『1人』で数えるのは、君達が『1個』と数えられるのと同じだと、覚えていて貰えると嬉しい」


「あ、ごめんなさい。1本でいいかしら? グングニルも1本よね? ケルベロスは……1組かしら」


「だー! 話が進まねえ!」


 ゼスタが頭を抱えて、会話を引き戻そうとする。シークは真面目なくせに緊張感がない。特にバルドルと話しているとすぐに脱線してしまう。


 ビアンカもビアンカでマイペースだ。勝気でサバサバした性格の割に、育ちの良さなのかぽやんとした所がある。


「いいか、『言葉多き者は品少なし』って言うんだ。バルドル、お前あんまり口数が多いと聖剣としての品格を疑われるぜ?」


 ゼスタはバルドルを形だけ睨み、ケルベロスやグングニルにも視線を向ける。しかし意味を正確に理解していないのか、それとも自覚がないのか、バルドルの心には全く響かない。


「口がない僕には当てはまらないね、ご心配どうも」


「あーもう、つまり今は黙れってことだよ! シークも呑気に漫才やってんじゃねえって、ビアンカもペースに乗せられんな」


 腹もないのに腑に落ちない様子のバルドルを無視し、ゼスタは強引に話を元に戻す。


「どこまで話が進んだっけ」


「魔法使いの件だよ」


「あーそうだった」


「とにかく! アレスとアルジュナを扱える人を仲間に入れたいし、魔法使いも必要だ。でも全員入れるならどっちかは連れていけない事になる」


「5人規制に引っ掛かるから、か。魔法使いにどっちかを持たせるのは?」


「おいおい、回復魔法に秀でて、加えて武器攻撃にも適性がある奴なんているかよ」


「そっか。治癒術士ってそもそも攻撃性能を犠牲にしてる訳だし、武器で攻撃なんて考えた事すらないよね」


「……シャルナクを誘うのはどう?」


「バスターですらねえからな。これから人間と獣人の橋渡しをしようって時に、戦いに巻き込めねえよ」


 パーティーに加入させるとなれば、必然的に伝説の武器の使い手になる。後から全く接点のない者を招き入れるとなると、武器達が認めるような性格なのかの見極めも出来ない。


「……ねえ、伝説の武器を扱える人っていう条件だと、やっぱりベテランの人しか該当しないと思うの。歳が近い赤の他人で、アレスやアルジュナが持ち主として選んでくれそうな人なんて、探せる自信なんてある?」


「俺は……ないな」


「お、俺だってねえよ、あーでも……」


「ゼスタ、もしかして同じこと考えてるかも。絶対に扱える人、私心当たりがあるの」


「俺も、剣、弓、どっちもこの人だったらって」


 ゼスタとビアンカは頷き、シークをチラリと見る。シークも心当たりがあるようで、2人が誰の事を言っているのかを察した。


「……カイトスターさんと、レイダーさんだね」


「そう。この際、パーティーメンバーを増やして武器を扱ってもらうって考えは捨てて、まずは武器をどうするか、そこから考えようかと思うの」


「それは良い考えだ! 武器の事を最優先に考えてくれるなんて、俺っちに目でもありゃあ涙流して喜ぶところだぜ!」


「なんね、そんな実力のあるバスターなん? お嬢が言いよったリディカっち人の仲間やったんよね?」


「ええ、そうよ。テュールは離脱しちゃったけど、攻撃職2人が使いこなしてくれれば、アークドラゴン戦で援護して貰えるかも」


 2人はシーク達にとって最も信頼できるバスターだ。魔王教徒である可能性、謂れのない噂による逆恨み、それらの心配をしなくて済むバスターで、なおかつシーク達よりも強い。


 もう3人にとってはそれしかない、という結論になり、バルドル達もそれに同調する。


「今から仲間を招き入れるには、君達は成長しすぎた。既に出来上がった君達の連携に、不用意に1人追加することになる。総合的に強くなるかは分からない」


「パーティーでって考えを捨てて、協力者を増やす方向で行くか」


「決まりだね。じゃあ、この話をさっそくゴウンさん達に伝えなくちゃ」


「管理所で移動履歴確認してもらって連絡、だな」


「異議なし!」

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