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Devout believer-12

 

 警官が許可しますと叫び、胸ポケットから戦闘行為の許可に関する証明書を取り出す。周囲の建物の窓からは住人や宿泊客達が何事かと覗いている。


「おまわりさん、私達も行きます!」


 警官が2人に手錠を掛けたところで、ゼスタとビアンカも立ち上がる。シャルナクに怪我がないかを確認した後、ゼスタがケルベロスの片方を受け取り、逃げた男を追って走り出そうと踏み出した。


「ちょっと待ち!」


 グングニルがそんな2人を引き留める。何故だと足を止めた時、術を発動させる声と共に新たな毒沼が発生した。


「きゃっ!?」


「この野郎……この期に及んで抵抗かよ!」


死霊術士ネクロマンサーを舐めてもらっては困る」


 ゼスタとビアンカが振り返った時、死霊術士がニッと笑った。身柄は拘束したが、魔法使いは術を唱えれば抵抗が出来る。その事をすっかり忘れていたのだ。


 警官は、魔力を封じる魔具を持ってきていなかった。


「署から魔具を持ってきます! それから応援要請も出してきます!」


「お願いします! この場は俺達に任せて下さい!」


 警官は慌てて署へと駆けて行く。ゼスタはシャルナクとマスターを宿の入口まで避難させると、立ち上がった死霊術士にタックルを仕掛けた。


 それでも死霊術士は詠唱を再開しようとする。ゼスタはケルベロスを喉元ギリギリに突き立てた。


「二度も唱えさせないぜ。少しでも喉仏が動けば血が溢れるぞ」


 ゼスタはいつもより低い声で睨みを利かせる。


 許可されていない場面で武器を使用する者や、魔法を唱えて他人を傷つけようとした者を捕える場合、多くは危険の回避、もしくは正当防衛と見做される。


 おまけに目の前のローブ姿の男達は、シーク達やその家族への奇襲を暴露した。


 仮に警官と管理所のマスターがいなかったとしても、シーク達の証言は証拠として採用される。バスター協会の本部職員と同等の地位にあるからだ。


 シーク達はバスター、もしくはバスターに危害を加えようとしている者を、取り締まる事が出来る立場にいるのだ。


「ゼスタ! 私の方はいいから、そいつの詠唱だけは抑え込んでてよ!」


「おう」


 ゼスタは男の喉元からケルベロスを少し離す。すると死霊術士はすぐに口を開いた。


「アークドラゴンによる浄化を何故邪魔する! この世は新たに生まれ変わらなければならないのだ!」


「あんたらも死ぬぞ、いいのかよ」


「お前らと一緒にするな! 魔王の手足となって動く我々信徒は、新世界に存在することを認められるのだ! ……ヘルファイア!」


「……!? ぐっ」


 喋る事が出来ないようにとケルベロスを喉元に近づけようとした瞬間、漆黒の炎がゼスタを取り囲み、その身を焼かんと燃え盛った。


 ゼスタがもがく間、男はゼスタの拘束から抜け出し立ち上がった。手錠を掛けられていても、足さえ動けばその場から逃げる事が出来る。


「ハッハッハ! 死霊術の恐ろしさが分かったか! 我々を甘く……うぐっ!?」


「ビエルゴさんに造ってて貰ってよかったぜ。エイントバークスパイダー製の防具をナメんなよ! ケルベロス、いくぜ!」


 ゼスタに纏わりついていた漆黒の炎が消えた。同時にゼスタも死霊術士の前から消えている。


 その瞬間、死霊術士の右腕に鋭い痛みが走った。ローブはパックリと裂け、深く斬り割かれた腕から血が垂れている。


「ああああアアァァ痛エェェ! なぜ、なぜあの炎からァァ!」


「教えてやろうか……双竜斬!」


 ゼスタが空中で前転し、回転の遠心力を使って背中を斬り付けた。死霊術士は痛みに転がり苦しむ。


「貴様……! ぐっ……ならば次こそ……ヘルブラスト!」


 死霊術士が吐息程の声で術を唱えた。その場には黒い風の刃が発生し、渦となってくるくると回りだす。容易には近付けそうになく、ゼスタは一番間合いを取れる技が何かを選んでいく。


「ケルベロス、剣閃使ってあいつを殺さずに仕留められるか?」


「いや、無理だな。あいつが真っ二つになる」


「チッ、遠距離攻撃なしのダブルソードに厳しいぜ」


「何をブツブツ言っている! さあ漆黒の風がお前を切り刻むぞ! 死ねェクソガキィ!」


「ウワアアアアアァ!」


 ゼスタがケルベロスを構え、風の刃を防ごうとする。その瞬間に風の刃は消え、悲鳴が上がった。声の主はゼスタではなく、術者である死霊術士自身だった。


「お嬢!」


「破アァァ!」


 死霊術士は、突如として空から降って来た仲間に押し潰された。ビアンカが取り押さえていた男の腰ベルトにグングニルをひっかけ、スクープアタックでぶん投げていたのだ。


 更にビアンカがフルスイングを繰り出し、グングニルの柄で殴る。


「ふう、間に合った。ゼスタ、相手が人間だからって手加減し過ぎ」


「あーありがとよ、おめーは容赦がなさ過ぎだ!」


「ぐっ……」


「ゼスタ、こいつまだ意識があるぜ。もうひと思いにやっちまえよ」


「馬鹿、それじゃただの人殺しだろ。あ、そうだ、最後に教えてやるよ。お前の死霊術に優秀な防具で耐えてる間、ケルベロスの魔石の成分がお前の術を吸収したんだ」


「ケルベロス……そうか、その双剣が……グフッ!?」


 ゼスタは種明かしをした後、ケルベロスの柄で死霊術士の背中を強打した。死霊術士はそのまま意識を手放した。


「殺さずに勝つって、難しいよな」


「そうね。でもこれからはもしかしたら、モンスター戦よりも多くなるかもしれない」


「こんな毒沼を所構わず出されちゃ困る。直接対決をするなら町の外の方がいい」


「シークは大丈夫かしら……」


 術者が気絶した事で、2つの毒沼は地面に吸い込まれるように消えていった。


「大丈夫さ。警官が戻ってきたら探しに行こう」


シークがどこへ向かったのかはもう分からない。ゼスタ達は路地の先を見つめ、シークの無事を祈っていた。





 * * * * * * * * *





「ファイアーボール!」


「ハァ、ハァ、ぐっ……クソッ! 人形が来ない、何故だ!」


 ゼスタとビアンカが魔王教徒に勝利した頃、シークは死霊術士を町の外に逃げるように仕向けつつ追いかけていた。


 このまま追えば町の北門に辿り着く。門と逆に向かおうとすれば、シークはその方向にファイアボールなどの魔法を放って、向かわせないようにして誘導した。


 人形として連れていた死人傀儡、つまりアンデッドは、ダストボックスに鍵を掛けられたために出て来れない。それを知らない死霊術士は、傀儡の操作を何度も試みていた。


 傀儡となっていた死体は、戻ってきた警官の魔具によって動きを封じられている。


「バルドル、もう少しで門に着く! 君の信条に合わないかもしれないけど、人間を峰打ちする事に罪悪感は?」


「そうだね、強いて言えば特にないかな」


「それは良かった……じゃあ行くよ! ブルクラッシュ!」


「おっと、この気力の込め方はなんとも物足りない」


「流石に手加減はするさ!」


 シークは走る死霊術士との距離を一気に詰め、バルドルでその背を殴りつける。技名を口にした事で、死霊術士がシークへと一瞬振り向いた。


「ぐっ……!」


 確かにシークの一撃はヒットした。確かな感触もあった。しかし死霊術士は背中を強打されたというのにそのまま走り続ける。シークはその男ではない何かが転がるのを見て、一瞬顔を歪めた。


「……ゴブリン! あいつ、ゴブリンを召喚して身代わりにしたんだ」


 シークは、今度はファイアーボールを唱えた。勿論、死霊術士に当てるつもりだ。しかしその炎の弾丸もまた、身代わりとして召喚されたモンスターに当たって消えた。


「案外手強いかもしれない……おっと!」


 シークの足元に毒沼が設置され、寸前でシークが踏み切って飛び越える。


 シークの思惑を知ってか知らずか、死霊術士はそのまま大通りを北門へと向かう。死霊術士はシークが手をのばせば届く程の距離を保ちつつ、呼吸も荒いままで門をくぐった。

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