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Once Upon A Time  作者: lilac
6/12

P.6 微笑み

 「本当にすみません、手伝って頂いて……」


 掃除がようやく一段落着きそうなところでヴァイオレットは一度箒を止めると、セオドリックと目を合わせ、申し訳なさそうに謝罪した。


 「僕が好きでやってるんだから気にしないで」


 しかし、セオドリックは優しい笑顔でそう返し


 「それより、いつも君は一人でこんな大変な掃除をしているのかい?」


 と尋ねる。


 「え、えっとまぁ……そうですね……」


 彼の寛大さに喫驚しつつ、ヴァイオレットはそう答えた。


 本当は館長と日替わりなのだが、いつも忘れる館長の代わりにヴァイオレットが毎日やっているので実質彼女一人。


 そろそろ掃除屋でも雇おうかと考えていたところである。


 「女の子一人でこれはかなり酷だろう? 毎日やってるの?」


 「え、えぇ、そうですね。やっぱり此処にいらっしゃる方には、最高の状態で読書をして頂きたいので……。そ、それに毎日やっていると意外と慣れるものですよ」


 「はは、本当に優しいな、君は」


 セオドリックは参ったような顔をしてくすくす笑った。


 「いえ、そんなこと……セオドリックさんの方が余程優しいと思いますよ?」


 「えぇ、僕が? それは無いよ」


 「ふふ、優しい人は誰でもそう言うものです」


 「そうかなぁ」


 二人の声が楽しそうに館内に響く。


 あぁ、ずっとこうしていたいな……


 ヴァイオレットは密かにそう思いながら、再び箒を進める。


 すると、掃除の終わりと決めていた場所に辿り着いてしまった。


 「あ……あの、セオドリックさん、お掃除終了しました。本当にありがとうございます」


 残念だなぁと落胆するも、いつの間にやら少し離れた場所にいたセオドリックにそれを悟られないよう、明るめの声で話し掛ける。


 「うん、お疲れ様」


 「あの、箒や雑巾はそこに置いておいて下さい。私が片付けますから」


 「女の子に荷物持たせる訳にはいかないでしょ?」


 「え?! あ、いやちょっと……!!」


 本当にどこまで優しいのだろうか。


 セオドリックはくすっと微笑み、ヴァイオレットの箒もひょいっと奪うと、そのまますたすたと歩いて行く。


 「ところで、これはどこに置けばいいんだい?」


 「で、ですから私が……!」


 「いいの。折角僕がいるんだから、もっと頼って?」


 「うぅ……で、ではあの……こちらに……」


 ヴァイオレットはセオドリックの爽やかな笑顔と甘い言葉に負け続きである。


 司書室の目の前まで案内し、


 「此処に置いて頂けますか?」


 とお願いするとセオドリックは、


 「うん、分かった」


 そう頷き、そっと掃除用具を下ろした。


 「本当にありがとうございました、何かお礼出来ることはありませんか……?」


 「うーん、お礼かぁ……僕はお礼の為に協力した訳じゃないけど、お礼なんていらないって言っても、君は聞かないだろ?」


 セオドリックは悪戯っぽく笑ってそう茶化す。


 そんな様子が面白くて、ヴァイオレットは「その通りです」と笑い返した。


 「そうだなぁ……。あ! じゃあ君のおすすめの本を教えて欲しいな」


 「へ……?」


 想像の斜め上の回答にヴァイオレットから思わず素っ頓狂な声が漏れる。


 「ん? もしかして駄目かな……?」


 「あ、いいえ! そんなことは無いのですが、あの……本当にそれで良いのですか……? セオドリックさんの苦労に見合っていないような気がするのですが……」


 「ふふ、見合うと思っているからお願いしているんだよ?」


 「……!!」


 あまりに嬉しい言葉にヴァイオレットは顔を真っ赤にすると、


 「す、すぐに探して持って来ます……!!」


 と叫び司書室へ消えた。


 「あはは、可愛いなぁ……」


 表情をころころと変え、愛くるしさを感じる彼女に、セオドリックは心の中でヴァイオレットの知らない『誰か』を重ねていた。


 ――もし、あの子が生きていたなら、こんな風だったのだろうか。


 「…………」


 少し寂しそうに口元を緩めたセオドリックは、先程の彼からは想像出来ないような顔をしていた。


 「……ようやく、見つけたよ」


 そしてぽつりと呟く。


 その呟きは、一体誰に向けたものだったのか。


 そしてその真意は何なのか。



 ――彼以外には誰にも分からない。



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