P.2 朝の風景
場所は変わり、此処は台所。
じゅうぅ、という油と絡まりながら何かが焼ける音が響いている。
それと同時に、砂糖がたっぷりと、少しの牛乳が加えられた卵料理のふんわり甘い匂いが部屋中を満たした。
——そう、オムレツである。
「えいっ」
少女の可愛らしい掛け声でお皿に移されたオムレツは、真っ白な丸い背景に浮かぶ、向日葵の如くに輝いた。
お皿をテーブルに移し、銀色のフォークとナイフをカチカチと鳴らしてお皿の横に配置させると、棚の中から瓶を取り出す。
こつんっと軽い音を立てて蓋を開け、くんくんと匂いを嗅ぐと、果実の甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
少しとろみの付いた赤黒い液体——ブルーベリーやブドウ、クランベリー、レモン、クルミ等のフルーツから出来た特製ケチャップをオムレツの上へ掛ける。
すると、窓から注がれる太陽の光を反射してきらきらと光を放った。
「わぁ…!とっても美味しそう…!!」
本に記載されていた通りの物を自分の力で作れた事に感激しつつ、少女は早速一口サイズにカットしたオムレツにケチャップを絡めて口へ運ぶ。
甘酸っぱいケチャップと、濃厚な味のオムレツが口の中でとろけ、何とも幸せな気分に満たされていく。
頬が落ちるとは、正にこの感覚なのだろう。
そう思う少女は、その後も止まることなくフォークとナイフを動かし続け、五分もしないうちにお皿を平らげてしまった。
「ふぅ〜美味しかった〜」
思い切り背伸びをすると、時計を見る。
高級そうな見た目の小さな置き時計は、九時半を示していた。
「もう三十分か…そろそろ準備しようかな。」
うんうんと頷き、少女は身支度を整え始めた。
顔を洗い、髪を整え、クローゼットから服を取り出す。
簡単に荷物をまとめ、身支度を終えてゆっくりと家から出て来た少女は、藍色のセーラーカラーの付いた、真っ白なビショップスリーブのブラウス。
前開きになった藍色の編み上げコルセットスカートの中から真っ白なレギュラー丈のフリルスカートを覗かせ、足元を黒いタイツとシックな茶色のブーツで飾っていた。
彼女の年齢から考えると、少し地味な格好である。
しかし、彼女はあまりお洒落に関心が無いのと、仕事柄派手な格好をする訳にもいかないのでこの服装で落ち着いていた。
少し涼しげな風が足元を掠め、スカートがふんわりと柔らかに揺れる。
「涼しくなったなぁ……」
ぼそりと呟き、少女は仕事場へ歩き出した。