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ガラクタ箱の雫  作者: アオノクロ
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繰戦久闘

 いつからか世界は戦争をしていた。

 戦争がいつから始まったのか、何故起きたのか、それは誰も知らない。

 世界中の誰もが知らないほど、忘れてしまうほど長い間戦争を続けていた。

 毎日どこかでミサイルが飛び、銃弾を交わし、人々は疲弊していた。

 そんなある日、ある国の、ある博士が兵器の研究をしている最中、考えていた。

「私は国からの依頼で兵器を研究しているが、それでも戦争は終わらない。それどころか他の国も兵器を研究し、さらに強い兵器を研究する、そしてこの国も、そして戦争は繰り返していく」

 博士も人々と同じく、終わらない戦争に疲れていた。そして兵器の研究をする傍ら、戦争を終わらせる方法はないかと考えていた。

 そんなことを考え続けたある日のこと。

「戦争が起こる原因の一つは、会話や考え方の不一致やすれ違いだ。ならば人々が会話を、対話を簡単に、かつ鮮明に相手に伝えることができるようになれば、戦争はなくなるのではないだろうか」

 そう考えた博士は今まで行っていた、国からの依頼されていた兵器の研究をやめた。代わりに、人の脳の研究を始めた。

 しばらくの間は博士も疲れているから気分転換をしているのだろう、これも新たな兵器のアイデアなのだろうと、博士の周りにいる人たちは何も言わず見守っていた。

 しかし、博士が兵器などではなく、逆に戦争を終わらせる研究をしているのだと知ると、激しく博士を問い詰めた。

「国が大変なこの時に一体何を考えているのですか! 我々が求めているものはそんな戦争の役に立たないものではありません! 今後一切、あなたに研究資金の支給は絶たせていただきます!」

 まず国から言われたように資金が絶たれた。

「博士、国からの依頼を断ってから研究資金が足りません。私たちも生活があるので、これ以上博士といる事はできません」

 そして続くように、研究所を維持するお金もなくなってしまい、それに合わせて研究職員もいなくなった。

 独りとなった博士は研究どころか日々の暮らしに苦労するようになった。

 それでも博士は研究を続けた。

 たった独りで細々と研究を続けた。

 今までとは雲泥の差となった環境で研究を続けた。

 これが平和につながると信じて研究を続けた。

 博士が研究を続けて数年が経った。

「そうだ、これだ。人の脳をこうすればテレパシーを、言葉を使わず、自分の意志を相手に伝えることができるようになる」

 その日、博士はついに求めていた研究成果を発見することができた。

 博士は発見した研究成果を持って、以前研究資金をくれていた国に報告した。

「博士まだそんなことをしていたのですか。今からでもそんなくだらないものを捨てて、我が国の兵器を研究してくれるというのなら雇いますよ」

 諦めて研究所にいた元研究職員のもとへ行った。

「まだそんなことをしていたのですか。懲りませんね、博士も。そんなことをしていてもお金は稼げませんよ。ですが博士にはお世話になりましたからね。私の下に着くというのならば雇いますよ」

 諦めて肩を落としながら博士は帰った。

「これさえあれば、戦争は終わるのに。しかしこれ以上は自分独りではどうしようもない」

 机に置かれた研究成果を見ながら、博士は慎ましい食事をとった。

 すると日課となったラジオからこんな放送が流れてきた。

『ガー、新しいニュースです。……にある、ピー、ガガッ、国では、戦争を止めようと、ピーピー、呼びかけています。ですが、ザー、その為の方法がないため、ガーガー、困難しているそうです、ザー』

 博士はすぐさま研究成果を手に取るとラジオも切らずに、その国へと向かった。


「素晴らしい! 是非とも我が国で行ってくれたまえ! 資金ならいくらでも出す! 博士用の研究所も建てよう! それと助手、研究職員もいるな!」

 その国は博士と研究成果を歓迎して迎え入れた。そして研究のための環境を惜しむことなく整え、できる限りの協力をしてくれた。

 博士の指示のもと、その国に歪な電波塔を建て、博士の研究成果である特殊な電波を世界中に流した。

 その電波は世界中余すことなく人々に届き、電波を浴びた人は全員が言葉を使わず、お互いに意志のやりとりができるようになった。

 最初は混乱していた人々も落ち着き始め、お互いの意志が伝わり始めた。

 戦争をもうやめたい、もう疲れた、これ以上人同士で、国同士で争うのはもう嫌だ、人々が気付いていなかった戦争が終わって欲しいという人々の意思はすぐに世界中で広がり、やがて統一された。

 戦争の音が止むのはそれからすぐのことだった。


 世界中で絶え間なく続いていた戦争は遂に終結した。

「私はただ戦争を終わらせたかった、それだけです」

「博士がいなければ終わらせる事はできなかった。我が国ではなく博士のおかげです」

 戦争を終わらせた立役者である博士、いち早く終わらせようとした国は世界中で喝采された。ある者は膝まずき、ある者は涙を流しながら、その国と博士に感謝した。

「こんな素晴らしい研究をしていたとは、あの時は本当に申し訳ありませんでした」

「私では博士の考えに気付けなかった。感服です」

 博士を雇っていた国も元研究職員も博士に謝罪した。

 こうして人々は言葉を使わなくても会話ができるようになった。

 壁となっていた国特有の言語は必要なくなり、各々の思考も、すぐに理解がされるようになった。

 戦争ではなく、復興の音が世界中で聞くようになり、その音は発展の音と移り変わっていった。

 戦争をしている間に進んだ技術を今度は、人々の進歩のために扱おうと研究する。

 その研究者の中に博士もいた。

 世界は平和だった。

 いつから始まったのか、何故起きたのか、それは誰も知らないほど長く続いた。

 世界中の誰もが博士のことを知らないほど、忘れてしまうほど長い間平和は続いていた。

 毎日どこかで誰かが笑い、挨拶を交わし、人々は生活していた。

 そんなある日、ある国の、ある人と人が喧嘩をしていた。

 何故喧嘩をしていたのか誰も知らない。人の目にも、監視カメラにも映らない場所で喧嘩が起きた。

 そして二人が喧嘩別れをした後、喧嘩をしたままの怒りが人々に伝わった。

 長らく起きなかった怒りという感情はすぐに広まった。

 最初の二人から、家に、町に、市に、国に、そして世界中に広まっていった。

 些細なことでいがみ合い、怒鳴り合い、掴み合い、取っ組み合いになる。

 何故言葉を使わず意思の疎通ができるのか、何故誰もが忘れた博士ができるようにしたのか、そのことを思い出すには時間が経ちすぎていた。

 どこかで乾いた音が響き、どこかで火の粉が舞い散った。誰かが押してはいけないボタンを押すのに時間はかからなかった。

 


 いつからか世界は戦争をしていた。

 戦争がいつから始まったのか、何故起きたのか、それは誰も知らない。

 世界中の誰もが知らないほど、忘れてしまうほど長い間戦争を続けていた。

 毎日どこかでミサイルが飛び、銃弾を交わし、人々は疲弊していた。

 そんなある日、ある国の、ある博士が兵器の研究をしている最中、考えていた。


 世界中で戦争が起こっている最中、ある国の博士が思いついた。

「人々はお互いの思考、意思や感情が分かるから、共通することができるから戦争が起きた。それならばお互いの思考が伝わらなくなれば戦争は無くなるのではないか。そういえば人には口があるのだからそこから意思を発信するなどすれば善いのではないか」

 博士は脳の研究を始めた。それが戦争を終わらせると信じて。

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