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T.T.O.T.T  作者: むこーむこ
Development:The snake which cannot cast its skin has to die.
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09 Hikari Asagata-亜沙方光-

 ファズエラの判定中、頼は目をきょろきょろさせたり、手足の指を動かしたり、とにかく落ち着かなかった。

 能力評価。

 この四文字を意識しすぎるのが頼の悪い癖だった。


「気にしちゃいけない、気にしちゃいけない」


 思考を言葉で埋め尽くそうとぶつぶつと念仏のように唱える。

しかし、どんなに念じてもその僅かな隙間をかいくぐって感情が顔を出してくる。

自分に戦士の適正があるはずはない。

 いや、しかし自分はあの向井豪の血が流れている。

 不安と期待。交錯する二つの思いが波のように押し寄せていた。

 そして――


「心して聞け」


 ――判定結果が出た。


「身体能力B。精神性A。攻撃性SSS。協調性Dマイナス。倉井頼。お前の戦士としての潜在能力はSだ」


 抑揚のないしゃがれ声でファズエラが告げた時、三人の目はしばらくの間モニターに釘付けだった。


「……潜在能力、Sランク」

「まさか……だってこれ」


 亜沙方は傍に置いてあったタブレットを手に取る。


「やっぱり……身体能力を除いて隊長と全く同じ評価ランク……あっ」


 それは何かを確信したような表情だった。頼の元へと近寄り、彼の顔を様々な角度から観察しはじめる。


「あの、何ですか?」

「倉井君。ひょっとして君は」

「ああ。倉井豪の息子だ」


頼の代わりに答えたのは堂壁だった。


「やっぱり……戦士としての才能にある程度の先天的遺伝性が影響しているって言うのは聞いていますが、でも、ここまで一致するデータなんて見たことが。しかもSランクでなんて」

「だが、これが事実なんだろ。なあ頼」

「えっ、あっ……」


 頼はその時やっとモニターから視線を外した。


「転入して正解だったな」

「……そんな、でもこんなの……何かおかしいよ」


 それは心のどこかで期待していた結果だった。しかしいざそれが現実のものとなると、頼はどうしていいか分からない。

 軽くパニックだった。同時に何か罪悪感のようなものを抱いているのか、堂壁とも目を合わせられない。


「堂壁君……」

「俺のことを気にしているのか? 馬鹿な奴だ。こういう時は素直に喜べ」

「……うん」


 堂壁の広い心に助けられ、頼は少しほほ笑んだ。


「……早く、上に報告しないと」


 亜沙方が部屋を出ていこうとする。


「おい待てよ。俺たちはこの後どうすればいいんだ」

「あっ、ごめんなさい……ええと、二十五分後に模擬戦闘訓練の授業があるから別館のトレーニングルームに行ってもらえる?」

「分かった……じゃあ休憩がてらコーヒーでも飲み行くか。頼、行こうぜ」

「あっ、うん」




 ■■■




 一階、カフェテリア。


「ねえ、純一郎君、君は中等部時代、戦士科にいたの?」

「……別にいいだろ」


 邪険にそう言ってコーヒーをすする堂壁。

 ただ頼はどうしてもさっきの亜沙方の言葉が心に引っかかっていた。


「どうして研究科に」

「逆に訊ねるが、なぜ他人の俺のことに興味を持つ」

「……だって、やっぱり君は戦士向きだって思うから」

「しつこい奴だ」

「だって……」


 頼の顔が俯く。

別のことを考えていた。


「まだ後悔してるのか。ここに来たことを」

「後悔、ってほどじゃないけれど。でも」

「……儚志梢、か」


 堂壁がその名前を口にした時、頼の手がテーブルを揺らした。その拍子にカップの中の液体が波打ち、受け皿にこぼれる。


「あっ……ごめん」

「……復讐か」

「うん……でも、それだけじゃない」


 鮮明に浮かぶ一か月前の記憶。


『頼。俺と同じ戦士になれ』


 目の前で大切な人が殺されたというのに、自分の父親が言ったのは慰めではなくそれだ

けだった。

復讐しろ。

 だが、それでも声を掛けられてうれしいと感じている自分がいる。


「お呼びだ」


 堂壁が立ち上がる。

時計を見ると、授業開始時間まであと五分だった。


「どこ見てんだよ頼。ほら、あいつ」

「あいつ……?」


 堂壁が目で示したのはフードコートの玄関だった。

 そこに一人の少女が立っていた。


「牧島千鶴」カップを返却口に置いた堂壁が頼の脳に刻みつけるように言った。「戦士高等科訓練生。潜在能力A。さっきクラスにいた女だ」

「牧島、千鶴」

「牧島は訓練生にも関わらず、イグサイズ本部部隊のメンバーとして、すでに数回MHO討伐に参加している。しかも前回の参加は第一部隊、お前の親父さんが隊長を務めている部隊だった」

「父さんの!? ……あっ」


 自分の声が思ったより響いたことに気付き、口を押えて縮こまる頼。

 しまった。牧島さんにも聞こえてしまっただろうか。

 恐る恐る視線を向けると、銀色のショートヘアーが特徴的なその少女は二人の元へと近付いてくる。


「五分後。別館の、トレーニングルーム」

「ああ、悪いな。わざわざ……って――」


 必要最低限の言葉をまるで機械のように告げた少女は、二人の反応を待たず、その場から立ち去っていく。


「――無視かよ」

「なんだか変わった人だね。目が合った時も無表情だったし」

「まあそれでもお前の目標だ」

「……目標?」

「言っただろ。訓練生でも実力を認められば本部の討伐隊に参加できる。自分の手で復讐するつもりなら牧島のようになるしかない」


 堂壁の言葉で気付かされ頼ははっとしたが、すぐに表情が暗くなった。


「……僕、研究生の時は梢が目標だったんだよね……全然ダメだったけれど」

「おいおい。これから模擬練だっていうのにそんな弱腰だと勝てるものも勝てねえぞ……ったく」


 堂壁は頼の背中を叩き、行くぞと首で合図した。


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