39 An eye for an eye, a monster for a monster.ー目には目を、怪物には怪物をー
倉井豪の剣の腕はイグサイズの中でも三本を争う。
一体誰がそんなことを言ったのだろう。
縦横無尽に空を切る二本の刀とナイフ。
その嵐の中を雨あられと飛び交う銃弾。
それら全てをこの男は体術で交わし、一本の刀で捌いている。
憎たらしいほど涼しい顔をして。
こんなの、世界で一番じゃないか。
「当たれっ! 当たれよっ!」
勝負を急ぐように、休みなく動き続ける“四本の腕”。
しかし、当の本人の両手は胸の前で握られ、祈りを捧げていた。
分かっている。
父さんを殺したら、僕は必ず後悔するだろう。
なぜ、あんなことになってしまったのかって苦しんで、悩んで、罪悪感を抱き続ける。
どうすればいい? どうすれば良かった? もっとうまくやれば、こんなことにならずに済んだんじゃないか。
どうせそうなると分かっている。
だからと言って、もう引き返せないってことも。
ならば、せめて早くこの悪夢を一秒でも早く。
「当たれえっ!」
三つの刃で上左右から同時に切り込む。
これなら回避できても方向は限られている。
交わした所を“葬儀送り”で狙えば……
しかし、頼の未熟な戦術は、百戦錬磨の剣豪には通用しなかった。
「D評価だ」
敵の懐に飛び込むという一手。
それはヒット&アウェイを基本としてきた自分の選択肢にはないものだった。
「くそっ」
長いリーチが仇となった。
すかさず銃を連発するが、豪はそれを軽々と跳び交わし、伸びきった巨大な腕に容赦なく刀を振り下ろす。
「うあああああっ!」
その痛みはこれまでに感じたことのないものだった。
まるで目の前で心臓を削り落とされていくようだ。
頼の悲痛な叫び声も虚しく、腕は二本、三本と切り落とされていった。
そして四本目の腕が地面に転がった時、頼は死の恐怖を感じた。
「何だよ……何でだよっ!」
使い慣れた腕から二丁の機関銃を生み出し、引き金を引く。
一秒で十数発の弾を送り出す、凄まじい速射音が鳴り響いた。
だが、それも二秒を待たずに静かになる。
「ぐううううッ!」
機関銃と手が地面に落ちる。
手首から大量の血が流出し、腕を染めていく。
強い。
強すぎる。
「……くそぉ……畜生っ……」
すとんと力が抜けるように膝が落ちる。
胸に込み上げてくる無力感や怒り、悲しみ。
それらの混合物が身体の容量を超え、溢れ出るかのように涙が零れた。
間もなく肩から腕が再生し新たな手が生まれたが、それすら気付かず、涙は流れるままに頬を伝い、落ちた。
「後人適正がMAX値でも、腕が鈍けりゃ話にならん。だからこそ、俺はお前に強く鳴って欲しかったんだがな。そしてお前と一緒にこの間違った世界を変えたかった」
自ら斬り落とした息子の手を拾い上げた豪は、頼本人にではなくその手に語りかけるように言った。
「だが、そのために儚志梢を殺めたのは事実だ。お前のフォビックオリジンを目覚めさせるためには憎悪という名の刺激剤が必要だった。しかし……もしかしたらそれは口実だったのかもしれない。お前の命を奪われた時に感じた悲しみをアイツにも味わわせて—―」
前触れなく、薄暗い空間に光が瞬いた。
床に落ちた涙も、垂れ落ちた血の赤も頼の視界から消えた。
それは稲光のように部屋全体を白く染め上げる大きな光だった。
音は後からやって来た。
「ガッ!」
スパーク音と共に響いた短い絶叫。
「……一体、何が」
頼が顔を上げた時、すでに目の前には父親の姿はなかった。
「ヴヴヴヴヴヴヴヴッ」
「マルスッ!」
豪は光を見た瞬間から走り出していた。
その視界には、こちらに走って向かってくる牧島と、マルスをがっしりと両腕で締め付けている鎧武者が映っていた。
光を放っているのは次第に黒ずんでいく少年の肉体と鎧武者の接触箇所。
「豪っ!」
牧島が豪に駆け寄る。
しかし、それどころではないというように牧島を手で払いのける。
「お前は頼を連れて逃げろ」
「豪っ、駄目っ!」
「貴様ァ!」
二メートル以上の巨体に向かって飛び、喉元に向かって身体ごと刀を突き出す。
生身の人間ならば即死間違いなしだったが、鎧武者は豪を見ても、微動だにしなかった。
その攻撃が無駄だと、予め分かっているかのように。
そして首筋を守る金属と剣先が触れ合った時、先ほどと同じ光が放たれ、視界が真っ白になった。
「……こいつはっ」
はっとして即座に剣から手を放そうとする。
しかし、それよりも先に指先から全身へと一気に衝撃が伝わって来た。
「力が吸われて……グウッ!」
「……悪いな」
「そ、その声は……」
豪は聞き覚えのある声を聞き、腕に力を込める。
すると腕の筋肉繊維がゴムのように千切れていき、やがて肩から切り離された。
両腕を犠牲にした豪はそのまま鎧武者の足元に落下した。
「父さんッ!」
「豪っ!」




