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T.T.O.T.T  作者: むこーむこ
Conclusion:MIsfortunes never come singly.
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38 Select -選択-

「……いいよ。もう、そんな昔のことは」

「母さんは……殺されたんだ」

「えっ? だって父さん、あの時は過労死だって」


 にわかに信じがたい話だった。

 なぜなら母親がクリニックで倒れた日、頼はそこにいたのだ。

 ショックで一部の記憶が途切れてしまってはいるが、点滴を吊るす器具が倒れた時のあの音と救急車のサイレン音はトラウマとして深く記憶に刻まれている。


「仕事の後、母さんが点滴を打っていたのは覚えているか」

「……覚えてる」

「あの日の点滴にはな、異物が混入されていたんだよ」

「まさかそんな」

「死因は中毒死。これが母さんが死んだ事実だ。そして……お前もあの三日後に一度死んでいる」

「……僕も、死んだ? でも……そんな記憶……」

「覚えていないのも無理はない。なにせ、お前は毒を盛られているとは知らずにそれを口にした。だが俺は忘れない。アイツとお前が息絶えたあの光景。誰が忘れてなるものか」

「父さんは知っているの? 母さんを殺した犯人を」

「……イグサイズ上層部の」

「頼君っ!」


 静まる部屋に、誰かの叫ぶ声が響いた。

 現れたのは戦場にはふさわしくない恰好をした二人組。


「……儚志徹博士? なぜここに」

「君を助けに来たんだっ!」


 白衣の袖から拳銃を取り出しながら、応戦する意思を見せる。

 もう一人も彼の仲間なのか、大層な甲冑に身を包んだ大柄の男だった。

 その顔は面頬で覆われている。


「……呉羽君の予測した通り、黒幕は君だったか、豪。残念だよ」

「下手糞な演技だな。笑わせるぜ。徹」


 二人は周知の仲かのようにお互いを名前で呼んでいた。

 しかし、頼が父親に向けたように、豪の儚志徹に対する目は決して暖かいものではなかった。

 それこそ仇を見た時の目のような。

 

「頼君、目覚めてしまったのか」


 儚志徹は“覚醒”を知っているようだった。

 背中から突き出た四本の腕を見て、はがゆそうに顔をしかめている。


 頼は反射的に彼から距離を取った。

 嫌な感じがしたのだ。

 

「儚志博士、あなたは」

「頼君、辛い目に合わせてしまったな……」

「他人事のように言うな。貴様だって」

「黙れ。お前がそこの少年を利用して梢を殺したというのは分かっているんだ」

「そうしなければ、お前が娘を殺していたんじゃないのか」

「……何、だと」

「いい加減にしろよ!」


 怒鳴ったのは頼だった。


「……父さんは知らないんだ。儚志博士が、どれだけ梢のことを大切に思っていたかを。自分の子をどれだけ愛していたかを。MHOに殺されて、どれだけショックだったか……あんただって父親の癖にどうして、どうして分からないんだよ……」

「……頼、お前」

「それでも父さんのこと、尊敬していたんだ。父さんに認められたいとずっと思ってた。正直恐いと感じることもあったし、僕の手に触れてもくれないのはショックだったけどさ、それでも……ずっと僕は父さんのことが……」

「頼、お前を拒絶したのは別にお前がどうこうという訳じゃない。お前があの指輪を……」


 豪は途中で言葉をつぐんだ。

 今のお前に何を言っても無駄か。

 そう察したようにも感じ、それがなおさら悲しみを深くさせた。


「……儚志博士、悪いですが手を出さないで下さい」


 背中から生えている四つの腕。

 それぞれの手の平から棒状のものが伸び、武器へと変わる。

 二つは日本刀に、一つはナイフに、そして銃に。

 それは頼がイメージから具現化させた、クレドの武器だった。


「……おお。素晴らしい!」


 儚志徹が感激の声を上げた。

 距離で言えば三、四メートルの位置からだったが、なぜかとても遠く感じられた。


「これが千を超える死体から生み出された後人の力……フフッ、何と心強いことだ」


 心がやけに静かだ。

 まるで死んでしまったかのように。

 

「おい、マルス」

「何だよ。僕はお前と一緒に死ぬ気なんかないからな」

「ならさっさと逃げろよ」


 豪の肉体が蠢き始める。

 まるで全身に虫が這い回っているかのようだ。


「……いいのか?」

「ああ。その代わり、千鶴とアレを頼む」

「……まさか僕にアンタの後を継げと言うつもりじゃないだろうな」

「それが嫌なら……分かっているだろ?」

「……そういうことか。つくづく嫌な奴だよ。お前」

「俺は楽しかったぜ。ああ、指輪を持って行けよ。万が一、アレが暴走した時に身を守れねえからな」

「……僕も楽しかったよ、それなりに」

「フッ、己のガキに負けるかよ」

 

 一本の両腕と脚がフォビックオリジンに包まれる。

 高濃度に凝縮されたその墨色のエネルギーは持っていた刀にも侵食していく。

 

「行くぞ頼。お前の力、見せてもらおうか」

「父さん……」


 頼は自らに言い聞かせるように言った。


「……梢の、仇」


 頼の“葬儀送り”から鳴り響いた発砲音と同時に、二人は走り始めた。


「マルス‼ コイツを大人しくしたら、お前が死んだ場所で落ち合おうぜ!」

「……ここに来てまだ殺さないつもりかよ」


 ぽつりとつぶやき、心配そうに豪を見る。

 そして二人の刀がぶつかり合うのを見届けると、元の表情を取り戻して千鶴の元に歩き出す。


「おい、起きろ」

「ん……んんっ……あなたは」

「歩けるか?」

「大丈夫だけど、豪は……えっ? あれは」

「……アンタのために戦ってる。だから今のうちにここを脱出する」

「脱出? 豪を置いていくって言うの?」

「仕方ないだろ。だってアイツ、あっち側に付いちゃったんだから」

「倉井君……どうして」

「あっ、馬鹿っ!」


 二人の元へと駆け寄ろうとした牧島の腕を慌てて掴む。


「やめとけって。ここまで来たらもう誰にも止められない」

「私は豪に命を救ってもらった。今度は私が彼を助ける」

「相手はレベル千オーバーの怪物。僕や君が行った所で意味ないよ」

「……後人のくせに臆病なのね。まるでその怪物みたい(・・・・・・・)」

「何とでも言えよ。僕はこんな所では死ねない。逆らうなら、強引にでも連れていくからな」

「いやっ!」


 嫌がる牧島を力任せに肩に載せ、西側にあるもう一つの扉へと向かう。


「私を後人にしてっ! それなら」

「落ち着けって。後人を作るには自分以外に二百体以上の死体がいるし、融合が終わるまでに百日以上かかる」

「……ならマルス。私を食べて。そして私の替わりに豪を助けて」

「……お前」

「待ちたまえ」


 マルスの前に、儚志徹と甲冑の男が立ち塞がる。


「……僕の邪魔をするな。人間風情が」

「僕の邪魔をするな、か……フフッ、面白いことを言う」

「……何がおかしい」

 

 

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