表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
T.T.O.T.T  作者: むこーむこ
2nd turn: The truth is out there.
33/41

33 Drainer-ドレイナー-


 一時間ほど車に揺られ、到着したのは埼玉県JR南北線の地下鉄駅の前だった。

 ロータリーに停車した後、呉羽は前部座席の二人を荷台に呼び、それぞれにクストの名前が刻まれたアタッシュケースを手渡した。


「……頼に比べて、俺達二人は随分小さいな」灰加が不満げにつぶやき、箱を開ける。そこには銀色の銃が入っていた。「これは」

「クストの武器だ。お前たちのために用意してもらった」

「……神降臨!」その時、瀞井が珍しく大きな声を上げた。箱の中身を見ながら震えている。「これ……武器?」

「ああ武器だ」

「どうしたんだ、瀞井」

「こ、これっ!」子どものように興奮しながら手に持ったそれを灰加に見せる。

「……武器じゃねえだろ」それは一見、ただの携帯にしか見えなかった。

「ああ、携帯だ。だがただの携帯じゃないぜ」呉羽は笑いホームボタンを押した。すると携帯の上の部分から銀色の刃が飛び出す。「隠しナイフだ。これで二次元と三次元、同時に戦えるぜ」

「隊長天才」

「真面目にやれよ。っつーか、こんなの用意してやがって。最初から仲間に引き入れるつもりだったってことじゃないのか?」

「だから?」

「……ちっ、頼の武器は何だ? 箱の形状から見て剣か」

「あ、開けるね」高鳴る胸を押さえながら、ゆっくりと箱を開ける。「日本刀だ」

「ああ。銘は“束頁(タバペイジ)”。頼、お前と同じ名だ。俺が付けた」

「本当だ」腰に紐を結びながら感動の声を上げる頼。

「滅茶苦茶ふざけてるだろ」

「真面目にふざけてるんだ。ちなみにお前の武器は“葬儀送り”。名が宗宜だからな。瀞井の携た……ナイフは“アップルキラー”」

「名前も気になるが、それよりも今“携帯”って言――」


 突然、荷台が大きく揺れた。瀞井、灰加の二人が膝を立たせ警戒の構えを取る。


「慌てなさんな」呉羽は顔を横に振った。

「……隊長、もう行こうぜ」

「ダメだ。まだ渡す者がある」

「今度は何だよ」


 灰加が尋ねると、呉羽はドライヤーに似た青い拳銃を三人に渡した。


「これは“ドレイナー”。お前たちが知っているMHO吸収装置の進化版だ」

「吸収装置って……」記憶を辿るように視線を上げた後、頼が訊ねる。「MHO回収車に装備されているあれですか?」

「ああ。MHOの傷口からフォビックオリジンを吸収し、それを内蔵チップに蓄積する。渡した武器を見てみろ。チップの挿入口があるはずだ」

「……本当だ。束の所に」

「……気に入らないな」灰加が独り言のようにつぶやく。「こんな武器があるならなぜ本部の戦士たちはこの技術を使わない? クスト派だけが独占しているのはどういう訳だ?」

「俺に聞くな。独占の専売特許はジジイ共だよ」

「これだから大人って奴は……それで渡す物はこれで全部か」

「ああ……行くか」


 呉羽の指が荷台のドアを指す。

 それが音のない号砲だった。


「えっ?」


 一瞬でリヤドアを開け、灰加と瀞井、そして呉羽が飛び出す。何も知らされていない頼は一人取り残され、しばし呆気に取られた顔でその場に停止していた。


「何してる。行くぜ」

「あっ、はい!」

 

 呉羽に呼ばれ、急いで腰紐に鞘を通す。そして荷台の端からバンパーに足を伸ばし、のろのろと地面に降り立つと、刀を抜いた。


「頼、そいつの相手をしろ」

「はいっ!」


 呉葉からの指示が飛び、五メートル先にいたMHOに目を向ける。

 考えるより先に身体が動いた。


「敵はレベル十五前後、蜘蛛型か……それなら」


 敵に視認されないよう迂回しながら素早く接近。反撃を喰らわないよう軽く踏み込んで左前脚を斬り付ける。


「……あれ?」


 バックステップで敵の間合いから離脱した時、胸に違和感が芽生えた。


「今の感じ……」

「頼、こっちだ」


 五メートルほど向こう側にいる呉羽が叫んだ。その横には上半身と下半身が分かれた猿型の残骸が転がっている。


「こうするんだ」


 ドレイナーを敵に向けトリガーを引くと、胴の傷口から紫色の光が竜巻状に伸び、ドレイナーの銃口に吸い込まれはじめる。


「お前もやってみろ」

「はっ、はい」


 頼も呉羽を真似て目の前の蜘蛛型に向けてトリガーを引いた。同様の現象が起き、傷口から糸がほぐれるように脚が消失していく。


「こうやってMHOを吸収するんだ……あっ」


 脚一本が霧散し終える寸前、鋭い牙を持った蜘蛛型の口からビュっと白いものが吐きだされる。

 それは粘液を利用した敵の遠距離攻撃だった。


「このパターン」


 ぽつりとつぶやきながら、ドレイナーから刀に持ち変え、白い塊が網状に広がった所を裁断する。網は二つに分かれ、ゆらりとアスファルトの上をゆるやかに舞うが、それが地面に落ちる前に今度は戦車のように巨大な図体で突進してきた。「やっぱりそうか」頼はもう一度左脚を狙い、サイドステップで突進を交わすと、脚に垂直に交わるように刃を立てる。残り三本となった脚は自ら刃をその身に呑み込んでいく。一本は間接部分あたりから完全に切断されて宙を舞い、残り二本も突進中の自重を支えきれずにその切れ目をアスファルトで削り、ぶちぶちと千切れ飛んでいった。

 左脚をほぼ失い、バランスを崩した蜘蛛型がその後一回転して空に腹を向けた状態で停止するまでの数秒間、頼は敵を斬った体勢のままでいた。


「……MHOが怖くない」ゆっくりと立ち上がり、ひっくり返ったMHOに近付きながらドレイナーを向ける。「今日に限って、不思議だ。まるで練習の時みたいに」

「そりゃ指輪の呪いが解けたのさ」


 その時、ふわりと空気が揺らぎ、頼の真横を一陣の風が突き抜けた。

 すぐそばを大砲の弾が通過したような一瞬の、しかし凄まじい衝撃だった。


「……えっ?」


 風はその前触れだったのか、五百キロはある肉の塊が目の前で左右に分割された。その斬り口から生まれた大量の光が頼のドレイナ―に吸い込まれ、瞬く間に蜘蛛型の身が滅んでいく。


「呉羽さん、今のどうやって」


 不思議そうに呉羽の手に視線を注いだ。片手はドレイナー、もう片方の手には刀の束と鯉口だけの奇妙な物が握られている。


「……あの、それは」

「ああ。これか? “俣旅”だ」

「……はあ」


 呉羽さんの下の名から付けたのだろうか。

 というか、別に武器の名前を聞いたわけではないのだけれど。


「そんなことより、もう怖くないだろ?」

「はい……っていうか呉羽さん知っていたんですか?」

「アンルカリングだろ。MHOに対して強力な電磁シールドのようなものを作りだす。ってのは凄いんだが、そのエネルギーを装着者のフォビックオリジンを消費して生み出すから、指輪を付けた奴は恐怖でまともに立ってられないって聞いたぜ」

「……じゃあMHOを前にすると急に意志が弱くなって、動けなくなっていたのは……」

「ああ。指輪のせいだ」

「……そうだったんだ」


 頼は納得したように頷きながら、MHOを前にした時の過去の醜態の数々を思い浮かべた。

 梢が殺された時も墓地でMHOと遭遇した時も自分は戦うどころか、自分の命可愛さに屑紛いな言動をした。それらは己に対する自信のなさとか臆病さだとかではそういう言葉だけでは片付けられない重罪にも等しい過去の非道だ。

 だがそれが自分の意志によるものではないと知り、頼は喉に引っ掛かっていたものが取れたような気分だった。

 自分に罪がないとは流石に思えないにしても。


「練習で俺達に銃ばかり使わせたのはこういう訳だったのか」


 二人の元に灰加が戻って来た。両手に持った二丁の銃を回転させ、ホルダーに収める。瀞井も灰加の後ろにくっ付いていたが、相変わらずのゲーム進行形だった。


「そうだ。この武器の戦い方の基本は遠距離戦。隙を狙って敵に傷を付けつつ、後は遠くからエネルギーを吸収する」

「利に適ってはいるが、若干卑怯な感じもするな」

「勝てばいいんだよ。よし。ウォーミングアップも済んだな」

「ああ」灰加が駅の入り口を見る。「しかし、まさかたった四人で乗り込むことになるとは」

「予定人数の三%未満。でも神器あれば楽勝」

「瀞井は気楽でいいよな。俺は不安だぜ……頼もそう思わないか?」

「……えっ?」頼がはっと顔を上げる。「ごめん、聞いていなかった。何?」

「……いや、何でもない」

「あっ、何かごめんね」

「……ふぅ」灰加は大きくため息を付き、天を仰いだ。「どうやらその性格は指輪のせいじゃなかったようだな」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ