32 carry something though
呉羽の助けで地上から脱出した頼は、そのまま棟の外の駐車場に連れて行かれた。そこにはアイドリング中のキャラバンが薄闇の中、白い煙を吐き出しながら二人を待っていた。
呉羽が手を振ると、運転席のドアが少し開き、その隙間から灰加のむすっとした顔が現れた。
「隊長。三分で戻るって言ったよな?」
「もう一人捕まっているとは予想外だったからな。そいつの分の鍵を奪うのに時間が掛かっちまった」
「そいつ、何したんですか?」
「聞く必要はねえよ。どうせ二度と会うことはないだろうからな」
呉羽の言葉に頼は目を丸くした。
「呉羽さん? 二度と会えないってどういう」
「そんなことより早く乗れ、向井頼」
そう言って灰加は運転席のドアを閉じる。
「乗れって言われても、どこに」
「こっちだ」
手招きしながら呉羽がリヤ側に移動する。そして頼が近付くとバンパーに足を掛け、荷台に飛び乗った。
「え……後ろですか」
「快適だぜ。床板の上に毛布まで敷いてある」
「いや、別にそういうことを気にしている訳じゃ」
何も言われずにどこかへ連れて行かれることに若干の不安を抱きつつ、荷台に乗り、リヤドアを閉じる。
呉羽はガムテープで天井に固定してあるルームライトのスイッチを入れると一番奥へと進んだ。頼も四つん這いでその隣に来る。その後、前部座席側の壁が三度叩かれると、車はゆっくりと動きはじめた。
「いいねえいいねえ」荷台に揺られながら呉羽はご機嫌なようだった。「こちら呉羽。どうぞ」
『ガキかよ』トランシーバーから灰加の声が聞こえる。
「お前はガキの癖にジジくせえんだよ。どうぞ」
『いちいち“どうぞ”とかいらん。普通に話せ』
「ちぇっ……」
「あの……どこに向かうんですか?」
「……灰加、ここにもジジくせえのが一人いるから説明してやれ」
頼の質問に対し説明するのが面倒だと思ったのだろう。呉羽はトランシーバーを投げると毛布の上に寝転がった。
「……ど、どうぞ」
『よお、お姫様』
「助けてくれて、ありがとう。で、これからどこに?」
『本物のお姫様を助けに行くんだよ』
「……それって牧島さんのことだよね」
『ああ。世界一無愛想なお姫様のことだ』
「……どうして今からなの? 決行日は明日なのに」
『それじゃ間に合わないんだと。向井頼、クストのことは聞いているのか?』
「えっ?」
『その様子じゃ知らないようだな』
「CST――」呉羽が口を挟んだ。「――carry something though――儚志徹を頭とする反MHO派で構成された組織の名だ。一応、俺達もそこに所属している」
「えっ……俺達って……」
『隊長、俺と瀞井。そしてお前もだ』
「といってもお前らは一時的にだ。この作戦が終われば抜けても構わん。ただしその場合、お前は研究科に戻ってもらうことになるがいいか?」
「ええと……すみません、返事をしようにもいっぺんに色々言われたので」
『ったく、それでも元研究生かよ……要はだ、俺達の本当の敵はマルス一人じゃないってことだ』
「……ああ」マルスの“あの人”という発言を思い出す。「でも、それって誰なの?」
『クスト派の敵対勢力、ザポダ派の奴らだ』
「ザポダ派……もしかして今から戦う相手はMHOじゃなくて人間ってこと?」
『……隊長。俺はマルスを見ていない。どうなんだ?』
「……ザポダ派は親MHO。だがその一部にはマルスのような化け物もいる』
『なあ、そのマルスってガキは本当に人間じゃないのか?』
「……灰加、MHOの意味は?」
『マルチヒューマンオーガニズムだろ』
「和訳するとどうなる?」
『……複数の人類の有機体』
「正式には“多人体”と訳す。複数の人間で構成された一つの生物と言う意味だ」
『……で、結局マルスは人間じゃないのか?MHOとどんな関係が?』
「これから会いに行くんだ。実物を目で見て確かめればいい……だが、仮にあれを人間だと主張するなら、その瞬間からお前たちは俺の敵だからな」
『……人類愛マンセー』
「わっ」頼が声を上げた。「瀞井君……やっぱりそこにいたんだ」




