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T.T.O.T.T  作者: むこーむこ
2nd turn: The truth is out there.
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27 Another ranking-もう一つのランク-


 過去を切り捨てる。

 広場のベンチに座り、中央の時計台を眺めながら、頼はその言葉の意味について考えていた。


「忘れろって……あの事件のことなのかな」


 儚志梢。

 目標であり、乗り越えるべき壁であり、そして僕を受け入れてくれた唯一と言ってもいい存在。愛してくれた存在。

 忘れろなんて、不可能だ。

 彼女に対してコンプレックスを持っていたのは事実だけれど、でもその存在があったから、今の自分がある。


「……じゃなきゃ、誰が戦士になんて」


 風船を持った小さな男の子が時計台の周りを駆け回っていた。その背中を追う、男の子と同い年ぐらいの女の子。頼りない足取りで、風船を返してと泣き顔で訴えていた。


「だーかーら、赤い方だったらやるって言ってるだろ」

「いやー、青がいい。ちーちゃん、青がいいのっ!」

「お前は女の子なんだから普通赤だろ。我がまま言うんだったらどっちもやら――うわっ」


 周りを見ていなかった男の子が歩行者とぶつかる。その拍子に、二つの風船は男の子の手から離れ、空高く飛んでいった。


「あーっ、風船が! うああああっ」


 歩行者にすみませんと頭を下げる男の子と、その傍らで泣き始める女の子。

 頼はそれを見て立ち上がると、広場の外へと小走りで駆け出した。

 数分後、風船を二つ持った頼が再び広場に帰って来た。


「あれ、二人は……」

「あなたも今来たの?」


 そこにいたのはさっきの子どもではなく、花柄のワンピースを着た牧島千鶴だった。


「あっ……うん」

「私も今来たところ。何を持っているの?」

「えっ、ああ。さっきそこで貰って……」

「欲しかったの?」

「いや……あげようと思ってたんだけど」

「ふーん、じゃあ」


 牧島が手を伸ばし、風船を一つ受け取る。


「これでいいの?」

「ええと……そ、そうだね」

「じゃあ行きましょ」


休日の商店街は多くの人で賑わっていて、人波を避けながらでなければ前に進めなかった。あまり人の多い所は得意ではない頼が涙目で進む中、前方の牧島は上から眺める目でも持っているかのようにすいすいと先を行く。

ひいひい言いながら目的地のPcショップに辿り着くと、牧島はすでに店の中にいて、中にいる誰かと会話をしているようだった。


「こ、こんにちは」

「よお、頼」


 店内に入って来た顔を見て、堂壁は手を挙げた。


「何で風船なんか持ってるんだ?」

「いや、ちょっとね……純一郎君、先に来ていたの?」

「いや、ちょっとな」頼と同じことを言ってレジの奥の扉を開けた。「よし、全員来たところだし二階に上がるか」

「あの……」

「どうした?」


 堂壁が振り向くと、頼は何も言わずにレジに座っている不気味な女性に視線を向けた。


「ああ、それはAIらしいぞ。店番が面倒だからって廃品を集めて作ったらしい」

「なるほど、だから肌の色がちぐはぐなんだ」

「ほら、来いよ。二階でみんなが待っているぞ」


 堂壁に従って二人は奥の間に上がった。廊下を渡ってすぐの階段で二階に上がる。階段は木製で歩くたびにぎしぎしと音を立てた。


「忍者屋敷みたいだろ」


堂壁が笑う。彼にとって日本風の建築物はかなり窮屈そうに見えた。


「二人が来たぞ」


 襖を開けると、八畳ほどの一間があった。中には顔見知りの訓練生が畳を囲んで座っていた。


「やあ、待っていたよって、何で風船?」


 出会い頭に驚く表情を見せたのは、奥に一台だけある机の前にいた村尾だった。高価そうなソファチェアーに座り、ノートPCを膝の上に載せている。


「適当にどこでも腰かけてよ」


 村尾がそう言うと、先に堂壁が端に畳んでいる座敷布団の上に尻を降ろした。牧島は空いていた座布団を取り、風船を手にもって入口付近に座る。

 頼も座布団を取ると、ちょうど二人の間の壁際に陣取った。


「いきなりの誘いにも関わらずありがとう」村尾は深々と頭を下げた後、早速話を切り出した。「三人をここに呼んだのは他でもない。君たちに見て欲しいものがあるんだ」

「見て欲しいもの?」

「ああ」


村尾が視線を送ると、そばにいた訓練生の一人が頷き、一枚の紙を差し出す。

それは名簿のようで、イグサイズ訓練生の名前と個人情報がずらりと並んでいた。


「……これは」

「イグサイズのとあるサーバーで見つけたんだ。比較的セキュリティが甘い場所にあったから割と簡単に手に入ったよ」

「簡単にって、こんなことしていいの?」

「ううん、バレたら超やばいよ」村尾は全身を震わせた。「多分、即逮捕」

「村尾君……」

「まあ、それは置いといてさ。その右から三列目を見てよ。そこには訓練生全員分のランクが載っているんだ」

「三列目?」


 頼が用紙を覗き込む。牧島は容姿ではなく村尾の方をじっと見ていた。


「……えっ?」ふいに頼が声を上げた。信じられないものを見たような顔だった。「これってどういうこと?」

「どうもこうも。それが本物の僕たちのランクさ」


 村尾も椅子から降りて、用紙に顔を寄せた。


「ほら、灰加のやつを見てみてよ。あいつ、威張ってる癖に本当はランクCだったんだよ」

「……本当だ」

「瀞井のランクAプラスは本当みたいだけれど、他にも堂壁君がAランクだったり、僕のランクもBだった……ちなみに君は元の通りランクAプラスだったよ。牧島さん」


 村尾が笑いかけるも牧島は何も言わない。


「あれ?」その時、声を出したのは頼だった。「僕のランク……これ」

「……ああ、そうなんだ」


 村尾が申し訳なさそうに頷く。

 向井頼と名前が書かれた行。そこには最低ランクを現す『D』が付けられていた。

 それは戦士としての才能がないとみなされ、在籍を許されない不適合者を現す記号だった。

 頼は信じられないという顔で堂壁の方を向いた。しかし堂壁は窓の方を向いたまま、決して目を合わせようとはいない。


「向井君、別に君を傷付けたかった訳じゃない」村尾はそう弁解して、「問題はなぜ本部が本当のランクを隠しているのかっていうことだ」

「俺は瀞井と灰加の仕業だと思っている」そう答えたのは三人のうちの男子生徒だった。「自分たちが威張りたくて、俺たちのランクを実際より低くするように本部に圧力をかけたんだ」

「ああ、俺もそう思う」

「だが」そこで堂壁が異を唱える。「頼の場合は逆だぜ。これはどう説明する?」

「それも苛めの一種だろ」

「ランクSなのに実力がないことを笑おうと思っていたのさ」

「君はどう思う?」


 村尾が話を振ったのは牧島だった。


「……興味ない」

「そっか。でも君もまた奇妙なんだよね」

「何が?」

「だって他の訓練生はみんなランクを下げられているのに、君はランクAプラスのままだ。これっておかしいと思わない?」

「……もしかして私も関係者だと?」

「いやいや、そうは思っていないけれどさ」村尾が手を振って否定する。しかしその目は彼女を疑っているようにも見えた。「ただね。このランクをの分析から言えることは、灰加君と向井君だけが実力より高いランクが与えられていて、瀞井と君の二人が変わらず、他の生徒はみな実力より低いランクになっているってことなんだ。瀞井君、灰加君は上層部との繋がりが強い。そして向井君の父親は戦士科の隊長クラス。そして君のご両親は……」

「……何が言いたいの」

「別に。僕は真実が知りたいだけさ」村尾が立ち上がる。「そうだ。僕、お茶でも入れて来るよ。君たち、運ぶの手伝ってもらえるかな?」


 村尾と最初に部屋に者たちが申し合わせたように襖から出ていく。堂壁と牧島、頼の三人が部屋に残される形になった。


「純一郎君」階段を降りる足音が聞こえなくなるなり、頼は堂壁に訊ねた。「一体、どういうことなの? 村尾君たちは僕と牧島さんを疑っているの?」

「安心しろ」堂壁は腕を組み、目を閉じた。「お前達に罪はないってことぐらい、みんな分かってるさ。奴らは自分が騙されて不当な扱いを受けていると知って腹が立っているだけだ」

「でも、じゃあどうしてわざわざ僕らをここに」

「あいつらには瀞井や灰加に文句を言う勇気がない」少し険のある言葉だった。「だから話の分かりそうなお前を呼んだんだ」

「……牧島さんも?」

「まあ、女だと思ってナメてかかっているんじゃないか?」


 堂壁が片目を開けて牧島の反応を伺う。

 牧島は「下らない」とため息を付いた。


「どうしてランクなんて気にしているのかしら。仮に低いランクだって努力して強く鳴ればいいだけじゃない」

「それや強者の論理だ。奴らには理解できない」

「私は」牧島が立ち上がる。「口先だけの臆病な人間は嫌いなの」

「おいおい、来たばかりなのにもう帰るのか」

「こんなことしている暇があったら明日に備えたいもの」

「あっ、牧島さん」


 牧島が襖を開く。

 ちょうどというべきなのか、その時さっきの四人がお茶を用意して二階に上がってくるところだった。


「牧島さん。話はこれからですよ」

「……どいて」


 階段で立ち止っている村尾に牧島がそういうと、村尾はやれやれといった様子で道を開けた。


「……僕も行かないと」


 頼も立ち上がった。


「お前も行くのか?」

「う、うん。今日牧島さんを呼んだのは僕だし、それに説得がまだ……」

「説得?」

「いやっ、何でもない。じゃあごめんね。純一郎君!」

「ああ。また明日」


 頼は廊下に出る。


「向井君、逃げるんですか?」

「……どう取ってもらっても構わないよ。でも今は牧島さんを追わないといけないから」

「そうですか。なら、機会はまた後日ということで」

「……分かった」


 一階に降りると頼は牧島と一緒に店を出た。


「ごめん。こんなつもりじゃ……」

「あなたが悪いわけじゃないわ」


 牧島は相変わらず表情が見えなかったが、明らかに機嫌が悪かった。


「今日はもうこれで終わり? なら帰るけど」

「待って。まだもう少し付き合って欲しいんだ……ダメかな」


 頼が訊ねると、牧島は店の壁掛け時計を見た。


「……いいわ。それで次は何の用?」

「えっと用っていうか……牧島さんはどこか行きたいところは?」

「……」怪訝そうに頼を見つめる目。自分から誘っておいて行く場所を聞かれれば、疑問を抱くとは当然かもしれないが、牧島はそのことには触れず、途中で視線を下に下ろした。「……そうね。一か所だけ」

「良かった。じゃあそこにしよう」

「……本当に行くの?」

「うん、せっかくだし付き合わせてよ。それとも……僕と一緒だと嫌かな?」


 頼は顔を真っ赤にして言った。

 それは自分の心から出たのではなく、言えと指示された言葉ゆえだった。

 恥ずかしくて仕方がないが、だからといって上官の命令に背くわけにもいかない。


「別に」

「よし。じゃ決まりだね。で、どこに行けばいいの?」

「街はずれ。行くならバスの方がいいわ」


 分かったと言って頼は再び人波の中へ、今度は先頭に立ってバス停へと進んでいく。

今日一日で牧島を説得できるとは到底思えない。だが精一杯努力したという形を見せなければ。


「牧島さん、ほら」


 後ろを振り向き、こっちと手招きする。

 しかし、牧島はまだ渋っているのか、先に進もうとしなかった。


「……でも」

「大丈夫。問題ないから」

「……ううん」牧島は頭を左右に振った。「だってバス停、逆方向だから」


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