24 Neo Toroi-瀞井ネオ-
翌日の午前、呉羽に呼び出されやって来たのは見慣れたトレーニングルームだった。
「入れ、三人ともだ」
見慣れた部屋の中に、頼含め全員が足を踏み入れたのを確認すると、呉羽はガラス越しに指示を出す。
「いいかお前ら。今から一時間、一撃たりとも攻撃を食らわずに耐えろ。全員だ。一人でも傷を負ったらやり直しだから、ちゃんと助け合えよ」
「……座学中に呼び出したかと思えば、いきなり訓練かよ」
「……リアルめんど」
「あの、呉羽さん、相手のレベルは?」
「頼、お前は実戦でも敵のレベルを指定するつもりなのか」
「……いえ」
「別に勝てと言っている訳じゃない。攻撃を食らうなと言っているだけだ。あと念のために行っておくが、こっちからの近接戦は禁止だ。武器も遠距離のみを使え」
呉羽の説明の後、ロボット運搬用のエレベーターが上昇を始める。
「……おい、根暗」
「えっ」
頼が振り向くと、銃が飛んできた。
「頼むから足を引っ張るなよ。こんな訓練、いつまでも長引かせたくないからな」
「あ、うん」
そういえばこの二人が本気で戦う姿をまだ見たことないな。銃の動作を確認しながら頼が思う。
三人の前に現れた訓練用AIは大したサイズではなかった。だらんと伸びた腕。手にはこん棒のような 武器を持っていて、直立二足歩行型。どうやら猿型のようだが、高く見積もってもレベル十程度、三人なら無理なく勝てる相手だ。
しかし、問題はその数だった。
「……同時に四体か、やってくれる」
「仄加」瀞井がゲーム機にイヤホンを差し、ポケットにしまう。「半分こずつ」
「……分かった」
「あの……僕は」
「君はお姫様役」
「お姫……様?」
「俺達騎士の影に隠れてろってことだよ」
「……ええと、うん」
頼は仕方ないという風に頷く。自分が活躍することが大事じゃない。クリア条件を満たすことを優先しないと。
それに逃げるのには慣れている。
「フッ、雑魚が」
MHOが動き始めた。
仄加はまず四体のうちの一体に照準を絞り、銃を連発する。敵の装甲が弾を弾く。そのうちの一発が関節部分に突き刺さり、右腕がぶらんと垂れ下がった。こん棒が床に転がる。
次に動いたのは後方の二体だった。壁を蹴り上空から襲いかかってくる。
三人はそれぞれ左右に分かれた。だが、それを予測していたかのように、前方の二体が同じく左右に分かれ、正面から飛び込んでくる。
「猿の浅知恵だな」
振り降ろされるこん棒。右手の瀞井はバックステップでそれを交わし、射撃。左手にいた灰加も同様の動きだったが、その退避先には頼が立っていた。
「わっ」
慌てて横に転がり、仲間同士の衝突を避ける。
無防備に地面に倒れ込む頼にこん棒が振り下ろされた。
「くっ!」
頼が手を地面に付けた瞬間、灰化がこん棒を蹴り飛ばした。腕を引き頼を立ち上がらせ、部屋の隅にと押し飛ばす。
「あっ、ありが」
「お姫様は隅っこで震えてろよ」
見下すように言い、背中を向ける灰加。
しかし頼は前に出る。
「雑魚は引っ込んでいろと言ったんだ」
「……大丈夫」
「何が大丈夫だ。俺が助けなければ間違いなくやられていただろうが」
「避けられた」頼は臆せずに言い返す。「あの状況だと、敵の攻撃が来る前に横に回避できた」
「なぜそう言い切れる」
その時、上空から敵が落下してきた。体当たり攻撃のようだ。灰加はそれを背後に飛んで大きく避ける。
それに対して頼は二歩後ろに下がるだけで攻撃を交わした。
まるで敵の攻撃範囲を理解しているかのような頼の動きに、灰加は眉をひそめる。
その疑い気な目線に答えるように頼はニッと笑ってみせた。
「モンキーの攻撃パターンは単純なんだ。今の僕なら絶対に攻撃を食らわない自信がある」
「……自信満々だな」
頼と灰加は同時に銃弾を放った。四発の銃弾がロボットの足の関節部分を貫く。ロボットは膝を折り、その場に崩れ落ちた。
「レベル十五までならどんな種類だって僕は絶対に一撃も食らわない。そういう訓練をしてきたから」
「……お前」
その時、反対側で大きな衝撃音がした。
二人が目を向けると、一体のロボットの頭上に瀞井が腰かけていた。
そのロボットのこん棒は、もう一体の仲間の頭部に直撃している。
「瀞井……」
「NPCのお姫様無敵。イコールクリアレベル超イージー」
ゲーム機を片手で操作しながら瀞井はつぶやくと、自分の足元に銃弾を放つ。
首元が貫かれたAIは機能を停止しガクンッと前のめりに倒れると、四つん這いの体勢で動かなくなった。
「瀞井……ちっ」
灰加は苛立った顔で、まだ動いている最後の一体に飛び込んでいく。
振り下ろされた敵のこん棒を軽いステップで交わし、敵の腕から肩へ、肩から頭部へと飛び移ると、瀞井と同じように首元に銃弾を撃ち込んだ。
「……調子に乗るなよ。根暗」
「そんな、調子にだなんて……」
敵が全員動かなくなり、灰加が外の呉羽に視線を向ける。頼も同じ方を見た。
「ふむ、まあまあだな」
「こんな雑魚、何体寄越そうが修理代を増やす以外に何の意味もない」
「いちいち突っかかるガキだ。それなら」呉羽がトランシーバーを口元にやり、何かを指示する。
動かなくなったAIが回収されると、再びエレベーターが上昇しはじめる。
「何だ、まだやるのか?」
「戯言を言うな。まだまだこれからだ」
「……ちっ、サディストが」




