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T.T.O.T.T  作者: むこーむこ
Turn: A relationship formed due to a strange turn of fate.
21/41

21 Speech-演説-

 イグサイズ本部一階、大講演ホール。

 収容可能人数二百以上の広い部屋が、今回の招集場所だった。


「こんなに……人が」


 扇形に配置された座席は八割方埋まっていた。本部の戦士だけではなく、白衣を着た者やいかにも上役といった雰囲気の背広姿の中年男性の姿もある。

 室内は騒がしかった。耳に届く周囲の声からして、彼らもどうやらこの招集について何も知らされていないようだった。


「おう、千鶴」

「どうも」

「チヅリンッ♪ あれ? それ、彼氏?」

「どうも」

「えーっ、無視ぃっ! ひどいよーチヅリン」


 牧島の姿を見て、本部在籍の戦士たちが親し気に声を掛けてくる。

 そんな先輩達に対し、牧島は愛想ない一言で通り過ぎていく。これでよく嫌われないものだと不思議に思った。

 二列目の中央、そこに牧島が迷わず腰かけ、頼も仕方なく隣に座る。自分の教室ではいつも最後列の彼にとって、壇上から目立つその位置は落ち着かない。

 間もなく、ホール全体が暗くなった。周囲の声がフェードインするように減少し、各々が席に着く。周囲の視線を気にする必要なくなり、頼はふうと息を吐いて丸めていた背中を背もたれに預けた。


 壇上にスポットライトの眩しげな光が落とされると、袖から二人の男が姿を現した。白衣を着ている方は梢の父親である儚志徹だった。そしてもう一人は倉井豪。目にしたのは研究棟襲撃事件以来だった。


「久しぶりだ、諸君」


 マイクから第一声が放たれた。

 しかしその後さ口を開かず、右から左へ瞳を動かしている。見ている側もそれがはっきりと分かるように、戦士達一人一人を確認しているように見えた。

 自分と目が合うのではないかと思い、下を向いた。


「……フッ、馬鹿が」百五十名以上のイグサイズの仲間を一望してから、倉井豪は彼らを鼻で笑うように言った。一部から非難の声が上がる。だごそれも一秒後には掻き消えた。


「お前らはクソだっ!」


マイクがハウリングし、全員の耳に痛く響く。


「だから俺の次の言葉を聞いたら、さぞ騒ぎ出し、悲鳴を上げ、逃げ出そうとするだろうな。はっはっはっ」


 ひとしきりの空笑い。そして豪は太い眉の間に深い皺を刻んでじろりと睨みつける。今度はどこからも声は上がらなかったが、一方でホールの空気が殺気立つ。

 きっと戦士である彼らのプライドに触れたのだろう、周囲に軽く目を向けて頼はそう思った。


「……こんなの、見え透いた先導術じゃないか」


 頼の独り言に牧島の視線が向けられる。頼はそれに気付いていない振りをして、壇上に立つ父親に視線を固定した。


「っつーことで言うわ」ふっと顔から力が抜けた。頭を掻きながら、さっきとは真反対に親し気のある雰囲気へと変わる。咳払いを一つして、マイクを振り子のようにぶらぶら揺らしはじめると、些細なことのようにつぶやいた。「あー、敵の居場所を突き止めたんだが……」


 マイクで遊ぶその不真面目な様子と発言の中身の重大さとのギャップに、周囲はどう反応していいか分からないでいた。


「……おいおい、どういうことだよ」

「いや、ジョークだろ」

「だが、向井隊長が遠征から帰ってきたということは、そういうことじゃないのか?」

「隊長! 説明を!」

「そうだ! 説明してくれよ!」


 一粒の雫がやがて大雨を引き連れるかのように、説明を求める声が次々と豪に降りかかる。彼の人を喰ったような態度への非難もそこには混じっていて、荒っぽい声で叫ぶ者も多かった。


「おい、黙んじゃねーよ! 隊長!」

「大体。あんたはいつも好き勝手しすぎだろ!」

「こんな時ぐらい真面目に説明しろ!」


 血気盛んな男達のブッシングをこれだけ食らえば、大抵の者は弱腰になるだろう。というより、自分だったら間違いなく逃げ出す。頼はそう思いながら、事の成り行きを見守っていた。

 だが倉井豪は動じる様子一つ見せなかった。深く俯いた仁王立ちの状態からピクリとも動かず、そして話すタイミングを伺っているかのように口元にマイクを向けている。

 そんな豪の姿に、説明を求める声も不思議と減少しはじめた。こちらからいくら催促しても無駄だと考えたのか、それとも催促しているから沈黙していると理解したのか。どちらにせよ、話す側から聞く側へと鞍替えしていく。


「隊ちょっ……あ……」


 静まり返りつつあった部屋に、若い戦士の一言が広い空間に寂し気に響いた。

しかし豪はその彷徨える一言を受け取るかのようににやりと笑うと、マイクでようやく聞き取れるような声でぽつりとつぶやいた。


「行こう」

「……え?」


 そして今度は大きく息を吸い込み、ホール全体が震えるほどの大声で叫んだ。


「行こうぜ! マルスってガキをぶっ飛ばしに!」

「……おお」

「おおおっ!」

「ウオオオオオ——――ッ!」


 撒いたガソリンに火を付けたように、興奮が一気に燃え広がる。

 その光景を見て、豪は共感を示すように何度も頷くと、後ろに下がった。自分の役割を果たした満足気な顔で儚志徹にマイクを差し出す。

 儚志徹は気難しそうな顔でマイクを受け取った。ここで語り手が交代となる。

壇上に立った研究科の重鎮は腕を上げ、静まるようにと合図した。

消化剤を撒かれたように盛り上がりは鎮火した。

 気難しい上に不機嫌そうなその顔に、どこからか舌打ちが鳴る。倉井豪の時も決して態度がいいわけではなかったが、さっきと比べて今の彼らは無関心な印象だった。


「最初に少しばかり事情を説明しておこう。四週間前、倉井豪率いる六名のメンバーがMHOの本拠地探索のため、長期遠征に出発したことは諸君も知っていることと思う。そしてこの度、かねてから話題に上っていたマルスという少年の居場所を突き止めることに成功した」


 壇上から降りてきたスクリーンに東京埼玉地方の周辺地図が映し出される。


「埼玉浦和御園南部。路線が地下に潜るこの周辺に敵は潜伏している。倉井隊が東川口の線路を辿って北上したが、そこには目測五十オーバーのMHO二体を目撃し、慌ててひき返してきた」

「俺以外、だけどな」一か所から下品な笑い声がする。

「……今回の件に関して、上野地区、池袋地区の部隊と連絡を取った。決行日は翌月四週目二十四日の深夜未明。敵の数が予測できないため、選抜メンバーはランクA以上の者から志願者を募る。五、六人編成で三十部隊の合計百八十名前後。これを前衛、中衛、後衛の三つに分ける。副隊長以上、もしくはランクAプラス以上で家族がいない者は原則参加。他の者は今日一日検討してもらい、明日の正午までに各部隊の責任者に報告してくれ。以上だ。質問は?」

「質問!」


 快活な声で手を挙げたのは、儚志徹の後ろにいた人間だった。


「俺、一応息子生きてんだけど、参加は自由か」


 豪の目が頼に向けられる。不意打ちを食らった頼は金縛りにあったように硬直してしまった。


「……ふざけたことを」儚志徹は両手を上げた。「正直、貴様が不参加の方が私としてはありがたいが」

「へえ、そうかよ」

「かといって私が止めたところで貴様は行くんだろう。寧ろ反対すればするほど行こうとするのが貴様だ」

「博士の困った顔を見るのが俺の生き甲斐の一つでね。それに――」


 豪は舞台から飛び降りると、座席にいる息子を正面から見据えた。


「……こいつの晴れ舞台は見ておきたいからな」


 にわかに周囲がざわめき始める。


「貴様……ふん、まあいい」


 儚志徹はホールの座席に視線を戻した。


「今後のことは各部隊長に伝達する。解散」

 


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