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T.T.O.T.T  作者: むこーむこ
Turn: A relationship formed due to a strange turn of fate.
20/41

20 An emergency meeting-緊急招集-

 


 戦士科に転入してすでに四カ月が経過していた。

 その日は休暇日で頼はベッドに寝転がり、雑誌を読んでいた。

 見開きページにでかでかと掲載されているサーフィンボードの宣伝広告。真っ黒に日焼けしたモデル体型の青年が水着女性に腕を抱かれている。『波に、立ち向かえ』の宣伝文句は何かの隠喩なのだろうか。

 次のページはカフェ特集で、「MHO館」という、いかにも若者が好みそうな店が紹介されていた。看板メニューは『MHOパフェ』。氷細工で作った人間の手足がソフトクリームに突き刺さっている。『レベル百は団体十名以上で挑戦ください』とあるのを見て、頼は噴き出した。


「レベル百って、そんなのいたら日本はとっくに……」


 パラパラと雑誌をめくる。巻末には袋とじのページがあった。表紙には、頼と同年代の少女が肩ひもをずらしている写真が載っている。

 少女は梢に似ていた。


「……筆箱にハサミが」


 雑誌を持ったまま立ち上がり、いつも持ち歩く鞄のチャックを開ける。その時、廊下で足音が聞こえた。


「純一郎君はいつもノックをせずに入ってくるからな」


 誰か言い訳をするようにつぶやいて、入口の鍵を閉める。そして、筆箱からハサミを取り出したちょうどその時にドアがノックされた。


「……誰だろ」

「倉井君、いるんでしょ」

「えっ……牧島さん?」


 予想外の来客に驚いてドアを開ける。そこには牧島千鶴が立っていた。滅多に着ない戦士の制服姿だった。


「良かった。いたのね」

「えっと……どうして男子寮に? それに制服」

「あなたも早く着替えて」牧島はさも当然のように頼の部屋に足を踏み入れ、「私たちに招集がかかったわ」

「……招集って、あっ、それは……」


 牧島はベッドに座り込み、置いてあった雑誌を広げる。


「あなた、雑誌なんて読むのね」

「それは無料配布で段ボッ」

「着替え」

「……分かったよ」頼はしぶしぶ制服を手に取り、隅の死角で着替えを始める。「それ、玄関の段ボールに入れてあったから適当に取っただけだから」

「ふーん……あら、これは」

「何?」


 頼は訊ねたが返事はない。気になったが、上半身を脱いだ状態で近づくわけにはいかない。いそいそとシャツに袖を通し、胸のボタンを留める。そしてズボンを引き上げてベルトを通そうとした時、紙が破ける音がした。


「まっ、牧島さん、何してるの?」

「気にしないで。小冊子を剥がしただけ」

「小冊子……まさか!」


 頼が恐れていた通りのことが起きていた。彼女は袋とじのページを無理やり引きちぎっていたのだ。


「ダメだっ、見ちゃ!」


 頼は顔を真っ赤にさせて、牧島から取り上げようとする。しかし、中途半端に履いたズボンのすそを踏んでしまい、バランスが崩れる。


「うわああっ!」

「えっ」


 バタバタンギシッと物凄い物音が部屋中に響いた。


「……いててて」


 前のめりにベッドに倒れた頼が顔を起こす。

 自分が牧島の上に覆いかぶさる形で倒れていたと気付くのに時間はかからなかった。


「……あ」


 身体は抱き合うように密着していた。彼女の両腕を掴んでいたが、これは無自覚だった。下半身のスカートは捲れ上がり、頼もズボンがずれ下がっている。

 もはや袋閉じどころではなかった。


「ま、またっ! ごめんっ!」


 一刻も早くこの状況から抜け出さなければ思い、離れようとしたが、そんな彼を今度は牧島の手が掴み返す。


「……牧島さん?」

「やるわね」


 そう言ったと同時に、牧島は頼の手首を捻じ曲げる。痛みで力が抜けた途端、自分の体重を利用して頼を横に転倒させた。


「……えっ?」


 何が起こったのか分からず、呆けたように目をぱちくりする頼。

 そんな彼を、今度は牧島が馬乗りになって上から見下ろしていた。


「これで形勢逆転」

「いや……逆転って」


 今の君は、ズボンが膝下までずり落ちている僕の上にまたがっているんですけど。それを自覚してほしくて、視線を向けるが、彼女には頼を異性だと意識していないのか、まるで気になっていないようだった。

 ひとまずこの状況から早く脱しなければ。そう考えた頼は強引に腰をくねらせようとした。しかし僅かに体勢を動かしたその瞬間、太ももに鋭い痛みが走った。


「痛っ!」


 身体がピクンと跳ね、苦痛に顔が歪む。その様子を見て、彼女は即座に頼から離れ、「どうしたの?」と訊ねた。


「いや……何か刺さったみたいな痛みが」


 身体を起こし、痛みの箇所を確認する。

 すると太ももの裏側から側面にかけて細い切り傷があるのを見つけた。


「……原因はこいつか」


 シーツの上にハサミが無防備に転がっていた。破り置かれた袋とじと合わせて手に取ると、さりげなく立ち上がり机の引き出しに入れる。


「危ないわね。ベッドにどうしてハサミを?」

「……ま、まあそれは色々と事情が……」頼は牧島と距離を取りながら、ゆっくりとズボンのチャックを閉める。

 謝るべきなのか、謝ってもらうべきなのか、少し考えたが、結局何も言わないことにした。そして元の話題に戻す。


「そんなことより戦士科の人たち、今日街に行っているみたいだから急に呼ばれても帰って来れないと思うよ」

「いいの」牧島が携帯を取り出す。「訓練生で呼ばれているのは私とあなたを含めたほんの少数だけ。本部からの臨時招集よ」

「本部だって? 君だけだったらともかく、どうして僕まで」

「正確に言えば、ランクA以上の戦士全員に対しての招集。だから名指しであなたが呼ばれている訳じゃない」

「ランク……訓練生も本当に呼ばれているの?」

「ええ、儚志徹博士そう言っていたから間違いないわ」



  

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