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T.T.O.T.T  作者: むこーむこ
2nd development:No man is free from egotism or a taint of syphilis
18/41

18 Invisible wall-見えない壁-

 

 何も見えない暗闇の中を、僕は駆け抜ける。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 時折、すれ違うのは見たことのある残像。瀞井、村尾君といった戦士科の訓練生に、研究科時代のクラスメイト。下駄箱で僕に手を差し伸べてくれたあの男子もそこにはいた。


「おい、どこに行くんだよ」

「お前はこっち側だろ」


 みんな僕の足を止めようとするけれど、どの手も僕の身体をすり抜けてしまって、届かない。

 そして僕自身も、そこに留まるつもりはなかった。


「違う。僕は君たちとは違う。僕はSランクなんだ。あの向井豪の息子なんだ……だから」

「頼っ!」

「……純一郎君」


 僕の行く先に立って両手を広げている大きな身体。

 その腕は僕を抱きしめようとしているのか、それともこれ以上先に進むのを阻止しようとしているのか。


「俺達、仲間だろう!」

「……くっ」


 純一郎君の言葉を振り切って、僕は加速する。

 彼の身体を突き抜け、なお深い闇の方へと、早く、早く。

 どうしてこんなに急いでいるのか、自分でも分からないぐらいに。


「はぁ……はぁ……」


 やがて、向こう側に二つの白い光が見えはじめる。

 光に追いつこうと僕は更に加速する。

 近付くにつれ、それは人の姿に形を変えた。


「やあ、君もついにここまで来たんだね」

「……梢」


 光の一つは梢だった。


「……どうせ長くはもたないでしょうけど」


 牧島さんがつぶやく。


「私はそうは思わないよ。頼さんはいつかきっと私たちに追いつきます。そう信じてますからっ」

「買い被り過ぎ。いくらあなたのステディだからって」

「ステディってあなた何時代のホモサピエンスなのですかね」

「……ふん」


 言い合いをする二人の背中から離されまいと懸命に足を動かす。

 その内、梢が少し歩を緩めた。


「頼さん、頑張りましょう」

「梢……うん。僕嬉しいよ。やっと君に追いつけた」

「当然ですよ。私も頼さんも選ばれるべき人間なのです」

「選ばれるべき……人間」

「それは違う」


 少し先を走っている牧島さんが言う。


「あなたたちではあの人の元には絶対にたどり着けない」

「そんなこと……きゃっ!」

「うわっ!」


 突然、僕らは後ろに吹き飛ばされる。

それは見えない壁にぶつかったような、そんな衝撃だった。


「……何だ、今のは」


 上半身を起こした僕を、牧島さんが見下ろしていた。


「あなたたちはここまで」

「そんな訳……あっ、梢!」


 梢は僕の真横に倒れていた。

 すぐに抱き起そうとしたけれど、僕の手は彼女の身体をすり抜けるばかりで触れることができない。

 それどころか、彼女の身体は少しずつ黒ずんでいき、地面の闇の中へずぶずぶと沈んでいく。


「梢っ、行くな! まだ僕は、君を追い付いてすら……」

「何してんだ、頼」

「……父さん」


 父さんが牧島の横に立っていた。


「あの……梢が」

「そんなことはどうでもいい」

「どうでもいいって、どうして」

「黙ってさっさとこっちに来い」

「だけれど壁が……」

「壁? フッ、また訳の分からないことを」

「父さんには見えないの? ほら、ここに壁が」


 見えない壁を叩き、その存在を伝える。

 しかし、父さんは疑う目で僕を見るだけだった。


「……もういい。こっちに来るつもりがねえなら知らん。どこにでも勝手に行っちまえ」

「行っちまえってそんな、僕には居場所なんて」

「豪」その時、牧島さんが父さんの腕に抱き着いた。「行きましょう。私たちの子どもはこんな無能な弱虫じゃない」

「……そうだな」

「本当の私たちの子どもは」顔を赤らめ、自分の腹部をさする。「ここにいる」

「……はっ、何だよそれ。父さん、牧島さんに何を」

「うるせえ。お前なんてもう俺の息子でも何でもねえ。行くぞ。千鶴」

「はい、あなた……」


 そうして二人は、僕に背中を向け、歩き出す。


「まっ、待ってよ父さん! 父さんっ!」


 父さんの姿が遠ざかり、白い光に変わっていく。

 闇に呑まれるように光が小さくなっていく様が、僕には怖くてたまらなかった。


「父さんっ! 僕は父さんの息子だ!」骨が砕けるぐらい壁を叩きながら、あらん限りの声で叫んだ。「Sランクなんだ! ちょっと道を間違えてそのせいで今はこんな所にいるけれど、でも近い将来、僕はきっと強くなれる! 頑張るから! ……だから」


 ふらふらと膝を崩し、地面に両手を付いた。

 目尻から落下する液体が闇の地面に吸い込まれていく。

 顔を上げることはもうできそうもなかった。


「僕を……僕の方を見て」

 

 

 

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