11 Roof electronic monument-屋上の電子慰霊碑-
十一階の屋上フロアは、まるでジャングルに迷い込んだかのような景色だった。
「……へえ、屋上の様子も研究棟と同じなんだ」
頼が嬉しそうにつぶやき、そばに生えていた木の表面に手を当てる。手首の辺りに歪んだ光の粒が当たり、見上げると、天井を覆うビニールハウスが日の光を反射して輝いていた。
ガーデンと呼ばれているその空間は、イグサイズに籍を置く者にとっての憩いの場だった。屋上に土を運び、東西様々な植物樹木がそこに植えられている。
鳥の鳴き声がした。
頼は目を閉じ、大きく息を吸い込む。
「……気持ちいいな」
周囲に漂う花の香りに一瞬、ここに来た用も忘れ、安らかな気分に身を浸す。
「アハハッ」
向こうのベンチから聞こえる楽しそうな笑い声。その声で頼は自分の用事を思い出し、思い出し、中央へと進んだ。
通路を進んだ先にはブロックを積み上げてできた小さなほこらがある。フロアに幾筋も刻まれた溝には水が流れ、そのせせらぎが一か所に合流し、頼の眼前に巨大な人工池を作っていた。
「ここの造りも同じ……あっ」
人工池の前にある石板型の電子慰霊碑。
そこに堂壁はいた。
「……よくここだと分かったな」
「何言ってるの。自分でそう言ったじゃないか」
「そうか」
頼は俯き加減のまま、慰霊碑の表面のディスプレイをちらりと見る。
画面はまるで履歴書のような構成で、右上に顔写真がある。
それは頼の知っている顔だった。つい先月までクラスメイトだった研究生。掲示板の前で頼の評価を笑った不良の一人だった。
「それって」
頼は驚いた。慰霊碑に登録されるのは戦士ばかりだと思っていた。
「もう出番なのか」
堂壁は慰霊碑のことには触れなかった。それは意図的のように思えた。だからこそ頼はそこに触れることはせず、「最初の人は三分ぐらいで終わって、今は二番目の人が戦っている」と答えた。
「やけに早いが、負けたのか?」
「ううん。勝ったよ。かなり格下の相手だったみたい」
「ああ、腰抜け系か。早いわけだ」
「腰抜け系……」
少し気まずそうな表情を見せる頼。
堂壁はエレベーターに向かって歩き出す。
しかし頼が付いてくる気配がなかったので振り返った。
「来ないのか?」
「……これってここで死んだ人は全員載るのかな」
「ああ。載っているはずだ」
「そっか……」
「……見ていくか」
「いや、行くよ」
「……いいのか?」
頼が頷くのを見て、堂壁は視線を正面に戻した。
エレベーターの扉が開く。
二人は無言で乗り込んだ。
「……僕にはまだ信じられないんだ」
再び口を開いたのはエレベーターが下降をはじめてしばらくしてからのことだった。