夢と現実、存在する価値
その緩やかな残像があたしの目に焦げ付いて網膜を焼いた。あたしの目の前で、倒れた、その体を。
夢と現実、存在する価値
どこかよそよそしさを感じさせる病室の白、それから生気の抜けた彩りを欠く肌の白、それとは打って変わって持ち主とは対照的なまでに生き生きと咲き誇る花弁の白。この部屋は白ばっかりだ。壁も、カーテンも、着るものも、そこにいる人たちだって、みんなみんなみんな。あたしはその白が憎くて、けれど不安を掻き立てるようなその色にすがるように、じっと頭を下げていた。しばらくするとさっきのお医者さんがやってきて、白い椅子を指差して、穏やかな声であたしに呼びかけた。「座っていて良いですよ」それにあたしは弱弱しく頷いて、そっとちいさな椅子に腰掛けた。手のひらをぎゅっと膝の上で重ね合わせて握り締めて、それから目を覚まさないお兄ちゃんの顔を一瞥して、また膝の上に視線を戻した。お医者さんはすこしふっくら太った恰幅のよさげなお腹の上にある銀色の(なんだったのかな、確か、心臓の音を聴く道具?)を手にとって、お兄ちゃんの薄く上下する胸に押し当てた。ふむ、と意味ありげに呟いた言葉があたしに突き刺さる。もしかして、駄、目?駄目なの、駄目だったの?とはやる気持ちがあたしの胸に冷たく冷たく押し当てられて、まるであたしが心音を計られてるみたいだった。数秒、ぽん、ぽんと場所を変えて動かされた、たしか聴音器とか言うその道具。それをお医者さんはお兄ちゃんの体から離して、それからあたしに向かってすこし微笑んだ。「大丈夫ですよ」その言葉にどんなにあたしが救われたことか。お兄ちゃんの顔をまじまじと見つめて、それからそのお医者さんの顔を見つめて、あたしはその胸に嵌められた金字プレートの文字に初めて気づいた。しらいし りょういちろう、とひらがなで11個の文字が慎ましく躍っていた。きっとちいさな子供を担当しているに違いない、もしくは目の衰えた老人かもしれない。そんなふうに気遣われた文字だった。あたしはそのプレートから目を上げて、恐る恐るしらいし先生に尋ねようと口を開いた。けれどもその口はただ開いたばっかりで、目的を果たすための声が出てくれないのだ。ぱくぱく、ぱくぱくとあたしが酸欠の金魚みたいに口を開け閉めしていたら、先生はそれよりも先に唇を開けて喋ってくれた。
「お兄さんは大丈夫ですよ。命に別状はありません。ただちょっと疲れがたまっていたということと、それから熱射病の脱水症状が出ているだけです」
「ねっしゃ、びょう?」
「ええ。暑くて暑くてたまらないと汗が出るでしょう。そんなときに水分を取らないと体のなかの水が足りなくなって脱水症状を起こすんですよ」
「じゃあ、お兄ちゃんは死んだりしないの?」
「しませんとも」
今はね、と口の中で呟かれた言葉をあたしは敏感に感じ取って、がばっと立ち上がってお医者さんを真っ向から見上げて、必死に枯れた声で叫んだ。
「今は!?じゃあお兄ちゃんは、お兄ちゃんは、」
「菅原さん、落ち着いて。此処は病院ですよ」
「あ・・・・・・」
周りを見れば、仕切られたカーテンの隙間越しに他の患者たちがうろんげにこちらを見ているのに気が付いた。あたしはすこし反省して、それからちいさな声でもう一度先生に尋ねた。
「いまは、って、どうゆうことなんですか・・・・?」
「今回は無事に病院に運ばれたから大事には至りませんでしたが、これ以降また同じような環境で働いていたら、また熱射病にかかる可能性が高いのです。これからはきっちりと気を付けて、仕事を少し休んだほうがいいでしょう」
「しごとを・・・・やすむ・・・・」
「仕事場のほうには私が連絡しておきましょう。労働基準法に触れますよ、と脅しておきますから大丈夫です。だから今は安心して、お兄さんの世話をしてあげてください」
ここは涼しいですしね、とわざと茶化すように明るい口調で言うと、お医者さんはあたしに背を向けて立ち去ろうとした。それを追いすがってその白い裾を掴んで、驚いて振り返る先生に恐る恐る問いかけた。情けないと思うのだけれど、けれどこれだけは気になる。だって、あたしたちにはもうお父さんもお母さんも、いないのだから。
「あの、その・・・・お金は・・・・・」
「ああ、大丈夫ですよ。私たちも子供からはお金をせしめようだなんて思ってませんから」
「ありがとう、ございます・・・・・」
涙ながらに呟いたあたしの頭の上に、大きな手のひらが被せられた。何かと思ってみれば、それは先生の右手で、あたしがそれにまじまじと見入ると先生はぱっと花開くかのように拳を開いて、中のピンク色の愛らしい包装紙に包まれた小粒の何かを差し出した。思わず受け取ってみれば、それは外国語で何かを書かれたキャンディだった。先生は優しく微笑んで、「あげましょう。落ち着きますよ」とあたしの頭を撫でてくれた。嬉しかった。涙腺が緩むのを感じながらも、それでもあたしはまっすぐに先生の瞳を見て、「ありがとうございます」と繰り返した。御礼と挨拶は大切なのよ、といつだったかあたしに教えてくれたお母さんの影をそこに見た。嬉しかったし、・・・・ともかく嬉しかったので、あたしはなけなしの笑顔で微笑んだ。先生はひとつ頷いて、それから振り向いて病室を出て行った。ばたん、と白い扉が閉じられると同時にあたしは肩の力を抜いて、はあ、と椅子につっぷした。気が抜けた感じがした。
「おにい、ちゃん」
呟けば随分と疲労したあたしの声が耳にはいった。情けないなあ、と思いながらも、あたしはそっとお兄ちゃんの白い管を通した手のひらを掴んだ。やわらかくて、けれどもやっぱり男の人だと思える大きな手が、ぬくもりをささやかにあたしに分けてくれた。それに安心しながらも、あたしはお兄ちゃんの手をより一層強く両手で握り締めた。まるで、そうすれば返事が返ってくるとでも思っているかのような、懇願するかのようなそれに気づきながらも、あたしはそれを止めないでいた。ざわざわ、かつての軍の放送ではない自由な放送のテレビ、それからカーテン越しに伝わってくる同室の兵士さんたちの話し声が不思議と一致したBGMのようにあたしたちを包んで、日常の最中に置いてきぼりにされていた。寂しいのか安堵したのか分からなかったけれど、ともかくお兄ちゃんは無事なんだから、とあたしは自分を勇気付けるようにぐっと拳を握って、だいじょうぶ、と口の中で呟いた。だいじょうぶ。優奈はいい子だから。だいじょうぶ、優奈は心配しなくっても大丈夫。お兄ちゃんは、もう何処にもいったりなんかしない。そう思いこんで、あたしはあの衝撃を思い出した。お兄ちゃんが、くず折れる瞬間を。かつての第三次世界大戦で、銃撃された兵士たちをいっぱい見てきた。あの無言の瞬間を、あたしはきっと一生忘れられないだろう。あの、声にも出せない恐怖。一瞬にして何もかもが奪われてしまう恐怖。まるで、あの日お父さんとお母さんを見送った日の誰もいない家の暗さを思い出させるような辛さ。失うだなんて思ってもいなかった、ずっとこのしあわせが続くと思ってた。なのに。なのに、現実は残酷で残酷で、あたしとお兄ちゃんから二人を奪い、飼い猫のリンを奪い、おじいちゃんも、親戚も、友達も奪い、それから最後にあたしの心を奪っていった。えぐるかのように歪んだ先っぽのナイフで切られたような、痛覚に富んだ思い出を残しながら。
あたしは握り締めた手のひらの指を一本一本ゆっくりと開いて、その中にある暖かなピンクを覗き込んだ。ころころと手に優しい触感を残すそれはきっと味もやさしい甘さなんだろう。あたしはその裏が銀色になっているキャンディの包み紙をそっと広げながら、その中身を見た。銀紙の色に相応しく可愛らしい赤、ピンクの色をしたまあるいつやつやの飴。それを口に放り込めば、甘い、とろけるようなしあわせな味が口いっぱいに伝染した。その優しさを嬉しく思いながらも、あたしは、お兄ちゃんが倒れたときのことを思い出すことにした。
――お兄ちゃんがバイトを増やすことになったのは、この初夏の事だった。戦争がようやく終わって、ばらばらに崩れた建物の撤去、それから建築の作業員が必要になったということで、その人員募集がかかったのだ。お兄ちゃんはこれ幸いにと、夜は機械工場、昼は土木建築の仕事を重複して行うことになった。お兄ちゃんはろくに寝てもいなかった。たまにあたしがお弁当を渡しながら大丈夫かと尋ねても、お兄ちゃんはいつでも変わらず同じ言葉をあたしに掛けてみせた。
「大丈夫だよ。優奈はなんにも心配するなよ」
するよ、するんだよ、ばかばかばか。ばかお兄ちゃん。あたしはいつだって心配だったんだよ。だって、知ってる、分かってるもの。あたしの所為でお兄ちゃんはこんなにまで働き詰めになってるんだってこと、理解してるもの。お兄ちゃんはいつだってあたしをかばってあたしの為に生きてきた。今までずっとそうだった。お兄ちゃんは欲しいものがあったって我慢したし、行きたかった学校にだって行けなくった。それでもお兄ちゃんはあたしを責めることもなく、あたしに向かって微笑んで、あたしを抱きしめてくれていた。だから、あたしは気づかなかったのかもしれない。此処最近お兄ちゃんが特に無理をしていたのだということを。お兄ちゃんは帽子を持っていなかったから、きっとこの真夏の直射日光を浴びて辛かったはずだ。そうして、水も飲まずに働いて働いて、この結果だ。あたしは酷い罪悪感とそれからあたしの存在の邪魔さを嫌というほど脳内で反復して繰り返して、酷い自己嫌悪を嵐を吹かせていた。そうすると見る見るうちにあたしのろくに機能もしない目頭はきゅうっとあつくなるものだから、あたしはぎゅっと目を瞑って、あるいは真上を向いて瞬きをしきりにしないと零れ落ちてしまいそうなその雫をずっと押さえ込んで、喉の嗚咽を押しつぶしてそれに耐えた。
「お兄ちゃん、ごめんね。・・・・・ごめん、ね」
そう呟けば、あたしの罪悪感も一気に増して波のようにあたしの心をゆらゆら揺らした。まるで風吹く切り立った崖の上にいるみたいだ、それはあんまりにも危なっかしくてか弱い位置であって、けれども一歩も退く場所の無い不安定な場所。あたしはその謝罪の言葉に全てをかけて、心の底から謝った。謝ったからって何か変わるわけなんかじゃなかったけれど、それでもあたしは謝った。そうすれば、また、「気にするなよ」って優しい言葉をかけてもらえるんじゃないかって浅ましくも期待して。ああ、馬鹿みたい、ううん、馬鹿だ。あたしは馬鹿なこども、お兄ちゃんはその被害者。あたしっていう重りさえなければ、お兄ちゃんは何処にだて羽ばたけていけたはずなのに。・・・はず、だったのに。
あたしはもう一度、お荷物でしかないあたしの立場を考え直すこととした。あたしはお兄ちゃんのおまけみたいな存在なのに、そのくせお兄ちゃんよりも消費だとかお金を使わせてる。あたしをどうにかしなくっちゃ、あたしの所為でお兄ちゃんは苦労してるんだと思ったら、ほんとうに、辛くて、胸を刺しぬかれたみたいに冷たい痛みが何度も何度も心臓に合わせるかのようにあたしの心をざくざくに切り刻んで地面に放った。病院の効きすぎたクーラーがやけに凍えるように寒くて、気がつけば鳥肌さえ立っていた。あたしは長袖だっていうのに。あたしは目を閉じて、願うように祈るように何処とも知れない神様にお願いした。あたしはもうお兄ちゃんの脚を引っ張りたくない。せめて働いて、お兄ちゃんを助けたい。 その気持ちであたしのちいさな胸はいっぱいになって苦しくて苦しくて、それでもあたしは願った。そう、何かしたかった。何でもいいから、あたしはお兄ちゃんを助けたくて。あたしはお兄ちゃんのポケットから仕事の連絡用にと支給されたちっぽけな携帯電話を取り出した。それから、カーテンでこちらが見えないのをいいことに、あたしはその場で電話をかけようとそのスイッチを押した。
「ぜろ・・・・ろく・・・・・きゅう、の・・・」
プルプルプル。コールの音さえもどかしく、あたしは気をせぎながらその携帯にぴったりと耳を当てて、工事現場の監督さんが出るのを待った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ん・・・・・・?」
ふわりと重たい頭が覚醒しようと動き出して、俺はそっと眩しい光に辟易しながらも目を開けた。するとその瞬間目に入ったのは最愛の妹の姿であり、優奈は俺を見て息が詰まったかのように沈黙して、それから泣き笑いのように微笑んだ。きっと泣き顔を見せたくなかったんだろう。優奈、と呼びかけてやれば、途端にその表情は崩れて見る見るうちに顔は紅潮して、目から今にも涙が零れそうだってくらいの表情を浮かべた。お兄ちゃん、と涙声で俺の手を握る妹の白いちいさな手のひらをぼんやりと眺めながらも、俺はどうしてこうなったのか、という経緯を頭の中で辿った。たしか今日は昼過ぎまで急ピッチでの仕事を行っていて、喉が急に渇いたと思ったら、いきなり視界が暗転して。
「お兄ちゃん、仕事ちゅうにねっちゅうしょうでたおれたんだよ。・・・だいじょうぶ・・・?」
「ああ。大丈夫だよ。優奈、心配するな」
魔法の言葉みたいに、俺はずっとこの言葉を繰り返し繰り返し使っている。そうすれば、きっと優奈も安心してくれるのではないか、そんな思いを込めたその言葉は、いつだって同じように優奈の表情を緩ませた。けれど今回はどうにも違うようで、優奈はその言葉に幼い顔を歪めて、それからお兄ちゃん、と苦い声で口を開いた。
「どこがだいじょうぶなの?」
「ぇ、」
「どこがだいじょうぶだっていうの。いつも、いつも、あたしにはだいじょうぶだいじょうぶって言ってばっかりで、!ほんとうはお兄ちゃんはだいじょうぶなんかじゃなかったんでしょ!?いつもいつもそうやってあたしをだまして!言ってよ、だいじょうぶなんかじゃないって!あたしに、すこしくらい頼ってくれたって、・・・・っ」
後半は涙でもう聞き取れなかったその言葉に。堰を切ったようにあふれ出す優奈のその言葉に、ぐっと胸が締め付けられた。気づかれていた。大丈夫大丈夫だといい続けて、それでも隠し切れなかった疲労だとか、黒く固まった暗い思い出だとか、そういったものを隠していたのを、優奈は気づいていたんだ。もう何もいえない俺に向かって、優奈はとうとうぽろぽろと涙を振り落としながらも、必死に言い募った。
「だって、あたしが、あたしばっかりお兄ちゃんの負担になって!いつもいつもあたしの所為でお兄ちゃんは苦労ばっかりしてる!あたしだって働きたくてお兄ちゃんの工事現場に電話してみたけど、子供だからって断られた!あたしが、子供で、女の子じゃなかったら、お兄ちゃんを困らせることなんて無かった、のに。あたしはお兄ちゃんの邪魔ばっかりしてる。あたしが、あたしさえいなければ、お兄ちゃんは苦労なんてしなかったのに・・・・・!!」
その切り裂くような悲痛な悲鳴に、俺はぐっと唇を噛締めて、それから震え嘆く優奈の肩をそっと、けれど強く抱いた。ひくひくと嗚咽を漏らして零れていく涙が病院のシーツに染み込んで、まあるい灰色の染みを描いていく。俺はそのちいさな、頼りない肩を抱き寄せて、その栗色の頭をやさしく撫でた。そうすればまた一層に涙が浮かんでシーツに沈む。俺は出来る限りの優しさを以って、妹に語りかけた。
「お前は俺の負担になんかなってないよ」
その言葉は限りなく本当で。本当にそう思っているからこそ臆面もなく言える言葉だった。だって、ほんとうだ。ほんとうに、俺はそう思っているのだから。言葉を続ける俺の顔を涙に濡れた妹が見上げる。可哀相に歪められたその目元の涙をそっと親指でぬぐって、俺は力いっぱいに優奈を抱きしめた。ちいさくて、儚くて、けれどしっかりしたその優しい重みと体温が染み込むように俺の体を伝わっていった。ああ、生きているんだ。そう確認できた。なにもかも失って、それでもこの暖かさだけは俺を支えてくれた。この暖かさだけが、俺の生きる理由、生き甲斐だっていうのに。
「俺はな、優奈の為に働いてる。けど、優奈の所為で働いてるんじゃなくって、優奈が大切だからそうしてるんだ。やらされてるんじゃない、負担になってるんじゃない、お前が此処にいてくれているから俺はこうして働けるんだ。お前がいなきゃ、俺はもう働く意味も、生きてく意味だってないんだ。お前だけが、俺の大切な家族なんだから。だから、無理なんかしてない。確かに疲れているときだってあったけど、それでも優奈の顔を見ればしあわせな気分になれたよ。お前は、俺のたったひとつの生き甲斐なんだよ。だから、・・・・だから、そんなこと、言うな。俺はお前が何よりも大切なんだ。お前はお前であればいいんだ。働かなくたって、なんだって、お荷物なんかじゃない。お前は俺の宝物みたいなものなんだよ。だから、お前といれてしあわせなんだ。・・・・・・・ほら、泣くなよ。せっかく母さんが可愛く産んでくれたってのに、それじゃあ台無しだぞ」
「お兄ちゃんは・・・・・あたしが、邪魔じゃない?」
「ばか。邪魔なわけあるか!むしろ、ずっと傍にいて欲しいよ。優奈。だからもうそんなこと考えなくたっていいんだ。お前はただそこにいるだけで俺を癒してくれるんだから」
「うん・・・・・・・、うん。あり、がとう・・・・・・・」
はらはら、開いた妹の手から可愛いしあわせそうなピンク色の銀紙がひらりと白い床に舞った。俺は抱きついてくるそのぬくもりに深く安堵しながらも、その背中に腕を回して思いっきりその形を確かめるかのように抱きしめた。ああ、あたたかい。父さん、母さんがくれたいつかのあの暖かさにそっくりな酷くせつないぬくもりの味。それを噛締めながらも、俺は口を閉じた。もう言葉はいらなかった。ただ、このぬくもりさえ存在してくれているのならば、それで構わないと俺は魂の底から思った。それから目を閉じた。やさしいしあわせの匂いが漂う昔の記憶をなぞらうように、ただ、俺は黙って、その体を抱きしめることだけに専念をするのだった。