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始まりは 5年目 5.5

十義が何を知っていたのか気になる…と言う事で。

今回もこの方にお願いします(* ̄∇ ̄)ノ


 今日は夜桜2日目。

 客を桜と月明かりの下で持て成し、酒や舞や音楽を楽しむ夜。


「朱禾様、今日は月が綺麗ですね」

「そうだなぁ。でも貴女の方が月より綺麗で桜より可憐だ」

「まぁ!」


 だが、吉原の外という開放的な場所にいても接客心は忘れてはいけない。夜桜を楽しむのは客であって、俺達では無いのだ。桜や月に耽ってたら、これただの外出だからな。もう遊男でもなんでも無いからな。



「でも桜は本当に綺麗ですわ」


 今いる場所は江戸の桜丘。

 おやじさまが前々から許可を地主にとってあり、堂々と場所を占拠させてもらっている。だからどんなに桜が綺麗に咲き誇っていても、俺達以外に此処に来ている者は誰もいない。完全に天月の貸切りだ。はっはっは。


 …げふん、げふん。

 各々の遊男と客の席は決まっており、そこから歩く事はあまり出来ない。

 立って桜を眺める事は出来るが、その場から離れてはいけない。

 万が一遊男が逃げ出したら面倒な事になりかねないからだ。

 一応見張り人はいるが、遊男の数の方が少し多いので、完全には見きれない。

 ご苦労な事である。



 ちなみに花魁は普通の遊男とは少し離れた場所にいる。何故なら花魁は普通の客からしたら滅多にお目に掛かれない人。そして普通の遊男より倍のお金を払わなければ中々会えない奇跡の人なのだ。

 そんな人がふっつーの客の近くにいたら、まぁ、どうなるかは察して頂きたい。


 そんな神的な扱いの花魁だが、嫌がらせなのか何かのか。俺が一番花魁の兄ィさん達に近い場所にいる。

 その距離、ざっと1間。(約1.8m)



「羅紋様、これをどーぞ?お口を開けて下さい」

「ん、ありがとうな淕。…ほら、俺もやってやるから口開けな」


「宇治野さん。私今日の為に、この桜の簪を買ったのよ。似合う?」

「とても綺麗ですよ。似合いますが、橋架の方が綺麗なので桜が負けてしまいそうです。だからもっと近くに来て良く見せてください」


「私と月と桜、清水様はどれが1番綺麗だと思うのかしら?」

「うーん、君が1番と言った方が良いのかな?」

「そんな、」

「冗談だよ、聞かなくても分かって欲しいなぁ。どれが1番かなんて。それに1番の物は他の2つと比べても全然比にならない位に愛しくて綺麗な物なんだよ。なんだか分かる?雪野」


 俺の後ろで繰り広げられる甘い甘い言葉の嵐。

 俺の客にもきっと聞こえているだろうから、羨ましがられたらと気が気ではない。

 胃が重くて重くてしょーがない。あー。


「朱禾様…あの」

「?どうした?」


 凄い目をギュっと瞑っている。

 なんだ、どーした。やっぱり花魁の方が良いとかか。

 …自分で言ってて悲しくなってくる。


「やっぱ…」

「あの!…私は、朱禾様が一番ですから‼ね!覚えておいてください!」


 ちょっ、涙が出るわ。



―――――――――――――――――

――――――――――――――

―――――――………



 そして丑三つ時になる前に宴が終り。

 客を先に帰らせ、俺達はまた大名行列並みの珍列で帰ろうとするこの時。

 俺は花魁の兄ィさん達に捕まっていた。


「ねぇ朱禾。桜の枝って折っても大丈夫だと思う?」

「はい?…え、ダメに決まってますよ」

「ほらな、言っただろ。3人とも、これが普通の意見だ。野菊も桜の枝なんか折られて持って来られたら色々気に病むぞ。…お前ら、本当アイツの事になると常識が欠けてくるよな」


 これ何の話してんだ。


「聞いてくれよ。こいつら花魁は籠で運ばれるだろ?そんとき丁度おやじさまの家の前通るらしいんだが、運び人に頼んで野菊の部屋のある庭の塀からよ、桜と文を投げ込んで貰うつもり何だぜ」


 十義さんは後片付け要員でもあるため、まだ出発前の俺達遊男と混じって話している。

 本当違和感無いなこの人。

 …て、違う違う。それより後片付けしてくださいよ。


 ん…いや、ちょっと待て。と言うか何て言った今。

 野菊へ桜と文を届ける?外から?

 ヤバイだろそれ。規則違反で仕置きされるかもしれないんだぞ。馬鹿じゃないのか。



 ところで、ここで出てくる『仕置き』とは、主に吉原内での浮気者に対する制裁行為の事である。


 まず浮気の例をあげてみよう。

 もし天月であったら清水兄ィさんの馴染みである雪野さんが羅紋兄ィさんを買ったとする。

 はい、これ。これです。

 これがもう浮気行為となるんです。

 一つの妓楼では「この人!」と決めた一人しか買ってはいけない。他の妓楼で男を買うのは構わないが、同じ所で他の人を買うのはご法度、手を出すのもダメ。それを犯した女には『仕置き』と言う罰が待っている。


 女の髪をまずは切り落とし、冷水や汚水を掛けたり、着物をビリビリに引き裂いて床に転げさせる。イカスミとかを顔にぶちまけたり、吉原内を半裸か裸にして引きずり回したりするのだ。残酷だとは思うが、それが此処の規則。吉原公認の仕置きだ。

 手をくだすのは禿や新造達。兄ィさんの為に『この恨み、晴らしてくれるわぁ‼』と必死で仕置きをするのだ。

…恐ろしい。



 そんな仕置きを規則違反を犯した者にも与えられると言うのに、『そんなのへでもねーし。』みたいな顔をしている花魁の兄ィさん達は一体何物なのか。


「私は私だよ」


…俺は声を出していない。怖い。


「バレたら罰則の仕置きさせられんぞ?やめとけよ」


 十義さんがどうにかして止めようとしているが、果たして聞く耳を持つだろうか。


「あぁ、ならこの桜草はどうかな」

「良いと思いますよ」

「野菊にぴったりだろうな」


 持っていなかった。


 …しかし桜草か。

 兄ィさん達も中々洒落た事をするものだ。確かに野菊には合っている。

 どうやら俺が色々と回想している内に、地面に咲いているのを見つけたようだ。


「本当は一緒に見たかったんだけどね」

「あ、俺はおやじさまの庭の桜の木で野菊と花見したぜ」


 おぉぉい十義ぃ‼


「…へぇ」


 ドスっ‼ メリメリ…


 さっ桜の木がぁああ‼

 桜の木が痛手を‼

 そ、そのめり込んでいる所から流れている血は何の血だ。

 桜か?桜の血なのか?

 それとも閻魔様の血になられるのか!



「清水、今日は俺にまかせろ」


 ベシンッ

 バシンッ

 ベチィィッ



「ぉっう゛、…おいっ!平手打ちはねーだろ‼」

「手のひら痛てぇー」


 両頬が真っ赤に腫れ上がった十義さんは若干涙目になっている。

 最後の『ベチィィッ』て音がした平手打ちの攻撃は確かに相当痛そうな音だった。

 それを見て笑っている花魁の3人にはもはや何も言えまい。と言うか最初から何も言えない。


「ったく、俺の方が痛てぇーよ。大体な、運び人が了解しなきゃそもそも始まらなねぇだろ、それ」

「あぁ。それなら俺に任せてください。得意なんです、そう言うのは」


 十義さんの発言を聞いた宇治野兄ィさんが静かに言った。

 そして颯爽と運び人の所へ行く宇治野兄ィさんの背中には、やけに頼もしい光と黒い禍々しい気配が張り付いている。


 自分達の方へと寄ってくる宇治野兄ィさんに、籠の近くで準備をしている運び人達がビクビクしだす。

 兄ィさんの背中しか見えて無いから俺には分からないが、何か身の危険を悟る様な物が真正面から運び人へと向かい溢れ出ているのだろう。

 …なんかちょっと面白かった。←(こいつも大概)



 話終わったのか、此方へ戻って来る宇治野兄ィさん。

 顔は晴々としている……成し遂げたのか。


「了解を頂きましたよ」

「宇治野は流石だね」


 チラリと籠の方を見ると、運び人がさっきよりもなんか凛々しくなっている。

 え、凛々しくなっている!?

 何か凄ぇ目がキラキラしてんだけど‼なんだあれ。

 凄ぇやる気に満ちてそうなんだけど。


「是非にとも言われましたので」


 マジ何言ったんだろう。






●●●●●●●●●●●


「じゃあこれを」

「了解ッス!」


 楼主の家の塀近くになり、清水が差し出した桜草と文を受けとる運び人。

 狙いを定めて野菊のいる塀の向こう側へと思いきり投げ入れる。


 シュッ、ポトッ


 見事に向こう側へ落ちたようだ。

 運び人も一仕事終えたような、たいへん満足そうな顔をしている。あとは野菊がちゃんと花と文を見つけてくれるかが問題だ。



 {ザクッザッザッ}


 すると誰かの歩く音が塀の奥から聞こえる。


「よし、行きます」

「あ、待っ」


「よィっせ!よィっせ!」


 運び人によって段々塀から遠ざかっていく籠に乗った清水。


「あの足音…」


 確信は無いものの。

 それでも胸の奥が微かに疼くような感覚に、自然と目が閉じ口角があがったのは、今宵の月も誰も知らない此処だけの秘密。


『野菊のいる部屋の所、何で分かったんですか』

『十義さんにさりげなく聞くと良いよ。あの人ベラベラ喋るから』


あー。

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