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向陽の目の前で起きた光景はとても衝撃的な映像だ。普段スーパーとかで肉を見る事はある。ただそれは既に生き物から加工された肉としてである。だから『生き物』が『肉』になる瞬間を生で感じるのが今回は初めてだった。
「向陽大丈夫か?顔色が髪の色みたいに残念になって来てるぞ」
トーラの言葉通り。向陽の顔色は目の前の惨劇を見てから悪化する一方だ。
「いや…あの…大丈夫っす。ちょっと匂いが…あと中身…」
まだまだフレッシュな肉はまだまだ腐る事はない。しかしその代わりに濃厚の血の匂いが一帯に充満している。
「あまり無理をするな。それにすぐにこいつらは消える」
「…え?なにを――」
顔に疑問符を貼りつけた向陽だが、その意味を実感する。先程まで目の前にいた獣のなれの果てが、綺麗な光の粒子となって消えて行くのだ。そう光景は美しいと感じてしまう……。
「トーラさんこれは?」
「魂の浄化、私達はそう呼んでいる。具体的な理由は分からない。ただ魔獣となってしまった生物の魂が、魔より浄化され正しき場所へ還っていく。その願いも込めて浄化という」
浄化されていく魔獣達の場所に石のようなものだけが残る。
「そして浄化された魂から切り離され、現世に残るのがこの魔石だ。一応これを回収して店に持って行けば回収してくれる。――が、君にそんな情報は必要ないね」
今起きた現象について簡単に説明したトーラは魔石を拾い集め終えると、手近にあった枯れたた太い枝手に取った。
「これはちょうどいい」
魔石の回収のついでに拾った鉈で太い枝からざっくりと杖くらいの長さの棒を切りだした。
「向陽持っていると良い。何もないよりきっとマシだろうからね」
出来あがった棒を向陽に投げる。
「え?、わ!」
突然投げ渡されたものだから取り損ねそうになるが、何とか掴み取って見せた。
「それじゃあ行こう。それなら武器にも杖にもなる。先に進むのも楽になる」
「え?ちょっと待って下さいトーラさん!」
さっさと先に進んで行くトーラの背中を向陽は追いかけた。
「ここがキエフの泉ですか?」
「そう。ここが目的地の泉だ」
アレから十数分歩いた所に泉があった。全行程にすればスタートして九十分ほどの道程。鳥人である向陽がこの場所をしっかり把握すれば、空から大幅なショートカットでここに来ることができるだろう。
「それにしてもこれが泉なんですね」
「そうだ。こう見えても上が自然のろ過装置になっている。そのろ過水がこの泉に溜まるのだ」
「そんなんですか……」
「どうした?」
「なんか思っていたのと違ってて」
「そうなのか?」
今二人の目の前にあるキエフの泉、断崖絶壁のような岩の壁の一部が丸く浮かび上がっていて、その先にある鍾乳石のような円錐状の岩の先から流れ落ちている。そこから落ちた水が集まり泉を作っている。水自体はとても綺麗で、それほど深くない泉の底がしっかりと視認できる程の透明度を誇っていた。
「泉っていうから、こうなんか地下水が懇々と湧き出てるみたいなのを想像してました」
「なるほど。そう言う訳か。まぁそれを考えていたのなら的外れであったかもな」
カカと笑いながらトーラは靴を脱ぐ。上に来ていた上着を脱ぐとそのまま一糸纏わぬ姿になった。
「さぁ水を取りに行くぞ」
さらにどこから取り出したのかポリタンクが四つ用意され、それを持ってトーラは泉の中に入っていく。
「ちょ!と、と、トーラさん何で全部脱いでんですか!?」
「何でと言われてもな。この泉において一番綺麗な水はあそこに見える岩の先から流れ落ちる水だ。そこまで行くのに服を着ていたら濡れてしまうだろう」
ずんずんと泉の中にポリタンクを持って進んでいくトーラのお尻は白くとても美しい。触ればきっとふにふにとしているのかなと妄想してしまう。だが同時にトーラのお尻に見えたのは真っ白な兎の尻尾だ。トーラはウサギ族のヒマである。服を着ていた時の外見でそう判断できたのはウサギの耳があったから。その他にも色々とここが異世界であるという事を感じていたが、さらにこんな光景を見て改めてここは異世界なんだと向陽は感じていた。
「どうした?向陽はこちらに来ないのか?」
「いやいやいや、そんな気にならないんですか?」
「何がだ?」
「…いや。もういいっす」
すでに腰まで泉に浸かり魅力的だったお尻は見えなくなっていたが、今のやり取りで今度はトーラのたわわなに育った二つの果実を拝見してしまう。
「――?。じゃあ悪いが私の服が持って行かれないようにそこで待っていてくれ」
そこまで分かりやすく反応してくれると女冥利に尽きるしからかいがいあったと思いつつ、向陽に対してのちょっとしたかイタズラが成功したことを見えないようにトーラは笑った。
「さて帰り支度も済んだことだしそろそろ行くか」
キエフの湧水をいっぱいに満たしたポリタンクは合計四つ。向陽とトーラが一人二つずつ持って行く。
「そ、そうですね」
「どうした?まだ顔が赤いようだが…そんなに気に入ってくれたのか?」
「なんてこと言うんですか!?初対面だからってなにしたって良いって訳時ないですよ!それにトーラさんは女性なんですから、もっとおしとやかとかは言いませんけど、せめて恥らいくらいは持ってください!」
「なんだ私の肢体は舐めまわしたというのに……感想がそれだけとは……女としてそれは酷く傷付くな」
「ちょっと待って下さいよそんな人様に誤解を生むような発言止めて下さい!誰が舐めまわしたんですか!?」
「それはもちろん向陽、君だよ。あんなにねっとりとした視線。あれはもう舌でねぶられているのと同意だよ」
「そんな風には見てないですよ!」
「おや?そうなのかい。その割には顔が真っ赤だが…それで私の身体を見ていないと言いはれるかな?」
「もう!はやく行きますよ!」
トーラを置いてズンズンと先に進んでいく向陽。トーラがそっちじゃないよと言うつもりでいたが、悔しい事に向かうべき方向は全く間違いではなかった。
――少しからかいが過ぎたか…。そうトーラは胸の内で反省をした。
「おいおい、いくら君より強いからといって置いて行かないでくれ。これでも私はうら若い女なんだから」
向陽の背中に投げかけた声は、受け止められる事は無く素通り。本格的に拗ねらせたとさらに反省し、小さくなっていく背中を追いかける事にした。