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 向陽はトーラの言葉の意味が理解できなかったが納得はした。ここは異世界である。その言葉に裏切りはない。理由はある。このマンションから見える光景もそうだ。しかしそれ以上にトーラの姿が雄弁に、この世界が自分の居た世界を否定した。

「トーラさんその姿は…?」

 向陽が見たトーラの姿。それは先ほどの姿に一か所大きく違う物があった。それは黒くて長い大きな耳。もっと詳しく言うならウサ耳だ。

「そりゃ私は黒ウサギだからな。どうだい?結構立派なもんだろう」

 カカと笑う姿は先ほど同様にとても絵になる。そして絵になりすぎるその姿はあまりに出来すぎなため、逆に偽物ではないかと疑ってしまう。しかしトーラから生えている耳は耳だ。ふわふわのした触感なんだろうというのが見ただけで分かる、黒い兎耳。近寄って触れたい。そんな衝動が向陽にこみあげてくるが、

「ちなみにお触りは厳禁だからな」

 トーラに機先を制されてしまい、途中まで伸ばされていた向陽腕は所在を失い宙をさ迷う。

「まぁとりあえず私の事も不思議に思うだろうが、自分の姿にも目を向けてみてはどうだ?」

 そう言われたところでこの場に鏡があるわけでもない。どうしたものかと思った向陽だが、自分の制服の中にあるスマホの存在を思い出した。ポケットを探りスマホを取りだす。スマホのカメラ機能を起動させる、そこからフロントカメラに切り替え自分の『今』の姿を映させた。

「え!はぁっ!?」

 向陽の姿はいつもの制服にいつもの顔。ただ髪の色だけは大きく違うものになっている。向陽の髪色は普段漆黒だ。向陽が通う学校の校則では髪の染色は禁止されている。ただそれが面白い事に黒を推奨されているわけではない。あくまで『地毛』の色とされているのだ。その為かそこそこ黒髪ではない生徒数が存在する。どうやら過去に交換留学生を受け入れた時に一悶着あったらしく、それが向陽の通う学校の校則が一部変更されるきっかけになったらしいのだが、今は関係のない話である。

「う~ん緑か……そんな生き物いたかな?」

「あの……それはどういう意味ですか?それも気になるんですけどジュボネってどういうことですか?」

「あ~~~、ごめんごめん。その説明もまだだったね。それじゃあこの世界。『ジュボネ』について話していこうか」



 ジュボネ。それはこの世界の総称である。この世界の住人は獣人である。種族はおおまかに分類し三つ。まずは海や川、水の中を拠点に活動をする魚人。次に陸上で生活する、獣人と鳥人だ。獣人と鳥人の違いはざっくり分けるなら空を飛べるか飛べないかである。しかし鳥人の中には空を飛べないものもいる。同様に魚人の中にも泳げない魚人も存在する。この理由はジュボネに住まう獣人が二つのタイプに分けられる為にある。

 この二つのタイプの違いは簡単だ。獣人の姿が、より人に近いのか、より獣に近いのか。その違いだ。そして人に近いものを『ヒマ』、獣に近いものを『アマ』という。

 ここにトーラを当てはめると、トーラは獣人ウサギ族のヒマと分けられる事になる。そして向陽の場合、?人?族のヒマとなる。

 そしてこの世界の時間は向陽がいた世界とほとんど同じ時間が流れているらしい。一年も同様だ。言語についても問題なく使えるらしい。そこについては向陽も疑問に感じたが、自分の体の変化からそういう風に何かが変化しているのだと勝手に納得する事にしていた。

 


「まあこの他にも色々と細かい違いはあるのだが、今知っておけばいいのはこれくらいだな」

「そうなんですか。もっといろいろ聞きたい事があるんだけど」

「別にそれを教えるのは構わないが…今日それを話していたら、ここに来た目的が果たせなくなりそうでね」

「……あ!」

「なんだ忘れていたのか」

 再びカカとトーラは笑う。

「いやいやいや。流石にこんなことが待っているなんて想像してませんでしたよ!」

「それが原因でそこが完全に抜けてしまった、と」

「その通りです…」

「確かにそう言われてしまえば納得するしかないな。まぁ辰ばぁも意地が悪いからね」

 また笑うトーラを見て向陽が何かを諦めたように息をついた。

「それよりもだ。辰ばぁの依頼を始める前に確認をすることがある」

 先ほどまで笑っていた顔が引き締まる。細く鋭くなった眦が事の重要性を感じさせた。

「向陽。君が何者なのかを確認しなければいけない」

「それは僕が何族であるかということですか?」

「その通り」

 向陽は先ほど聞いた内容を思い出す。そして自分がこの世界――ジュボネにおいて何者であるのか。それをはっきりさせておくべきという事は自分でも考えていたことだった。

「辰ばぁの依頼。これには多少なりとも危険が付きまとう。それは間違いがない。その危険を少しでも回避、軽減させるためには君が何者であるかを知らなければいけない」

 向陽は首肯し先を促す。

「先ほど話さなかった事があるが、その一つに種族の特性というのがある。簡単にいうなら個人の特殊能力だ」

「…特殊能力」

「そうだ。私でいえばこの耳。ウサギ族は音に敏感である事が多い。そして私の場合だが音に敏感であると同時に危機回避能力が他のものより優れていると自負している」

トーラは向陽を指さし、

「しかし向陽。君の姿は一体何になっているのか?地球での姿とほとんど変わらない所を見ると、君はおそらくヒマに分類されるのだろう」

 言われた内容には納得する。さっきの説明でいえば向陽はヒマである事は間違いない。変化があったというと自分の髪色だ。元々といっても生まれた時から髪色をいじった事が無い向陽は、日本人特有の黒々とした髪色だった。それがジュボネに来てからは何故か緑色になってしまったのだ。これは自分の種族の由来に何か関係しているはずだと考えるのは当然だ。

「トーラさん質問いいですか?」

「なんだい?」

「ジュボネの世界にいる動物っていうのは、俺達の世界に居ないようなのもいるんですよね?」

「それは幻想種の事を言ってるのかな?」

「やっぱりそんなのがいるんですね。さっきの話では出てきてないですよ」

「む、そうだったか?」

「そうですよ。出てないですよ」

「そうかそれはすまなかった」

「ちなみにその幻想種ってやつが俺の種族って可能性はあります?」

「それはあるかもしれないが…まぁ微々たるものだろう。もしそうであればとっくに私が気付いている」

「そんなもんですか?」

「そんなものだよ。だからこその幻想種なんだ。それより向陽はどうしてそんな事を思ったんだ?」

 トーラに問われた向陽は真っすぐに思った事を言う。

「思った事があったんです。とりあえず俺の世界にいるような動物が元になっているとした時、緑色をした動物って何がいるんだろうって。そしたら俺が知ってる中で緑の体の身体のっているかなって」

「ほう」

「それでパッと思いつくものがなくて、それで思ったんです。もしかしたら現実にいない動物とかあり得るんじゃないかって」

「なるほど。しかしだからと言って向陽が幻想種になると言うのは、少々答えを急ぎ過ぎていると思う」

「そうですけど…」

 トーラの答え向陽はむくれてしまった。その様子にトーラも少し言いすぎたかと思ったが、これは向陽が動物に付いて知らないだけだと決めつけた。そして少し悩んでからトーラは一つ思い至る事があった。

「向陽。一つ試してみたいのだが、どうだろう?」

「それって自分が何であるか確かめられるんですか?」

「確証はないがね、やって見るだけ損は無いと思うよ」

 しかしそんなトーラの言葉では納得できなかったのか向陽の機嫌は戻る事は無い。

「で、何をしたらいいんですか?」

「簡単な事だ」

 指を立てて向陽に向けて突き出す。

「全力で跳んで見てくれ」

「え…?」

「分からなかったのかい?仕方がない、もう一度言うよ。その場で今すぐ空に向かって跳ぶんだ」

向陽がキョトンとした顔をしたのを見たトーラが良い笑顔で告げる。

「さっさと跳べ!」

「はい!」

 トーラに言われるがままに足に力を溜めた解放した向陽は驚きのあまりにただただ叫ぶ事になった。

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