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本物の異世界

 基地に無事戻った洋介たちは、他のチームも集まっているということで、会議室に向かった。到着すると、すでに何人もの人が集まっていた。この会議室は、チームの交流に使われていたので、十分な広さがあった。洋介もここで何度か他のメンツと顔を合わせたことがある。


(何か全く見たこともない人もいるなあ)


 別に基地にいるすべてと交流してはいないが、ここにいれば何かとすれ違ったりして、見かけたことぐらいはあるはずだ。だが何人か、そのような記憶すらないプレイヤーもいた。不審には思ったものの、記憶力が特別すぐれているわけでもなし、ひとまず置いておくことにした。


「皆、よく集まってくれた。私はチーム『シュヴァルツ』のリーダー、ガイストだ」


 そう言って前に出てきたのは、壮年の男だった。ガイストといえば名うてのプレイヤーであり、この基地の最年長なのはよく知られていた。

 だが彼の名前を聞いたものは少なくない驚きを覚えた。なぜなら、その男は顔だちこそガイストであったが、髪の色が金色ではなく銀に光っていたからだ。彼が金色の髪を自慢にしていたのは、金色のライオンという彼の乗機のエンブレムからも知られていたことだ。それが変わっていたのだから、むしろ驚くなというのが無理な話であった。


「……見てわかると思うが、私の髪の色が変わっている。気づいたのは、全員経験したあの光から目を覚ました時だ。そしてこれは、私の現実世界での姿だ」

「ど、どういうことですか、それ。もしかして見慣れない人がいるのは……」


 明日葉の質問にガイストは深くうなづいた。


「思っている通り、顔や体格に至るまで、皆現実世界でのものに戻っているらしい」

「そんなことが……」


 うめくように明日葉が声を漏らす。

 その横で洋介は自分のチームを再確認する。リーダーの明日葉ことヘイローの他に、自分の妹である笠原藍カサハラ・アイことアール、金髪ロングでアメリカプレイヤーのベネフィー、銀髪ショートでクール系のカリス。洋介のチームは皆現実世界に似たキャラメイクをしていたようで、多少身長が違ったりもしたが、ほとんどゲームの時と変わっていなかった。


「また、もう知っていると思うがメニュー画面が出てこない。そのため現状ログアウトどころか、フレンド登録した人間にメッセージを送ることすらできん。連絡したいことがあったら当人に直接伝えるか、あるいはこの会議室のボードにメモを張ってくれ」


 ガイストの主導で次々と取り決めがされる。そのまま流されそうだったので、口をはさんだ。


「あの、耐久値がモニターから無くなったことはいいんですか?」

「ん、耐久値か。その報告は私のチームメイトからもあったな……。よし、情報収集は続けるとして、その情報はファイルにまとめてこの部屋に置くなりして、共有できるようにするか」


 こうして方針は決まった。

 まずゲームとしての特徴が完全に消えていること、その詳細と原因を調べるため、持ち回りで周辺の捜索をする。並行してほかのチームや運営、そしてAWで彼らが所属していることになっている三大勢力の一つ、「ユレジア」と連絡を取り続ける。


「とにかく情報が足りない、みんなで協力して当たろう。くれぐれもうかつに行動するなよ」


 時間も遅くなってきたこともあり、その日はひとまずそれで解散となった。洋介たちも基地内に設けられたマイルームに戻り休息を取った。



 一夜明けて、もう一度洋全員が集まる。一晩のうちにわかったことを伝えるためだ。

 まずわかったことは生理的な欲求、すなわち食欲や睡眠欲、排泄欲求等に至るまでその場にいた全員が感じていたということだ。これにより、ログアウトできるまで現実世界と同じように生活できる基盤を作る必要ができた。とはいえトイレや厨房はあるし、食料も豊富にあることは確認できていたので、対応は十分可能だった。ガイストの指示で一部の人間がそちらに廻される。

 残りは大したことはわかっていなかったので、そのままゲーム内に閉じ込められてから二日目の生活が始まった。


 洋介、もといこの世界ではヨガサは探索班に入れられていた。今日は愛用の旧式機ではなく、不足の事態があっても備えられるように、予備の新型フレーム機体を使うことになっていた。他の班員も各自の格納庫に向かう中、ヨガサも予備機のもとに歩いていく。

 流線型でまとめられ、ツインアイの自分の機体を見て、やはり旧式機の方が好みだと思いながら乗りこむ。感覚的な操作ができるように、コクピットにある疑似神経ケーブルと頭を覆うヘルメットを接続しようとする。異変はその時起きた。


「おごっ」


 突然ヨガサを襲う吐き気。立ちくらみの時のような、地面が揺れ動く感覚に胃の内容物がせりあがってくる。そして頭痛だ。頭蓋骨をガリガリと削られているかのような、すさまじい激痛が脳みそをかき回す。

 痛みと気持ち悪さの中で、なんとか手探りでケーブルの接続部を探り当てると、一気に引っこ抜いた。すると徐々に頭痛と吐き気が収まっていき、気分も若干回復する。


『どうした、ヨガサ』


 ヘルメット内臓の通信機から、ヘイローの声が聞こえてくる。彼も今日の探索班に入っていたのだ。


「なんか、疑似神経つなげたら、いきなり気持ち悪くなって。今、外したら楽になった」

『大丈夫か? とりあえずガイストに連絡しとくぞ』

「頼む」


 まだ苦しげながらどうにか返事をする。そして一旦操縦席から出ることにした。足がまだふらついており、連絡路の手すりにつかまりながらロッカールームまで戻った。

 その後ガイストから連絡があり、ヨガサは今日の探索班から外れて、内部の仕事を手伝うようにという指示が来た。




「……本当にそんな理由で?」

「いろいろ考えたが、今のところそうとしか思えん」


 夜、外に出たTAAFが調査を終えて帰還し、今は夕食を終えたところだった。

 ヨガサがなぜか自分の機体に乗れなかったことは皆に伝わっていた。そんな中、ガイストに一人呼び出され、その原因らしきものを言われた。


「探索班や他の者にも一応それぞれ自分の使っている新型機に乗ってもらったが、お前のような反応をする人間はいなかった。違うところはほとんどないのにな」

「俺が唯一違ったところといえば、光に包まれた時にただ一人旧式機体に搭乗していたこと、か」


 考えられるのはそれしかなかった。もちろんスキルやプレイヤーとしてのレベルも考えたのだが、それならば洋介より下なのに問題ないプレイヤーがいるし、奇妙だった。


「つまりあれか、俺が新型に乗ったことがあるかどうかにかかわらず。光の時点で旧型の機体に乗っていたために、新型に乗るための手術を受けていない人間、下手をすれば手術の適性すらない人間に変わったっていうことか」

「その可能性が一番高い」


 沈黙が下りる。つまり、この基地でヨガサただ一人が、この先ハンデを負うはめになったのだ。眉間に手を当て思い悩む。そしてガイストは、続けてこうも言った。


「それと、お前には先に言っておいたほうがいいだろうが……」

「まだ何かあるのか」

「ああ、今日の探索チームの報告から判断するに、私たちはどうも本物の『Armed World』にいるらしい」

「……それはどういう」

「仮想現実の世界ではなく、ゲームとまったく同じ異世界にいるということだ。お前も考えはしたんじゃないか?」


 確かにヨガサもまったく想定していなかったわけではない。ゲームの時にはなかった生理反応があること、HPというゲームとしての数値がなかったこと、ほかにも仮想現実だけではありえない数々の思い当たる節があった。

 しかし、異世界というのはあまりにも荒唐無稽すぎた話で、判断から外していたのだ。


「ちなみにその理由は?」

「ゲームでは破壊不能オブジェクトや透過するオブジェクトがあったが、それらがことごとく現実世界と同じ仕様になっている。また風や砂塵が明らかにオーバースペックなレベルで再現されている」

「……本当ならとんでもない話だ」

「詳しいことは明日、またみなを集めて言うつもりだったが、お前に必要な情報だと思ってな」


 そういわれて一瞬頭をひねったが、言いたいことの見当がついた。


「現実と同じなら、ゲームのときと違って機体が破壊されれば、そのまま死亡がありえる。そして今その可能性が最も高いのが俺、っていうことか」

「ああ」


 思わず天を仰ぐ。死ぬ可能性がお前だけ高いといわれたのだから当然だ。

 ヨガサは二言三言ガイストと言葉を交わすと、暗鬱な気持ちで自室に戻りベッドにもぐりこんだ。


(このベッドもゲームではただのアクセサリだったのにな)


 ここは異世界で、現実かもしれない。その考えが頭の中をしばらくぐるぐるしていた。




 あけて翌日、光の一件から三日目にして、ガイストから全員に、ここが仮想ではない現実の異世界の可能性があることを伝えられた。当然みなどよめき、中には違うのではないかと反対意見を述べるものもいた。しかし探索班の持ち帰った、仮想現実技術では到底説明のつかない映像を見せられ、その意見も押し黙った。

 今後は異世界の可能性が高いとしつつ、慎重に事を進めていくことが決められる。死亡についても、復活できるか試してみるわけにもいかず、とにかく死なないようにという方針となる。


「それともうひとつ、重要な連絡がある。昨夜われわれが所属する勢力『ユレジア』、そこと連絡がつながり、今日の昼にでも担当官がこちらに来るそうだ」

「な、なんていってたんだ?」


 会議室にいたメンバーの一人が尋ねる。


「彼らは『ユレジアの軍人としてわれわれを迎える用意がある』、と言っていたよ」


 状況が急変しようとしていた。

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