プロローグ
照りつける白い太陽と揺らぐ空気、そして一面に広がる赤い大地。時折吹く風が表面の土を運び、地面が海のごとく波打つ。
そんな中に一つ、全く似つかわしくない人工物があった。その人工物は、岩かげに隠れるようにして片膝をついている。
それは人の形をしていた。しかし全身は金属で覆われており、表面に人間のような曲面はほとんどなく、板金を継ぎ合わせたような複数の平面から成っている。腕も足も胴体も、ひどく機械的な印象を与え、まるで戦車が人型になったこうなるのではないかと、思わせる雰囲気がある。
そして何よりも特徴的なのは、頭だ。それの頭には目が一つしかついていない。左側頭部からはアンテナのようなものが出ている。よくよく見れば│一つ目≪モノアイ≫の正体は頭部に埋め込まれたカメラだ。装甲版にしっかりと囲まれながら、その人型の目とセンサー類はしっかり露出している。
人型の大きさは膝をついた状態で7、8メートル、直立すれば15メートルぐらいになるだろうものだ。全身は暗めの灰色のカラーリングがなされており、平面装甲が作りだす角ばったデザインと相まって、非常に無機質な雰囲気を漂わせる。違うところといえば黒い各関節と、頭部の赤いカメラぐらいだ。しかし、今は表面は砂やなにやらで薄汚れており、格好も相まって見る人によってはくたびれた金属のように感じるかもしれない。
そんな鉄の人型のつま先に腰を掛けている黒髪の男性が一人。年の頃は20代前半といったところか、火のくすぶる煙草を口にくわえている。服装はバイク乗りのような、あるいは宇宙服のような全身にフィットする服を着ている。おそらくはパイロットスーツなのだろう。
ふうと紫煙を吐き出す。
「なんでこんなことになったのかね」
彼はつい最近まで、こんな不毛の地とは縁もゆかりもなかった。そして自分が操る巨人も、あくまで仮想世界のものにすぎなかった。食べ物や水に困ることも、そして本当の意味で生身のまま操縦席に座ることなど、一生ないはずであった。
ところが今や食料も水も限られた状況で、当てもなく荒野を鉄の巨人にのって放浪していた。
「どう思うよ、ヴァルチャー」
太陽から身を守る影を作ってくれる、今唯一の相棒に語りかける。しかしあたり前だが、その相棒たる彼の機体が答えてくれることはない。馬鹿なことを聞いたと自嘲気味に煙を吐く。
そしてなぜこんな状況に陥ったのか、もう何度目になるかわからないが、回想をせずにはいられなかった。